6月7日、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針2022)」が、経済財政諮問会議での答申を経て閣議決定された。「骨太の方針」は年末の予算編成に向けて、国の政策の基本的な方向性を示すもの。
歯科医療に大きく関わるところとしては、以下の記載がなされた。
全身の健康と口腔の健康に関する科学的根拠の集積と国民への適切な情報提供、生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)の具体的な検討、オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防につながる歯科専門職による口腔健康管理の充実、歯科医療職間・医科歯科連携を始めとする関係職種間・関係機関間の連携、歯科衛生士・歯科技工士の人材確保、歯科技工を含む歯科領域におけるICTの活用を推進し、歯科保健医療提供体制の構築と強化に取り組む。また、市場価格に左右されない歯科用材料の導入を推進する。
今回は、これまでの骨太方針の流れに加え、初めて「国民皆歯科健診」の具体的な検討を行う旨や、昨今の金属高騰への対策が明記された。
(参照:【独自取材】「国民皆歯科健診」が骨太原案に)
これを受け、日本歯科医師会は、翌8日に臨時記者会見を開催。
冒頭では、堀会長から以下の挨拶が述べられた。
本会は今般の新型コロナウイルス感染症に対峙しつつ、ウィズコロナ・ポストコロナ時代を見据え、「感染の防止対策としての口腔健康管理」といった具体的な政策提言を行ってきた。
また、20年後の人口減少問題等への対応を示す「2040 年を見据えた歯科ビジョン」を取りまとめ、生涯を通じた歯科健診法制化を含むさまざまな提言を行ってきた。
今回の「骨太の方針2022」は、これまで提言してきた内容のほぼすべてが反映され、歯科界が目指す「歯科医療と口腔健康管理の充実により、国民の健康寿命の延伸をはかり、働き手や支え手を増やすことで人口減少問題にも貢献する」との方向性を国が共有していることを高く評価するとともに、関係各位のご尽力に深く感謝したい。
冒頭挨拶を務める 公益社団法人日本歯科医師会会長 堀憲郎先生
質疑応答
Q .国民皆歯科健診は何年くらいで実現できる見通しがあるか
A .具体的な数値目標は現状存在しない。現在すでに企業や自治体などで歯科健診を行っている団体もあるため、それぞれの状況を精査し、どのような形が最適かを検討していく段階。
Q .早ければ3年あるいは5年など、関係者の中には具体的なイメージを持っている方もいるようだが、日本歯科医師会の見解はどうか
A .そのあたり(3〜5年)が一番近いのではと理解している。一方で、妊産婦健診や成人健診、高齢者健診など、現状担当窓口が違うため、すべてを統一制度化するとなると、相当な時間がかかると感じている。
Q .「国民“皆”歯科健診」とあるが、すべての年代で義務化されるのは難しいのでは?
「義務」にこだわるとなかなか議論が進みにくい、そこを一番心配している。我々としては、歯科健診を通じて少しでも全身の健康を増進させたいというのが本音。できるだけ多くの方に歯科受診の機会をもっていただき、健康を意識するきっかけになればと思っている。
義務化については、国民皆歯科健診に向けてさまざまな取り組みを行った後、さらに理解が進んだ後に、改めて議論すべき点だと考えており、現段階での義務化は時期尚早と感じている。
Q .歯科健診を行う人材や、健診後の適切なケアを行う歯科衛生士の確保はどのようにすべきか
A .歯科健診を行う人材は、現職の歯科医師が担当するため、現時点で人材不足は大きな課題ではないと考えている。
一方で歯科業界の人材不足は長年にわたる課題であり、歯科衛生士の人材確保については厚生労働省でも同様の議論がされているため、連携して進めていく予定。具体的には、専門学校や大学などの新規入学者を増やす事業、現在離職中の歯科医療従事者における復職支援事業を展開していく。
Q .地方では歯科医師不足の地域もあると思うが、実現のイメージはあるか
A .2040年ビジョンにも記載の通り、20年後は人口減少問題に加えて歯科医師の偏在は大きな課題となっていくことが予想される。今後はその点についても検討をはじめる必要があるが、ICT活用や医療機能の分化などを踏まえて実現を目指したい。
(参照:医療機能の分化・連携の経緯と外来機能の明確化・かかりつけ医機能の強化に向けた検討の進め方について-厚生労働省)
Q .歯科健診を受診する国民の費用負担はどうなっていくか
A .大変大きな課題であるが、現状企業健診などでは、労働組合などが負担しているところもある。今後、健診の仕組みと絡めて最適解を見つけていく予定。
Q .「国民皆歯科健診が医療費の総量を減らすことにつながる可能性」について言及されたが、エビデンスはあるか
A .直接的な因果関係は断言できないが、日本歯科総合研究機構実施のナショナルデータベースを用いた検証結果によると、若い時期からの歯科定期受診が生活習慣病などによる医療費増大の軽減に役立つ可能性は大いにあると言える。
(参照:20本以上歯がある人は医科の医療費が少なく、年齢が低いほど顕著-[いい歯は毎日を元気に]プロジェクト運営事務局)
Q .参院選とのかかわりについて
A .今回「骨太の方針2022」に盛り込まれた内容のほとんどは、過去5回の「骨太の方針」に続く、連続6回に盛り込まれているものであり、長年にわたる方向性と違わないもの。我々としては参院選との関連は特にないと考えている。
Q .「国民皆歯科健診」具体化には、制度化や法制化も必要とあるが、公益社団として医療政策を行う立場である日本歯科医師会は、今後どのように対応していくのか
歯科には同会(日本歯科医師会)の他に、政治活動を担う日本歯科医師連盟の二つの組織があり、双方の目的は「歯科を通じて全身の健康を増進させる」とまったく一緒である。
同会では政策提言を発表し、それについて政治的実行力を加えるのが日本歯科医師連盟の役割。現在は、その二つの団体に加え、歯科衛生士会や歯科技工士会、学会、産業など歯科に関わる団体が「オールデンタル」で実現に向けた取り組みを行っている。
日本歯科医師会臨時記者会見の様子
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今回の閣議決定を受け、解決すべき課題はまだまだあるものの、国民皆歯科健診の導入実現への大きな一歩が進んだ。
WHITE CROSSでは、当日の様子を公式YouTubeで公開中。ぜひご視聴いただきたい。
執筆者
WHITE CROSS編集部
臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。