歯科治療は、精密さが要求される手作業の医療である。これまで歯科医師・歯科衛生士は肉眼の限界を超えるために、ルーペやマイクロスコープを活用してきた。
そこに、株式会社ヨシダが昨年末に販売を開始したデジタルビジョンシステムのNextvisionが新たに加わろうとしている。Nextvisionは、医科における内視鏡に近く、目の前のモニターに映し出された拡大映像を見ながら診療にあたることができるシステムである。
8倍から80倍にまで、シームレスに拡大することができるという。
WHITE CROSSでは、この新しいシステムとその先にある歯科医療の未来を描くため、2月某日に東京上野にあるヨシダのショールームに取材に入った。
精密治療をより身近に Nextvision体験レポート
機能の詳細については、Nextvisionの特設ホームページに譲るとして、当レポートでは臨床経験のある歯科医師と歯科衛生士の実感をお伝えする。
実機を見てみると、現時点のNextvisionはキャスター型のため、チェアーサイドのスペースにある程度の余裕が必要であることがわかる。ただ、短期的にチェアに組み込み固定できるようになるとのことで、その問題もいずれ解決されるであろう。
実際に触った上で見えてきたのは、次の5つの特徴であった。
特徴1 肉眼と拡大視野が混在する新感覚の診療環境
ルーペやマイクロスコープの場合、継続的に拡大視野下で治療を行うことになる。その一方で、Nextvisionの場合は、必要に応じて肉眼と拡大視野を自然に行き来できる。このメリットは大きい。術者は、術野のみでなく患者の表情の変化やアシスタントの動きを常に把握しながら、精密治療を行うことができる。マイクロスコープより焦点深度に余裕があり、カメラ装置が術者の手元や視野を邪魔することもない。Nextvisionにはライトが内蔵されているため、そのポジショニングは、ユニットのライトとほぼ同じである。
肉眼と拡大視野で、自然に目線を移動できる
特徴2 アシスタントの教育がほぼ不要
マイクロスコープにおいて大変なのは、術者の慣れ以上に対応できるアシスタントの教育ではなかろうか。Nextvisionでは、限りなく日常診療に近い環境下で扱えるため、その必要性がなさそうである。ただし拡大視野で治療を行う場合は、アシスタントの手指のわずかなブレが、モニターに映し出される術野に影響を与えることに変わりがない。とはいえ、そこはアシスタントへの声がけ一つで対応できそうである。
アシスタントからの視野は、肉眼診療と同じである
特徴3 術者としての慣れがほぼ不要
必要に応じて肉眼と拡大視野を自然に行き来できることに加えて、モニターの画像を上下左右反転できるため、肉眼と拡大視野を全く同じ視野にすることができる。その点、マイクロスコープを使いこなすには、上下左右が反転された視野において自由自在に手指を動かせるようになる必要があり、所謂慣れが必要である。
左下臼歯部のモニター画像:肉眼と全く同じ見え方で診療できる
また、マイクロスコープは一部保険治療での適用もあるが、現在のところ多くの場合において自費診療を中心に使用されている。しかしながら、Nextvisionについては保険診療、自費治療の両方で使用できるように感じられた。その意味合いにおいて、使用経験も積みやすいであろう。
歯科衛生士も簡単に使用することが可能
この感覚は、取材に入った歯科医師・歯科衛生士に共通したものであった。
特徴4 楽なポジショニング
Nextvisionのカメラは、ライトの役割も果たす。そのため可動域が上下前後左右に非常に広く、術者として直視するには無理がある角度からの拡大視野をモニターに映すことができる。
ミラーテクニックさえ身についていれば、術者としては楽な体勢を維持したまま、治療に当たることができる。但し、カメラは単眼であり、ルーペやマイクロスコープのような双眼ではないため、拡大かつ立体視野の方が良い治療においてはルーペやマイクロスコープが優先されるかもしれない。
言葉ではイメージしずらいので、これらの動画を見ていただきたい。要は術者として、この平面視野下において治療ができると感じられるかどうかである。
特徴5 教育での活用
歯科医師の教育において、指導医がアシスタントに立つことがある。ただ、アシスタントサイドから術者と同じ視点で術野を見ることは難しい。
Nextvisionにおいては、アシスタントも自然な体勢でモニターを見ることができるため、教育目的で使用することができそうだ。また、術者の慣れをそれほど必要とせず、保険診療でも無理なく使用できそうなことからも、教育目的での活用に繋がるのではなかろうか。
アシスタントは肉眼で術野を直視できない場合でも、モニターで確認できる
システムの組み方次第で録画・静止画撮影も可能であることや、遠隔からの視聴・リアルタイムでの指示も可能であることから、特に粘膜疾患などにおいては、遠隔診療でも使用できるのではなかろうか。
Nextvisionの発展性
5つの特徴の先に、未来の歯科医療を考えて見るとワクワクする。Nextvisionにも弱点がある。先述の通り、ルーペやマイクロスコープのような立体視ができない。そのため、拡大での立体視野が求められる治療においては、マイクロスコープなどに軍配が上がる。Nextvisionは、ルーペやマイクロスコープの代替ではなく、使用用途によって使い分けると良いイメージである。その使い勝手の良さや汎用性の高さから精密治療をより身近にしてくれる・・・むしろ精密治療を当たり前のものにしてくれるツールではなかろうか。
コスト度外視で歯科医院単位での理想の活用法を考えるのであれば、1台のユニットにマイクロスコープを設置し、残りのユニットにNextvisionを設置するというのはどうだろうか。歯科医師・歯科衛生士が保険・自費問わず、あらゆる診療において肉眼とNextvisionを併用させる。ライトワークと同様に、アシスタントにNextvisionをセッティングしてもらう。治療・予防問わず、診療効率が上がり、歯科医院全体での治療の質も高まるのではなかろうか。
また、光学印象機器や画像システムなどと共に、クラウドプラットフォームに接続することで、技工や遠隔診療での活用が可能となって行くかもしれない。
Nextvisionは、歯科医療の質を向上させながら、デジタルトランスフォーメーションの鍵の一つになり得る。そのように感じられ、今後の発展に期待が高まる。
開発者インタビュー
歯科医療は、医療機器・材料の進歩とともに発展してきた。そして、時としてワクワクするプロダクトに出会うことがある。Nestvisionは、"それ" にあたるものだった。吉田製作所の開発メンバーにインタビューを行った。
株式会社吉田製作所 Nextvision開発メンバーの皆様
『開発のきっかけは、アナログのマイクロスコープをお使いの先生から、治療によっては肩や腰に負担がかかるとお伺いしたことでした。カメラだけを術野に向けて、先生自身が正面のモニターを見ながら治療できると楽だろうな・・・という発想から、多くの先生にお力添えいただいての開発が始まりました。
歯科医療機器開発の歴史を見ると、ユニットの発達により立位診療から水平診療に切り替わった段階で、ワンステップ先生方の診療体勢が楽になったと言われています。そして、今では水平診療はスタンダードになりました。Nextvisionは診療体勢を楽にさせていただく、その次の新たな一歩なのかなと感じています。また、若い先生だけはなく、少し視力が弱ってきた先生や少しでも楽な診療姿勢でいていただきたいご年配の先生にも導入いただきたいと考えております。
「精密治療をより身近に」というコンセプトですので、治療によってマイクロコープなどと使い分けてもらえると嬉しいです。
もう一点意識したのが、教育での活用です。1人の先生の施術を、多くの先生が見学できる。あるいは、院長室のモニターから勤務医の先生の治療を確認・指示できる。あるいは、遠隔から確認・指示できる。そういうものとして発展してほしいなと思っています。
現段階では弊社のショールームや学会・スタディーグループなどで展示させていただいております。ぜひ、一度実機に触れていただきたいと思います。
先生方の声を聞きながら、もっと様々な付加価値をつけていき、ご期待に沿うプロダクトとして育てていきたいと考えております。今後も、若い先生からもご年配の先生からも親しみを持っていただき、日々の診療において自然にご利用いただけるプロダクトを作り上げてまいりますので、ご期待ください!』
執筆者
WHITE CROSS編集部
臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。