医師が教える優しいフィジカルアセスメントvol.1 フィジカルアセスメントの基礎と考え方を学びたい!
この記事のポイント ・フィジカルアセスメントとその考え方とは? ・医科歯科連携において、フィジカルアセスメントの共有は最重要事項である。 ・より安全な歯科診療を行うために、フィジカルアセスメントは欠かせない。 |
はじめに
診察は、患者が診察室に入ってくる前から始まっている。
待合室で待っている時の体勢や、歩き出す時の一歩目から、その患者の病状を推測することができるのだ。
医科歯科連携の重要性が叫ばれている昨今において、歯科医師は口腔から全身のアセスメントを行うことが求められている。
だからこそ、診察前のバイタルサインの測定や、患者が急変した時に正しく対応する技術について、基礎から学んでいくことが重要である。
第1回は『フィジカルアセスメントの基礎と考え方を学びたい!』と題し、医師の考えを歯科医師に共有していきたい。
フィジカルアセスメントとは?
診察の前に問診票を入力してもらうということは、その段階で、患者の病状のきっかけを知ることつまり、すでに最初の診察をしているといえる。
歯科医師の皆さんは「フィジカルアセスメント」をご存じだろうか?
フィジカルアセスメントとは「患者への問診、視診、触診、打診、聴診などの身体的な診査を行って、患者の全身の状態を把握し、評価すること」である(図1)。
図1 患者に侵襲のないものから開始し、表の順番で行うことが推奨されている
例えば、人は夏場、汗をかくと脱水傾向から血圧が下がりやすい。反対に、気温が下がる冬は、血圧が上がりやすい。特に気温が下がる朝は、より血圧が上がってくる。もちろんこれには個人的な差が大きく、高血圧の患者全員が当てはまるわけではない。
また、汗をかく夏場は、脱水傾向から脈拍が早くなることがある。
このように、患者のフィジカルアセスメントやバイタルサインのデータを蓄積し「血圧が上がるかもしれない」「この患者さんは夏場、脱水から頻脈になったことがある」ということを心に留めながら歯科診療にあたっていただきたい。
もちろん、そんなことを考えなくても何ごともなく歯科診療は終了するだろう。
しかしその診療は、そういった心遣いをせずに行った時より、間違いなく丁寧で、仕上がりの素晴らしく美しい口腔になるに違いないのである。
歯科におけるフィジカルアセスメント
フィジカルアセスメントの方法・手順は、医科と歯科では大きく異なる。
図2 患者の口腔内の健康状態を評価し、適切な治療計画を立てる
歯科領域では、全身麻酔や静脈麻酔を用いて患者を鎮静させる場合の施術前のバイタルサインは非常に重要なフィジカルアセスメントの1つである。
通常の歯科診療においても、その患者の血圧や脈拍、体温、血中酸素濃度を知っておくことは、その後の歯科診療を安全に行う手助けになることに違いない。
例えば、手術前の血圧が100/50以下のような患者がいて、その患者の口腔内の診察を始めたときに、明らかに粘膜の色調が白く(それも視診と言えるフィジカルアセスメントの1つである)貧血を疑ったのだとする。このように、出血を伴うような処置をしなければいけないと判断した場合などは特に、事前に血液検査を行ってもらいたい。
逆に我々のような内科医が、頬部を痛がって来院された患者の診察をする時、上顎のう蝕によって、副鼻腔内に膿を形成していると診断することがある。この場合に医師が口腔内の視診をしても、その重症度を知る方法を持ちえていない。
医科歯科連携の重要性が叫ばれている昨今において、フィジカルアセスメントの共有はその入り口として入りやすいというだけでなく、むしろ最重要項目と言っても過言ではない。
医師が伝えたいフィジカルアセスメントの考え方とは?
歯科学が発展する現代において、より高度な治療を一般診療所でも行う時代となっている。そんな時代であるからこそ、口腔内の限られた領域における治療や使用する薬剤、器具が全身に影響を及ぼす可能性がある。
だからこそ、我々はフィジカルアセスメントを丁寧に行うべきと考えている。
我々は、患者の全身状態を丁寧に把握して、より安全な施術を心がけたい。そしてそのルーティンワークの中から患者のほんの小さな変化を読み取り、より重篤な疾患の予兆をいち早く発見する必要があると思われる。それにはフィジカルアセスメントが欠かせないのだ。
その日1日、その診察の30分〜1時間の血圧や脈拍といったバイタルサインには大きな変化がなく、一見その測定には何の意味も感じられないかもしれない。
ただしそのデータの積み重ねは、日々の歯科診療においてかけがえのない財産になるに違いない。
みなさんが担っている歯科診療は、口腔内のトラブルを抱えて患者を救うためにある。と同時に、美しい仕事を行ったことでしか得ることのできない充実感は、自らを救うためにもあるのだ。
変わることのないフィジカルアセスメントを丁寧にとり、自分の充実感を高めるために、患者に最大限の奉仕をして口腔内を美しく整えてもらいたい。
執筆者
髙橋 公一
医師・医学博士
みさと中央クリニック 理事長
埼玉県三郷市で、一般外来と訪問診療の両方を担う「ハイブリッドな」クリニックを経営。外来では1日100人以上、在宅では月に約1,000人の患者を診察し、小児から終末期の高齢者まで幅広く対応している。
特に、医療的ケアが必要な患者さんに対しては、患者さんとその家族の負担を軽減する取り組みを実施している。その一つとして、在宅や施設の患者さんが病院受診することなく胃ろうの交換ができるよう、ポータブルの内視鏡を用いて、訪問で胃ろうの交換を実施。2021年は、551件の胃ろう交換の実績をもつ。
記事へのコメント(0)