2018年9月19日、都内赤坂にて Beyond Borders Dental Association イブニングセミナー vol.2 が開催された。
今年4月に発足されたスタディーグループ Beyond Borders Dental Association(以下、BBDA)は、「海外研修をより身近なものにし、世界の様々な知識と技術を垣根なく学び合い交流を深める歯科医師・歯科従事者育成を目指す」という理念のもと、歯科界のトップランナーとして活躍するメンバー7名が理事として集結している。
その取り組みのひとつとして、平日夜19時半から行われているイブニングセミナー。
今回は第2回 林洋介先生(東京都開業)による『今さら聞けない!?Endodontic Microsurgery』をご紹介したい。
第2回となる今回、会場は満席であった。
今さら聞けない!?Endodontic Microsurgery
都内で開業するかたわら、東京医科歯科大学にて非常勤講師を務める林洋介先生。
林先生は冒頭、歯内療法について、師匠であるペンシルべニア大学教授 Syngcuk Kim先生の言葉を用いて語った。
顕微鏡により歯内療法の分野は、「盲目的」技術に依存しなければならない分野から、「視覚」に頼ることができる分野へと変わった
近年、自分の歯を残したいと考える患者さんが増えている。
林先生は、従来の手用ファイルを用いた歯内療法も、正しいプロトコルに則って行えば成功率は高いということに触れた上で、昨今の顕微鏡等の技術革新を挙げ、安易に抜歯する選択をとらないようにと述べた。
当日のスライドより(林洋介先生ご提供)
また、外科的歯内療法を選択する前に、非外科的歯内療法を考慮することの重要性をいくつかの論文を用いて解説。
非外科的歯内療法、外科的歯内療法、最終手段としての抜歯の中から、どれがもっとも患者利益につながるのか、症例の都度意思決定する必要があるという。
つづいてトピックは、今回のメインテーマである外科的歯内療法の一つ、マイクロサージェリーに移った。
以前の歯根端切除術は、根管の解剖学的構造などに関する専門性が考慮されず、口腔外科手術の一環として主に口腔外科医が行なっていたことも一因となり、歯科医師の間ですらその有用性が正しく認識されていなかったという。
しかし、手術用顕微鏡の登場により、治療箇所を可視化し、骨窩洞も最小限に抑えることができるようになった。
また、角度付きインスツルメントやレトロチップの開発により、患者さんだけでなく術者の負荷も軽減されるようになり、充填物もアマルガムからバイオセラミックスやMTAセメントといった材料に置き換わったことで、封鎖性の高い逆根管充填が可能となっている。
テクノロジーの進歩によりコンセプトが大きく変わった治療分野だと言っていいだろう。
インスツルメントの変遷を解説する林洋介先生
林先生は、歯内療法におけるマイクロサージェリーの注意点について、8つのポイントを挙げて語られた。
それは、①軟組織のマネージメント、②骨削除、③出血のコントロール、④ベベルと歯根端切除、⑤根切断面の観察、⑥イスムス、⑦逆根管窩洞形成、⑧逆根管充填だという。
例えば⑤の根切断面の観察においては、林先生が受講したペンシルべニア大学のインターナショナルレジデンシープログラムでは、100本の抜去歯を根管充填する実習がある。
充填後の根切断面を観察することで、いかに充填に漏れがあることがわかるという。なかなか見ることのできない研修風景やその事実に、受講生からは感嘆の声が漏れた。
当日のスライドより(林洋介先生ご提供)
最後に林先生は、外科的歯内療法を活用することで、抜歯しないで済む症例は多くあると語られた。
新しいコンセプトに基づくマイクロサージェリーの成功率は94%。
プロトコルをしっかりと守ることで、失敗率は大幅に下げられると強調した。
「自分の歯を残したい」という患者さんのニーズに応えるためにも、外科的歯内療法は押さえておきたい治療であるといえるだろう。
先生ご自身が知識・技術を習得されるのも実に有益であるし、歯内療法専門医と連携することで、患者さんから見た際に自院の提供できるメニューを拡大することができる、という点も忘れてはならない。
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講演では、ポイントごとにたくさんの症例写真が供覧され、1時間半とは思えない情報量のセミナーであった。
BBDAでは、月2回程度様々な分野の講師を招いてセミナーを開催している。
次回のイブニングセミナーは、中原維浩先生(東京都開業)による『待合室の革命家による医院とスタッフのための待合室マーケティング』。
今後も勢いのある講師ラインナップに大いに期待したい。
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執筆者
WHITE CROSS編集部
臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。