6月18日、「経済財政運営と改革の基本方針2021 日本の未来を拓く4つの原動力〜グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策〜」、いわゆる「骨太の方針2021」が経済財政諮問会議での答申を経て、閣議決定された。「骨太の方針」は年末の予算編成に向けて、国の政策の基本的な方向性を示すものである。
この数年間、骨太の方針において、これからの日本社会において求められる歯科医療の姿が示されている。
骨太の方針2017において、口腔健康と全身健康との関連性、歯科健診と口腔ケアの推進が明文化され、翌2018年には、地域における医科歯科連携の構築が盛り込まれた。そして2019年、2020年には、口腔健康と全身健康との関連性についてエビデンスの信頼性の向上、国民への情報提供、歯科医師・歯科衛生士の仕事がフレイル対策につながること、介護・障害福祉関連機関との連携が盛り込まれた。
骨太の方針2021と歯科のかかわり
今回発表された「骨太の方針2021」は、新型コロナウイルス感染拡大対策を強化するとともに、感染症によって浮き彫りになった日本の課題を解決すべく、そのサブタイトルである「グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策」を実現するための投資を重点的に実施するとされている。
新型コロナウイルス感染症は全国的に大変厳しい試練を与えている一方で、デジタル技術を活用した柔軟な働き方やビジネスモデルの変化、環境問題への意識の高まり、東京一極集中が変化するきざしなど、未来に向けた変化が大きく動きはじめている。
また、菅内閣発足以降、2050年カーボンニュートラルの宣言、デジタル改革の司令塔となるデジタル庁の創設、不妊治療の保険適用をはじめとする少子化対策や子育て支援、地方の所得向上を重視した地方活性化など、日本が進めるべき改革の大きな方向性を示してきた。
今回の骨太の方針では、こうした改革の方向性に沿って政策を具体化して強力に推進し、ポストコロナの持続的な成長につなげる投資を加速し、経済社会構造の転換を実現していくという。
より具体的には、新型コロナウイルス感染拡大防止に引き続き万全を期す中で、厳しい経済的な影響に対して、雇用の確保と事業の継続、生活の下支えのための重点的・効果的な支援策を講じ、国民の命と暮らしを守り抜く。
さらに、グリーン・デジタルなど成長分野への民間需要を大胆に呼び込みながら、人材への投資と円滑な労働移動を強力に進めることにより、生産性を高め、賃金の継続的な上昇を促し、民需主導の自律的な成長軌道の実現につなげていくという。
例年、歯科医療についての項目が盛り込まれている社会保障制度の構築においては、
平時と緊急時で医療提供体制を迅速かつ柔軟に切り替える仕組みの構築のため、症状に応じた感染症患者の受入医療機関の選定、感染症対応とそれ以外の医療の地域における役割分担の明確化、医療専門職人材の確保・集約などについて、できるだけ早期に対応する。
社会保障制度の基盤強化を着実に進め、人生100年時代に対応した社会保障制度を構築し、世界に冠たる国民皆保険・皆年金の維持、そして持続可能なものとして次世代への継承を目指す。
などとしている。
歯科医療に大きく関わるところとしては、
全身との関連性を含む口腔の健康の重要性に係るエビデンスの国民への適切な情報提供、生涯を通じた切れ目のない歯科健診、オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防にもつながる歯科医師、歯科衛生士による歯科口腔保健の充実、歯科医療専門職間、医科歯科、介護、障害福祉機関等との連携を推進し、歯科衛生士・歯科技工士の人材確保、飛沫感染等の防止を含め歯科保健医療提供体制の構築と強化に取り組む。
今後、要介護高齢者等の受診困難者の増加を視野に入れた歯科におけるICTの活用を推進する。
などの記載があり、これまでの骨太方針の流れに加え、ICTを活用した歯科診療の拡大と充実が方針に盛り込まれた。
上記以外にも、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会をはじめとするスポーツ・文化芸術の振興や、各地で頻発する自然災害を踏まえ、防災・減災・国土強靭化についての方針なども盛り込まれている。
また、日本歯科医師会では今回の骨太方針の取り纏めに向けて、「2040年を見据えた歯科ビジョン―令和における歯科医療の姿―」として、歯科がこれから担う役割と責任を宣言してきた。
(参照:2040年を見据えた歯科ビジョンー令和における歯科医療の姿ーの刊行について-日本歯科医師会)
そこにおいては、
● 歯科医療、口腔健康管理の充実を通じて国民の健康寿命の延伸に向けて取り組んでいるが、いずれも緒に就いた段階、或いは道半ばであることから、新たな骨太の方針2021には現行の「骨太の方針2020」の歯科に関する記載内容を継続し、充実させる。
● 「全身のフレイル」の早期発見と対応のために、歯科分野での「オーラルフレイル対策」が極めて重要であり、国民の認知を高めるためにも、歯科に関しては「フレイル」の表現を「オーラルフレイル」の表現で具体的に示す。
● 今後の人口減少と極端な少子高齢化による高齢者の孤立や、通院困難者の増加への対応を視野に入れた、歯科における情報通信機器の整備やオンライン歯科診療等を含む、ICTの活用の方向性を示す。
● 「感染防止に有効な口腔健康管理の推進」の視点を明記する。
としており、「骨太の方針2021」と照らし合わせると提言してきた内容のほぼすべてが反映される形となった。
「骨太の方針2021」を受け日本歯科医師会は、18日付けでそのホームページ上で、
(同会が提言した「2040年を見据えた歯科ビジョン」の)内容は、今回の骨太の方針2021と密接に関わるものが多く、それらを中心に今後とも具体的な提言をして参りたい。
本会は、今後、歯科医療機関の受けた経済的ダメージの回復をはかりつつ、欠くべからざる歯科医療提供、口腔健康管理の維持・強化により、国民の健康と生活を守る立場から貢献していきたい。
との見解を示している。
このことから日本社会の先行きについて、日本歯科医師会が力強く提言し、働きかけていくことの重要性を感じさせられる。
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今回の方針について、同会はホームページ上にその具体施策を掲げており、中でも「歯科医療専門職間、医科歯科、介護、障害福祉機関等との連携」について以下のように述べている。
「歯科医療専門職間、医科歯科、介護、障害福祉機関等との連携」は、特に今後の感染症対応においても重要な視点であり、今回の新型コロナウイルス感染症対策の検証をしつつ連携を強化する。
特に一連の自粛生活下での要介護者や寝たきり者への影響について、精緻な検証が必要である。これに関連して、激甚化、複合化する災害への対応についても、不自由な避難所生活での誤嚥性肺炎等による災害関連死防止のための口腔健康管理について、医療連携のもとでのウイルス感染対応という新たな要素が加わる。
連携のあり方についての議論を深めつつ、引き続き災害派遣等に即応できる体制を充実させていきたい。
今年度は新型コロナウイルスのワクチン接種における歯科医師の協力など、「骨太の方針2021」の中でももっとも重要とされる新型コロナウイルス感染症の克服実現に向けた大きな取り組みが実施されている。
昨今の新型コロナウイルス感染症の流行により、国民の口腔衛生に対する意識は大きな高まりを見せている。
このように社会が大きく変化する過渡期において、日本社会の変化と歯科医療のこれからを知る上で「骨太の方針2021」に目を通すことは、歯科医療従事者にとって未来への地図を得ることに等しいのではなかろうか。
出典
経済財政運営と改革の基本方針2021(内閣府)
「経済財政運営と改革の基本方針2021」について(日本歯科医師会プレスリリース)
執筆者
WHITE CROSS編集部
臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。