医療 × テクノロジー の分野では、日進月歩で新しいプロダクトやサービスが生み出されている。歯科医療 × テクロジー の発達も凄まじく、近年のデンタルショーでは光学印象、CAD/CAM、デジタルでの義歯設計など、新しいプロダクトが所せましと展示されている。(3Dプリンターの歯科医療への適用予測、光学印象機器マーケットの成長予測、日本デンタルショー東京 そして、世界のデンタルショー)
しかしながらその全てが歯科医療に取り込まれていくわけではなく、過去には期待されながらも消えていったテクノロジーもある。その一つが、グーグルグラスの歯科医療への適用である。
グーグルグラスはその名の通り、2012年にグーグルが発表し、開発を進めていたメガネ型のウェアラブルコンピュータである。音声で操作しながら、右目の上のモニターを通して、インターネットを始め様々な情報にアクセスできる。診療中に、グローブをつけた状態でカルテなどを触ることができない医療現場において、利便性の高いサポートツールになるのではないかと期待が寄せられていた。
実際に、米国ミシガン大学の研究チームや、スイスのIT企業であるHubSpider社などが歯科医療現場への適用を目指した開発を行い、2014年にはHubSpider社がコペンハーゲン大学歯学部におけるグーグルグラスの活用を発表した。その他にもAvient Implant SystemがGoogle Glassがインプラントオペでの活用される未来を描いた。歯科医療の未来を感じさせられ、わくわくするので是非ご覧になっていただきたい。
出典: YouTube Avinent Glass - Implantology for Google Glass
例えば、HubSplider社のプロモーションビデオでは、歯科医師がグーグルグラスを通して
・ 患者の来院情報
・ カルテ
・ X線写真
・ 口腔内写真の撮影
などにアクセスし、診療情報の入力も行っている。またグーグルグラスを通じて、次の患者の来院情報も飛び込んでくる。
この技術は、一見、歯科医療現場を革新するかに見えたが、歯科医療界に浸透することはなかった。
最大の原因は、人知れずビデオや写真を撮影できてしまうなどのプライバシーの問題や自動車運転中の使用の危険性の問題などから、米国内において使用規制がかかり、グーグルが2015年1月に一般向けの開発を中止したことにある。また、値段が1,500ドル(約16万5千円)もする割に、バッテリーの持ちが悪く、使用感も今一つだったことも挙げられる。現在でも企業や病院などのプロフェッショナル向けの開発・販売は検討されているとのことであるが、2016年11月現在、歯科医療領域における実用化につながる情報は得られなかった。
そもそも歯科医療情報をグーグルグラスを通して見る必要があったのだろうのか。オペ中のガイダンスは必要だったのだろうか。カルテにしても、X線写真のモニターへの表示にしても、アシスタントとの連携によるアナログな操作で十分対応できる範囲のものだったのではなかろうか。また、業務連絡などの通信機能などについても、歯科医院という小さな組織においては人と人の直接的な会話やメモのやりとりで十分対応できたものではなかろうか。
グーグルグラスの歯科医療への適用は、その開発の前提となる歯科医院のニーズについての仮説自体があまりにも脆弱なものだったように思える。将来的に同様のウェアラブルの性能や操作性が飛躍的に高まり歯科医療現場で活用されていく可能性は捨てきれないが、現段階では消えていった 歯科医療 × テクロジー に分類されるのではなかろうか。
執筆者
WHITE CROSS編集部
臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。