「歯科医師になったからには開業した方が良いのかな?」「開業のメリットとデメリットは何だろう?」と、お悩みの先生はいませんか?
「歯科医師になったからには一国一城の主として開業した方が良いのでは?」と思っていても、情報が少なく本当に開業すべきか判断できずに悩んでしまいますよね。
この記事では、歯科医師の開業について詳しく解説。また、実際に開業する場合の流れや手続きについても併せてご紹介します。
これから歯科医師を目指す方や開業を考え中の方は、ぜひご覧ください。
歯科医師の開業割合
2018年に厚生労働省が発表した『医師・歯科医師・薬剤師統計の概況調査』によると、歯科医師の85.9%は診療所で働いています。
そのうち代表者として働いている人の割合は55.9%、勤務医として働いている人の割合は30%。診療所で働く歯科医師の半数以上は、勤務医ではなく開業医として働いていることがわかります。
また、診療所以外での勤務先には、病院や医療施設、介護老人保健施設などが挙げられます。
歯科医師が開業した場合の年収
それでは一体、開業医と勤務医で、どれほど年収の差があるのでしょうか。
2019年に厚生労働省が実施した『第22回医療経済実態調査』で公表されている歯科診療所の院長と常勤医の年収は、以下の通りです。
院長
前年度の歯科医師年収(平均給料年度額) | 14,125,929〜14,211,878円 |
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平均給料年度額 | 14,054,569〜14,160,871円 |
賞与 | 51,008〜71,360円 |
勤務医(常勤)
前年度の歯科医師年収(平均給料年度額) | 5,900,864〜6,180,242円 |
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平均給料年度額 | 5,613,033〜5,744,411円 |
賞与 | 287,831〜435,831円 |
上記の表を見てもわかるように、開業医と勤務医の年収には2倍以上の差があります。
ただし、開業医の場合は年収のすべてが自分の手元に残るわけではありません。そこで、歯科診療所の収益について、以下の表にまとめました。
個人開業の歯科診療所の場合
年間収益 | 44,699,000円 |
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費用(給与や材料費など) | 32,062,000円 |
損益差額 | 12,696,000円 |
年間収益から経費となるような費用を差し引いた金額が、損益差額です。上記の表にある損益差額の1,269万6千円が、個人開業医の年収と考えて良いでしょう。
しかし、毎月必要な費用に加え、新しい設備や器材を増やしたい場合などは、損益差額の中から内部資金として捻出する場合もあります。
歯科医師として開業する3つの理由
ここからは、歯科医師が開業したときに感じることのできる以下3つのメリットについて解説します。
1.理想の治療を追求できる
2.収入の上限がない
3.歯科医院を自分の空間にできる
1.理想の治療を追求できる
開業する何よりのメリットは、理想の治療を追求できることです。
勤務医として働いている場合は勤務先の医院の方針があるため、自分の思うような治療ができずに悩むこともあると思います。
開業医の場合は勤務医と比べて、自分の思う通りに治療を進められることが多いです。もちろん患者さんに説明した上で治療計画を立てる必要はありますが、理想の治療を追求できるのは歯科医師として開業する大きな理由になるでしょう。
2.収入の上限がない
歯科医師が開業して働く場合、収入の上限がありません。患者さんがコンスタントに来院し、適切なスタッフ採用が行えていれば、その分収入は増えていきます。
しかし反対に、患者さんが少なければ、その分収入が減ってしまうのも事実です。
また、勤務医の場合は、固定給と歩合制があります。固定給の場合は、ひと月の給料が約束されている安心感はありますし、昇給も考えられるものの、ある程度で頭打ちになるでしょう。
歩合制の場合、自身の売上に応じて給料が増えていきますが、勤務医に還元されるのは歩合率(2割〜3割程度)に応じた売上の一部のみです。
開業すれば100%が自分の売上となるため、際限なく自由に働くことができます。
3.歯科医院を自分の空間にできる
開業した歯科医院は、いわば自分のお城。立地や外装、内装を自分の好きなように選ぶことができます。
患者さんが落ち着く空間を目指すことは大切ですが、自分の好みの色やインテリアなどを使えるので、自分好みの空間にカスタマイズすることが可能です。
歯科医師として開業しない3つの理由
つづいて、歯科医師が開業する場合の以下3つのデメリットについて解説します。
1.多額の開業資金が必要
2.集患が大変
3.人材教育が必要
1.多額の開業資金が必要
歯科医師として開業する場合、多額の開業資金が必要です。
金融機関で融資を受けるのが一般的ですが、返すべきお金がある状態は心に負担がかかります。
また、保険診療分を社会保険報酬支払基金へ申請して振り込まれるまでに3ヶ月必要なので、特に開業したばかりの時期は不安になるでしょう。この期間を見越して、焦らないようにしっかり準備しておく必要があります。
医院経営が軌道に乗ってからも、日進月歩の歯科医療に携わっている中で、新しい治療にチャレンジしたい気持ちが生まれてくることもあると思います。
場合によっては新しい技術を習得したり、設備を増やすために資金も必要になるので、開業医として働く場合は勤務医とは違った面でお金の心配があるでしょう。
2.集患が大変
新しく歯科医院を開業する場合、何もないところからスタートしますよね。それは、患者さんもゼロということを表しています。
開業した歯科医院は、患者さんにきていただかないと収入がありません。最初のうちは患者さんを獲得するために、チラシやインターネットを駆使する必要があるでしょう。
また、いらしていただいた患者さんにリピートをしてもらえる力も求められます。治療が終わってリコールに入ってからも、定期的にきてもらえるようにお知らせハガキを作成したり、電話連絡を行うなど、さまざまな工夫が必要です。
3.人材教育が必要
開業をした場合、スタッフの採用や教育も自分の仕事になります。
勤務医であれば、初めからスキルがあって接遇も申し分ない歯科衛生士や歯科助手と一緒に働くことができます。これは、歯科衛生士や歯科助手同士で、先輩が後輩に教育する環境が整っているためです。
しかしながら開業したての頃は、教育する立場にある人は院長のみです。そのため、教育できる人材を探すか、院長自身が積極的に教育を行う必要があります。
また、人材不足が続く昨今は、他の歯科医院と差別化するために人材教育に力を入れることも重要です。
自分の理想の歯科医院にするためにも、医院の方針や目標、患者さんの情報を共有しながら、根気強くスペシャリストを育てていくことも、院長の仕事の一つです。
歯科医師が開業する場合の流れと必要な手続き
ここからは、歯科医院を開業するときの具体的な流れと必要な手続きについて解説します。
歯科医院の開業の流れは、大きく分けて以下の5つです。
1.計画を立てる
2.物件を決める
3.開業前の準備
4.直前の準備
5.開業後の届出
1.計画を立てる
開業すると決めたら、具体的な計画を立てましょう。
まず考えたいのは「どのような歯科医院にしたいか」です。自分の理想とする歯科医院の方針を決めて準備を進めていくと、予期しないことがあった場合に方針に沿って対応しやすくなります。
その他、以下の計画を立てておくとスムーズです。
・歯科医院の経営理念
・開業資金の調達方法
・融資可能額の把握(申込)
・歯科医師会へ相談
・外装や内装のイメージ
・物件や周辺環境の調査
・設計プラン
・開業時期の決定
開業する際は、各機関に届出を提出することになりますが、設備などの施設基準が問題になる場合があります。
後から慌てないためにも、計画の段階で自治体の担当部署に事前に相談しておくのがおすすめです。自治体によっては、事前相談が必須の地域もあります。
2.物件を決める
計画を立てたら、いよいよ物件を探して確定します。
物件を決めたら、どのような内装にするか本格的に考えましょう。歯科医院は入りやすい見た目も大切ですが、患者さんの不安が少しでも軽くなるような、落ち着ける内装であることも重要です。
内装を考える際は、実際に働くことを想像し、大型の器材を配置する位置やスタッフの動線だけでなく、患者さんの安全にも気を配る必要があります。
3.開業前の準備
物件が落ち着いたら、開業するにあたって必要なものを準備します。たとえば、消耗材料や備品などです。内装が完了すれば大型機器の取り付けも行います。
また、働くスタッフの採用も必要ですので、ハローワークや民間の職業相談事業などと連携しながら、人材確保も進めていきましょう。
医院のコンセプトに合った採用を行う方法を知りたい!という方は、ぜひこちらもご覧ください。
その他、役所への届出書類の準備や保健所の検査の準備も必要です。保健所の検査は地域によってタイミングが異なるので、電話で確認をしておくことをおすすめします。
4.直前の準備
開業直前にはスタッフ間で歯科医院の理念を共有して、医院全体の方向性を確認しておきましょう。
機器や道具の使い方を説明するだけでなく、ロールプレイング形式で患者さんの来院から帰られるまでの流れを練習しておくと、スタッフ全員の認識のすり合わせができるのではないでしょうか。
5.開業後の届出
歯科医院の開業後は、10日以内に所轄の保健所に診療所開設届を提出するなど、必要書類を提出するのを忘れないように注意しましょう。
歯科医師個人によって開業する場合、主な必要書類は以下の通りです。
・診療所開設届
・歯科医師免許証
・管理者の履歴書
・土地建物登記簿謄本
・賃貸借契約書(テナントの場合)
・診療所の平面図
・敷地の平面図
・医院への案内図
歯科医師免許証については、診療に従事する歯科医師の臨床研修修了登録証が必要な場合もあります。
また、保険診療を行う場合、以下の書類も必要となります。
・保険医療機関指定申請書
・保険医登録表
その他、レントゲン室を備え付ける場合は、エックス線取扱に関する書類も必要になります。
・エックス線装置設置届
・エックス線漏洩検査報告書
・エックス線診療室の平面図および側面図
これに加え、有床の場合は「診療所開設届」を提出する前に、「診療所使用許可申請書」を提出し、検査および許可証の交付を受ける必要があります。
書類の写しは、保健所に加えて厚生局にも提出する必要があるので、最低でも2部ずつは用意しておきましょう。
必要な添付書類は所轄によって異なるため、事前に電話で確認することをおすすめします。
歯科医師は開業をしないという選択肢もある
ここまで歯科医師の開業する場合について触れてきましたが、もちろん勤務医として働く選択肢もあります。
歯科医院を開業するということは、それだけの責任を背負うということです。医院で何か問題があれば、責任はすべて開業医である院長にのしかかりますし、スタッフの人生(給料)も預からなくてはなりません。
さらに、歯科診療のスキル以外にも、経営や接遇などさまざまな知識が必要になります。
「治療のことだけ考えたい!」「安定して働きたい!」と考える場合は、無理して開業せずに勤務医として働き続けるのもひとつの選択肢です。
自分にとって何がベストなのか考え、じっくりと今後の人生の計画を立ててみてはいかがでしょうか。
参考文献
執筆者
WHITE CROSS編集部
臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。