・侮るなかれ!唾液力。唾液のもつ働き、特にIgAの知られざる作用とは? ・電動歯ブラシは唾液の量や質に影響を与える?最新の論文について徹底深掘り! |
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はじめに
日本唾液ケア研究会は日本唾液ケア科学会誌の2024年第1号にて、電動歯ブラシを用いることで、唾液の量や質を変化させる効果がある可能性について発表した1)。
この研究は、神奈川歯科大学歯学部高度先進臨床科学系高度先進歯周病学分野の清水智子先生と、神奈川歯科大学歯学部教育企画部の渕田慎也先生、神奈川歯科大学歯学部基礎歯科学系環境病理学分野の槻木恵一先生による共同研究。
今回は、唾液の働きについておさらいしつつ、この研究内容の詳細について、深掘りしていきたい。
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1)清水智子, 渕田慎也, 槻木恵一. 電動歯ブラシにおける唾液分泌促進効果についての探索的研究. 日本唾液ケア科学会誌 Vol.3, 8-11(2024).
侮るなかれ!唾液力。唾液のもつ働きとは?
唾液は99.5%が水分であるが、残りの0.5%にさまざまな有機成分や無機成分が含まれ、重要な役割を果たしているといわれている。
主な唾液の働きは、以下の7つである。
① 自浄作用
② 消化
③ 粘膜保護
④ 緩衝(う蝕予防)
⑤ 抗脱灰(ごく初期のう蝕病変の修復)
⑥ 抗菌・抗ウイルス(感染予防)
⑦ 傷を治す(10種類以上の成長因子)
特に抗菌・抗ウイルス作用をもつ粘膜抗体のIgAは、唾液中に多く含まれ、う蝕の罹患や上気道感染症のリスク軽減に関与するなど、唾液における感染防御の最上位の位置にある。
IgA抗体はう蝕予防もできる?!
2022年に福岡歯科大学が発表した論文2)では、唾液中のIgAの量が増えると、舌苔スコアが減少することが示された。すなわちIgAは舌苔の形成を抑制し、口腔内細菌の量を減少させる可能性が示唆されたのである。
また、2020年に発表されたメタ分析3)では、う蝕罹患患者の唾液中のIgA値は、健常者よりも有意に低かったことが示されている。
このように唾液には、今まで知られていなかったような作用がある可能性が年々明らかになってきており、多くの研究者が注目をしている。
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. 2020 Dec 8;40(12):BSR20203208. PMID: 33289514.
電動歯ブラシは唾液の量や質に影響を与える?
そして近年、ストレス社会やマスク生活などで唾液の分泌量の減少による口腔の健康維持への懸念が示されており、唾液量の増加に注目が集まっている。
唾液を増加させる方法としてさまざまなことが考案されているが、その一つとして「口腔内への刺激」が挙げられている。そして口腔内への刺激でもっとも身近なのはブラッシングであり、特に電動歯ブラシは、手用歯ブラシによるブラッシングと比較して、振動による刺激が歯周組織に加わることから、唾液の分泌量が増える可能性がある。しかし、これまでほとんど研究報告がなされてこなかった。
また、電動歯ブラシを用いることで唾液の質に変化が生じているかも依然として不明である。電動歯ブラシの使用によりIgAが増加すれば、質の良い唾液による自浄作用の促進も期待できる。
今回の研究では、電動歯ブラシを用いたブラッシングによって唾液分泌の促進と、唾液中の抗菌物質であるIgAの増加について調べることを目的に行われた。
音波式電動歯ブラシの使用によって、唾液量と唾液中のIgA濃度に変化があるかを検証
被験者は探索的な検討に必要な人数として、20代男性8名(平均年齢:27.1歳)とし、被験者の除外基準は、以下のうち一つでも該当した場合とした。
・歯科医院に通院中の者(歯周治療や歯列矯正など)
・欠損歯のある者
・電動歯ブラシを使用中の者
また、試験期間において歯磨剤等の口腔ケア製品の使用を避けることができることを必要条件とした。
電動歯ブラシはCuraden社製の「クラプロックス ハイドロソニック イージー音波式電動歯ブラシ」を使用。音波振動レベルは、22,000回・32,000回・42,000回振動/分の3パターンあるうちの22,000回を選択。ブラッシング回数は1日2回以上で回数を記録し、1回4分間(自動的に電源が切れる)で行った。
毎回、上下左右を4ヶ所に分け、左上からブラッシングを開始し、各ブロックにおいて1分間ブラッシングを実施(1分間を振動で知らせてくれる)。また、ブラッシング方法は毛先が歯と歯肉に対して斜め45度になるように歯ブラシを当てることを初回時に対面で指導した。
なお、唾液採取前の30分は飲食を禁止とした。
唾液は4分間吐唾法で、初回説明時に介入前の安静時唾液をコントロールとして採取。2回目の唾液採取は、振動を加えないで電動歯ブラシを用いてブラッシングしてもらい、1週間後に行った。3回目の唾液採取は、振動を加えて電動歯ブラシを用いてブラッシングしてもらい、さらに1週間後に行った。2回目および3回目は自宅で唾液採取を行い、郵送で神奈川歯科大学環境病理学分野へ送付してもらった。
唾液中のIgA濃度については、Human IgA ELISAQuantitation Kit(Bethyl Laboratories, Montgomery,TX, USA)を用いた酵素結合免疫吸着アッセイにより定量。最終的に自動マイクロプレートリーダー(BioRad, Hercules, CA, USA)を用いて450nmで吸光度を測定した。
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電動歯ブラシ群では唾液量が有意に増加
被験者のうち1名は、唾液採取が不完全であったため除外した(n=7)。
まず唾液量について、正規性の確認後に行った一元配置分散分析で有意差が認められた(P=0.001)。安静時唾液群の平均値は0.641mL/分、非電動歯ブラシ群は1.068mL/分、電動歯ブラシ群は1.109mL/分であり、対比較の結果、安静時唾液群と比較して、電動歯ブラシ群では唾液量が有意に増加していた(P=0.002)。
唾液分泌量(表は出典1より編集)
次にIgAについて、1分毎のIgA量に換算したIgA分泌速度を比較した。唾液量と同様に行った一元配置分散分析で有意差が認められなかった(P=0.819)。安静時唾液群の平均値は41.75μg/分、非電動歯ブラシ群は43.94μg/分、電動歯ブラシ群は50.85μg/分であり、有意水準は下回らないものの、電動歯ブラシ群での平均値は増加傾向を認めた。
IgA分泌速度(表は出典1より編集)
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今回の研究結果により、電動歯ブラシは清掃効果が高いだけでなく、唾液の量や質を変化させ、唾液的清掃作用に効果的な影響を与える可能性が示唆された。
しかし、非電動歯ブラシ群と電動歯ブラシ群では有意差が認められなかったことから、ブラッシングという刺激が電動の有無に関係なく、唾液の分泌を増加させることを示している。また、今回の音波振動レベルは22,000回振動/分のもっとも弱いモードで実施されたが、32,000回・42,000回振動/分のモードで研究を行った場合は、異なる結果が得られるかもしれない。
今後は、電動歯ブラシの当て方について唾液が分泌しやすい方法を検討することも必要と考えられているという。さらなる研究が進み、唾液量の減少に伴う口腔環境の悪化に悩む患者にとって、良いニュースが報じられることを期待したい。
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