今月、歯科医療界として注目するべき新書が出版された。
著者の長谷川嘉哉先生は、岐阜県土岐市において、歯科衛生士用チェアーがおかれた認知症クリニックを開業している認知症専門医師である。日本国の方向性を定める2018年の骨太の方針において「地域における医科歯科連携の構築」の推進が盛り込まれるなか、長谷川先生はクリニックレベルでの医科歯科連携の最前線に立たれており、WHITE CROSSでも今年5月に取材をさせていただいている。
医科歯科連携最前線 「医療の中の歯科医療は、歯科医療を拡大する」へ
書評の前に、まずはこちらの動画をご覧いただきたい。
出所: YouTube_『認知症専門医が教える! 脳の老化を止めたければ 歯を守りなさい!』(長谷川嘉哉/著)
なぜ、土岐内科クリニックに歯科衛生士用チェアーがあり、長谷川先生が "医療の中の歯科医療" を見出したのか。そして、"認知症クリニッック × 歯科医療" が、実際にどのような価値を患者さんに提供しているのかを知る事ができる。
書評 脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!
歯科医療界にとっての本書の価値は、実際に医科歯科連携を実践している医師が歯科医療の重要性について執筆したということにある。
高齢化が進む日本社会において、認知症は無視することができない深刻な社会問題となってきている。そして近年、口腔の全身健康への影響が注目され始めるなかで、これまで歯科が口を酸っぱくして社会に伝えようとし続けてきた口腔健康の大切さを、提供する医療の質を高めるためにより上流での予防を求めている医科が見出し始めている。
そして、医科が"歯科の価値"を情報発信しはじめた一つの証明が本書である。
また本書は、一般向けに書かれたものであり、医科から見た歯科医療の大切さが分かりやすく解説されている。
口腔の健康を保つことの意義、脳卒中・心筋梗塞・誤嚥性肺炎など全身への影響、具体的な歯磨き法や歯間ブラシの使い方までが余すところなく描かれている。
その上で、認知症専門医だからこその視点で、咀嚼刺激の脳への影響、患者にとっての心地よさを大切することの大切さ。そして、実際に歯科衛生士用チェアーを認知症クリニックにおいたことから始まった、医師としての新しい経験と気づきなどについても生々しく描かれている。
あなたもぜひ、髪を切りに行くのと同じくらいの気軽さで、2〜3ヶ月に1度、歯科の定期検診を受けてください。
「医科」の中の歯科が、これからの歯科医療を拡大します。
これからの時代において、どこよりも求められるのは「歯科」だと言えるでしょう。
高齢者の健康を守る基本を担うのは、誰よりもまず歯科衛生士さんだと思うからです。
歯科医療の大切さを伝える言葉に加えて、
歯科の先生方にも「歯科医療」と「認知症」とを結びつけて考えるという視点がまだ稀薄なのだな、と実感しています。
という、医科歯科連携における歯科への要望も盛り込まれている。
本書を読むことで、歯科医療従事者として歯科医院内という視座を超えて、医療の中の歯科医療が生む新しい価値について知り、今後の歯科医療のあり方を考えていく上で必要な視座を得ることができるのではなかろうか。また、その読みやすさから、歯科医院の待合室におくことで患者さんに手にとってもらい、口腔健康の大切さ、そして歯科検診の重要性などを理解いただけるのではなかろうか。
多くの学びが得られる良書であった。