国立循環器病研究センターは、3月6日、定期的な歯科受診が咀嚼能力低下の予防に有効であることを示したと発表した。
この研究は、同研究センター予防健診部の宮本恵宏部長、新潟大学大学院医歯学総合研究科の小野高裕教授、大阪大学大学院歯学研究科の池邉一典教授らの研究グループによるもの。
定期受診と咀嚼能力の関係性はほとんど報告されていなかった
オーラルフレイル予防の重要性がますます謳われている近年。咀嚼能力が低下することで栄養摂取に悪影響を及ぼし、最終的にメタボリックシンドロームや動脈硬化性疾患の発症へとつながると言われている。
歯科受診によって咀嚼能力をはじめとする口腔機能低下に早期に気づくことが重要だと考えられている一方、これまで歯科定期受診と咀嚼能力との関係についてはほとんど報告されていなかった。
継続的な歯科受診者は咀嚼能力が低下しにくい
そこで研究グループは、吹田研究(※1)参加者である50~79歳の都市部一般住民のうち、初回歯科検診、および2回目歯科検診(初回から4年以上経過)の両方を受診した1,010名(男性430名、女性580名)を対象に解析を行った。
咀嚼能力の測定には、専用に開発されたグミゼリーを30回咀嚼して増えた表面積を算出する方法を用いた。
その結果、継続的な歯科定期受診のある対象者は、咀嚼能力が低下しにくいことが明らかとなり、加齢に伴う口腔機能低下を軽減する上で、継続的な歯科定期受診が有効である可能性が示されたという。
咀嚼能率低下率を目的変数とした重回帰分析(n=1010)画像はプレスリリースより
※年齢、咀嚼能率、歯数、咬合力、唾液分泌速度は、1回目検診時のデータである。
※1回目、2回目検診時のどちらも歯科定期受診ありの者を、「継続的な歯科定期受診あり」とした。
※咀嚼能率変化率=(2回目検診時の咀嚼能力-1回目検診時の咀嚼能力)÷1回目検診時の咀嚼能力×100
この結果より、歯数や咬合状態などの形態的な因子だけではなく、歯科定期受診という行動科学的因子が咀嚼能力に影響を及ぼすことが明らかになった。
研究者らは「歯科治療による対応だけでなく、口腔健康への関心を向上させるポピュレーションアプローチが口腔機能低下を予防し、ひいては動脈硬化性疾患やフレイル予防の新たな戦略になると考えられる。そのためにも、医科歯科連携のもと、さらなるエビデンスを構築して行くことが今後の課題である」と述べている。
本研究は、2020年3月5日、歯科医学の国際誌『Odontology』にて公開された。
脚注
※1「吹田研究」
国立循環器病研究センターが1989年より実施しているコホート研究で、大阪府吹田市の住民基本台帳からランダムに抽出した吹田市民を対象としている。全国民の約90%以上を占めている都市部の住民を研究対象としていることが特徴であり、その研究結果は国民の現状により近い傾向があると考えられている。(第1次コホート:1989年~、第2次コホート:1996年~)
出典
執筆者
WHITE CROSS編集部
臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。