感染拡大が急速に進み、今なお世界を震撼させる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。先般の緊急事態宣言下において、医療物資が不足する中、最前線で治療にあたる医師や看護師の姿は記憶に新しい。
その裏方で、新型コロナウイルス感染症の脅威に影響を受けながらも、同じ医療従事者として何かできることはないかと、勇気と知恵をしぼって取り組んだ四国の一例をご紹介したい。
現場では医療物資が不足している。ラボの3Dプリンタを夜間に稼働できないか?
きっかけは香川に本社を置く株式会社FOD(代表取締役社長 漆原譲治)の漆原氏の一言だったという。
同じく四国の徳島に本社を置く株式会社シケン(代表取締役社長 島隆寛)の経営陣は、漆原氏の提案に賛同。迅速に社内を取りまとめた。一方で漆原氏は、大阪大学で考案されたフェイスシールドのデータの使用許可を取得して生産体制に入ることができた。意思決定から初回の発送まで1週間というスピード感であったというから驚きだ。
生産現場インタビュー
今回のフェイスシールド生産担当部署であるデジタル技工部門のグループマネージャーを務める光宗浩氏にお話を伺った。
フェイスシールド生産担当部署であるデジタル技工部門のメンバー(中央が光宗氏)
ーー3Dプリンタについて教えてください
普段はデジタルスキャナーを活用して矯正用模型を製作したり、インレーやクラウン、クラスプの製作に活用しています。
1回のプリンティングに7〜8時間かかりますので、1回で複数生産できるように設計しました。
大阪大学考案の設計データを、効率よく生産できるようにカスタマイズ
ーー今回のフェイスシールド製作についてお聞かせください
当時、通常技工の受注も不安定になり、技工所内でも感染拡大防止策を打たなければならない状況ではありましたが、医療従事者のはしくれとして何かせねばという思いでした。幸い、3Dプリンタは夜には使用しませんので、退社前にスイッチを入れ、夜中稼働させ、翌朝に組み立てるという作業でした。生産にかかるコストは1,000円弱です。
フェイスシールドをプリンティングしている映像(1分12秒)
組み立て・梱包の上、発送する
完成したフェイスシールドを装着したところ
提供先医療機関について
漆原氏のアドバイスにより、まずは有病者や高齢者に接する機会が多いと思われる歯科大学附属病院へ、関東地区から無償提供を開始。最終的に、12の歯科大学に126個のフェイスシールドを提供したという。また、取引先歯科医院を中心に67個を提供(現在は休止)。
シールド素材選定などで協力いただいた阿部健一郎先生(高松市、株式会社FOD提供)
新型コロナウイルスの感染予防のために歯科においてもフェイスシールドの重要性が叫ばれている中、欠品状態が続いていたこともあり、大学からは丁寧なお礼状が届き、得意先からも多数の感謝の言葉をいただいたそうだ。
いずれも、感謝の言葉と共に「さっそく使ってみます」という言葉が添えられており、「微力ながらも社会貢献できたことに、こちらも感謝の気持ちが湧いてくる想いだった。歯科医療関係者として、少しでもお役に立てたことを有難く思っております」と光宗氏は話す。
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緊急事態宣言は解除されたものの、状況は予断を許さず、首都圏においてはやくも第2波が懸念される状況だ。しかしながら、人々は新しい社会様式に適応し始め、ノウハウを蓄積している。今回のような取り組みが全国に広がり、この国難と言える状況が打破されていくことを願う。
本件に関する問い合わせ先
■株式会社FODについて
歯科材料メーカーに勤務していた漆原氏が2012年に地元の香川で創業。
歯周病検査ソフトウエアの開発とペリオ分野のセミナー事業を運営。
■株式会社シケンについて
徳島県に本社を置く、全国有数の大規模ラボ
1975年創業
営業所数26/技工所数7/従業員数683名/3,300の顧客をもつ
TEL:0885-32-2000
https://www.shiken-jp.com/
執筆者
WHITE CROSS編集部
臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。