※当インタビューは、オーディオブック「院長の経営成功術 VOL25」より抜粋、編集した内容です。
※本インタビューで紹介される役職や内容は収録時点のものです。
TODAY's GUEST
医療法人ゆたか 理事長 渡辺 豊先生
1995年、岡山県岡山市に本院のわたなべ歯科クリニックを開業。大学で学んだ予防歯科と各種セミナー等で学んだ経営施策が功を奏し、来院希望者を受け入れきれないほどの人気医院となる。2008年、本院から30mと近接した場所に、分院のイエスデンタルオフィスを開業。自費を主体としたクリニックとして、地域の多様なニーズを満たすとともに、本院、分院間の連携でそれぞれの強みを発揮するための仕組みを構築し、高い業績を実現。心理学やNLP、哲学や宗教など様々な知識を学び、スタッフ全員がセルフリーダーシップを発揮する、スタッフ主導型の組織をつくり上げている。現在はこの経験から得られたマネジメントの智慧を日本歯科プロアシスタント協会の理事として、業界の発展のために惜しみなく開示。著書に『口臭の95%は思いすごし』(三五館)、歯科医院経営DVD『ストレス激減!院内リーダーシップ法の極意』(医療情報研究所)等、幅広く活躍をしている。
スタッフが最高のパフォーマンスを発揮する組織づくり
今野 渡辺先生はスタッフマネジメントに関するDVDを発刊されていらっしゃいまして、実は私も勉強させていただいたのですが、本質的な部分を押さえられていると共に現場で実践もしやすいところまで落とし込んで教えて下さっているものなので、大変勉強になりました。本日は少し違う視点も入れながら、この「最高のパフォーマンスを発揮するスタッフマネジメント」について、お話を聞かせていただきたいと思っております。
渡辺 はい。
今野 スタッフが自主的に働く。先生のDVDは“自働”。自ら働くということで“自働”と書かれていらっしゃったと思いますが、まず院内がどのような状態になれば、スタッフが自ら主体的に動いていくようになるのでしょうか。その辺のまず前提条件のところから教えていただいてもよろしいでしょうか。
渡辺 そうですね。そのご質問をひっくり返すと、どういう状況が悪い状況になるのか…ということになるかと思います。これは歯医者に限らず、どのような会社や組織でも同じことですが、「何よ、あの人」や、「私はこんなに頑張っているのに」といった自分中心の考え方があると、とても影響が大きいと思います。このような状況では、チームワークは上手くいきません。
例えば、一見して「できなさそう」に見えているスタッフも、その場所で一生懸命頑張っているんですよね。それを見て、自分から見た印象のみで比較して、「あの人は頑張っていない、こんなに私は頑張っているのに」ということが起こると良くありません。できなさそうに見えているそのスタッフも、その場所で必死に頑張っているということを、まず認められるかどうかが大きなポイントです。
渡辺 もう少し難しい言い方をすると価値観を認められるかどうかということです。その人が何を大事にして仕事をしているかなど、価値観が違えばぶつかり合います。その「ぶつかり合うのをなくしていく」ということが最終的に欲しい状況です。平和な状況で、安心できる環境で、誰からも咎められない、責められない。頑張っていることを常に見ていてくれる場所があって初めて、リラックスして能力が発揮できるようになっていくと思っています。その環境を意図的に「つくっていく」必要があるんですね。色んな手法があります。例えばスピリチュアル系の手法もあるかもしれないですけれども、一番ロジカルに分かりやすい方法があるとすれば、私が使っているのがストレングスファインダーです。「ストレングスをファインドする」つまり、強みを見つけてみましょうという170項目ほどのアンケート調査をクラウド上で実施することによって、34の強み(この仕組みでは「資質」と呼んでいます)が抽出され、その中から各自の上位5項目を教えてくれる手法があります。
今野 なるほど。
渡辺 このストレングスファインダーをスタッフ全員で実施し、結果を公開、共有します。例えば、一つに責任性という項目がありまして、責任性が上位の人は、反対となる責任性が下位の人を許せないというものです。「なぜこの責任取らないの?」、「責任取るのが当たり前でしょ」と、責任性が上位の人にとっては当たり前なのですが、逆に下位の人にとっては「責任性?」のような認識差があり、全く異なる感覚になります。もう生まれながらに備わっている強みが順列であるとしたら、備わっている人が備わてない人を責めるというおかしな状況になるのです。責任性が強いが、例えば調和性という項目がないとしたら、調和性を大事にする人たちは「責任ばっかり言っているんじゃないわよ」という話になりますよね。お互いがどのような強みを持って「この場所に集まっているのか」ということがお互いに理解できると、自分と違う強みを持つ人を「責める」ということがなくなります。
今野 なるほど。「相互理解」ですね?
渡辺 はい、お互いを認め合うということが、ある意味でロジカルに実行できていくわけです。当院の例示をご紹介しましたが、このような手法を導入することは、スタッフマネジメントにとって大変効果的だと思っています。
今野 とても分かりやすいですね。今の例示を一つお聞きしただけでも納得できました。お互いが理解されている状態をまずつくることが必要ですね。
渡辺 更に「あの人の強みはこれだから、この仕事はあの人に任せると上手くいくよね」となり、また「Aさんに任せると上手くいくよね。でもBさんに任せたら絶対に上手くいかないよね」というようなことも分かってきます。こうなると、仕事の振り方・任せ方も変わりますし、本当の意味での適材適所というものが出来上がってきます。例えば、院内イベントを一つするにしても、イベント事にふさわしい資質を持っている人が担当するのと、逆に資質がない人に任せるのとでは、結果もイベントの質も変わってきますよね。
今野 まずはお互いの違いをきちんと認め合えるような場をつくるために、今ご紹介いただいた手法を使うというのも一つあるということですね。先生のDVDを見させていただいて、まず「責める」などのない安心安全の場をつくるということの一つとして今の方法もあるということですね。その他に例えばもう一つぐらい方法はございますか。
渡辺 そうは言っても、強みをいくら理解していても、腹が立つこともあるわけですよね。でも、それはそれで良いと思っています。一つのツールとして、参考にする程度で活用したら良いものだと思うのですが、必要なのは個々にとって安全安心な場所であり、一人一人が十分に能力を発揮して自分のアイディアでどんどん仕事を進めていく環境なので、まずは安心安全な場所をつくっていきたい。そのための一つのツールに、ストレングスファインダーという手法がありますよという話をしましたが、これはある意味、意識、頭で考えてやっていくことなんですよね。でも安心って安心感なので、頭で理解することではなくて体で感じることなのです。体で安心を感じてもらう方法があるわけですよね。それが、例えばコーチングやNLPという潜在意識を扱うような考え方からすると、潜在意識的な安心安全感のためのペーシングという、とても大事にされている方法があります。ペーシングというのは「ペースを合わせる」ということなので、全員のペースを合わせるために何をするか。チームとして動いていく以上、チームの「息」が合う。これがペーシング。スポーツでも同じですが、息がぴったり合っている時は最高のパフォーマンスだけど、息が合わなくなったらその逆の結果になる。だから息が合うとか、息が合わないとかっていう言葉もあるように、息を合わせることを意図的に取り組んでいくことを大事にしています。
今野 先生の医院では、それを朝礼で実施されているそうですね。
渡辺 そうですね。はい。
渡辺 スタッフ全員で集まれるのが朝礼なので、朝礼で実施しています。もちろんパートさんなど調整に出れない人はいますが、できるだけ多くのスタッフが集まる朝礼が良いと思っています。まず深呼吸をする。他のスタッフとペースを合わせるつもりで深呼吸をするというところから始めています。
今野 それを毎朝やるわけですね。
渡辺 必ず実施します。色々な効果があります。そこに集まるまで、みんなバタバタバタバタしながら掃除をワーッとして、「さあ朝礼だ」とそこに集まってきた時に、それぞれ違う時間を過ごしながら集まっているわけですので、そこで他のスタッフとペースを合わせるということによって、一つの空気感と言いますか、一体感が生まれてくるんですよ。深呼吸もまじめにやることが大事です。本当にみんなの息を合わせる意識を持って、丁寧に3回大きく深呼吸をする。皆さんもやっていただくと分かりますが、やる前とやった後では雰囲気が変わります。ここを朝のスタートにしています。
今野 もちろん息も合うということもそうですし、仕事に入る前に気持ちを作るという意味でも良いですよね。
渡辺 そうですね。
今野 「息を合わせる」安心安全のお話で二つですが、お互いが理解できることと、それから実際にペーシングという方法使って潜在意識で合わせるという話もあったと思いますが、どのような職場でも同じかもしれませんが、社員、スタッフも職場によっては、常に不安とか恐怖心があるかもしれません。特に今の時期(インタビュー当時は6月)は、4月に入社したスタッフさんが不安・恐怖心がある環境だったとしたら、やはり難しいですね。「最近どう?」って声を掛けただけで、もう目がウルウルしてくるぐらいの新人さんが、もう何人もいるんですよね。これはやっぱり、安心安全の場所がないんだと思うのですが、私自身の経験でも、例えば「上司に怒られる」や「自分の評価が下がるんじゃないか」など不安がありました。このように恐怖心や不安を持っている方も多いと思います。例えばそのような場面で、安心安全な場をつくる、何か視点やコツみたいなものはありますでしょうか?
渡辺 例えば、新入社員のスタッフに特化して言うとすれば、やっぱり「見ているよ」「大丈夫だよ」と声をかけ、存在を認めてあげることだと思います。おそらく本人たちは、自分の出来なさ加減に直面して、ものすごくへこんでいると思います。でも「先輩たちもそうだったから大丈夫だ」「本当に大丈夫なんだ」と、こちらがその新人スタッフを信じて、その思いを持ちながら声を掛けてあげるだけで、その意新人スタッフは楽になると思います。
今野 そうですね、とても大切なことですね。
渡辺 「よく頑張っているね」という声かけでも良いですね。でも私としては「大丈夫だよ」という言葉が良いと思っています。大丈夫なんですよ、本当に。こちらが大丈夫だと思って「大丈夫だよ」って言ってあげる一言で結構立ち直れますね。
今野 そのような「思い」というか、気持ちを伝えてあげると嬉しいものですね。どうしてもギスギスしている職場を見ていると、院長が怒りますしね。
渡辺 そうですね。
今野 そういう意味で、院長自身が安心安全な場づくりの中心にいるということですね。
渡辺 そう思います。院長がつくった医院である以上、色々な意味で全責任はやっぱり院長ですよね。
今野 先生のDVDを勉強させていただいて、安心安全な場でリラックスしている状態だからこそ、それぞれが自分の持っている能力を存分に発揮できるという部分は経営という面で見た時にも、スタッフ個々の能力をすべて発揮させるという意味では、やはりこの安心安全の場をつくることは、とても大事な経営的な視点の一つと思いました。
渡辺 人は、もう二度と傷つきたくないと思って生きています。もちろん怒られることも含めて「責められたくない」。ここで私が傷つけられることはないなという安心感は、本当に大事だと思いますね。
今野 例えば、「傷つけない」もしくは安心安全という気持ちの上で脅かさずに指導することというのは何かコツなどあるのでしょうか。それでもやはり注意しなきゃいけないことというのがあると思いますが、そのような場合はどうされていらっしゃいますか?
渡辺 少し話がややこしくなってしまうかもしれませんが、人格否定したらダメですね。「お前はダメだ」というのは、もう人格そのものを否定するので、これは絶対やってはいけないことです。でも例えば能力であれば、「この仕事ができるのに何でこちら仕事は上手くいかないの?」となれば、これは人格否定ではなく、あなたの能力を磨きましょうというメッセージになります。能力というのは改善することができるものなので、能力を磨くことはできますよね。そのようにして、怒ってしまうポイントを「傷つかないレベル」に持っていくということに対して、かなり気を付けています。
今野 それはもちろん思いもそうですし、一つのスキルでもあるんですよね。
渡辺 叱り方のスキルですね。
今野 そうですね。これは身につけようと思えば、身につけられることですね。
渡辺 変な話ですけれど、精神構造みたいなものが分かれば、いわゆる人格や価値観、信念など、本人がとても大事にしているところを突くとややこしくなります。でも先ほどの「能力」など、本人の努力で改善できるものを指摘することは本人も傷つきませんし、「あっそうか、頑張ろう」という素直に受け取れることでもありますね。
今野 例えば、医院さんで良くあるお話だと思いますが、物をよく落とすとか壊すというスタッフがいた場合は、例えば先生だったらどのように指導されますか。
渡辺 物を落とす時って、よく観察していると、体の重心が上に上がっちゃっているんですよ、フワフワして安定していないのです。その時に言うのは「体の重心をおへその下3cmに持っていってごらん」という指導の仕方をします。
今野 自分でコントロールできるような方法をアドバイスするんですね。
渡辺 はい。フワフワしてしまっているスタッフは、いつも物を落とします。本当にイメージなんですけれど、人間の重心なんて変わるはずないですよ。でも浅い息でフワフワしている時の重心って多分上にあって、ドシっとしている時は丹田と言われるへその下 3cm、4cmの所、ここにちょっと力を入れる。それだけでグッと体が安定して落ち着いて、物を落とさなくなります。
今野 なるほど。私もそれ何かの本で読んで、電車に乗っている時に実験したんですけれど、揺れた時に気持ちを丹田に持っていくと安定しました。
渡辺 当然その時は呼吸のペースなども変わっていくんですよ。フワフワしている時って浅い息ですが、少し意識を集中すると呼吸が深くなってゆっくりになるので落ち着くというわけです。
今野 やはりスタッフ自身で改善できる方法をアドバイスするということですね。
渡辺 そうですね。例えば、印象を何回も何回も取り直すという時があるのですが、その時に「丹田に力を入れて、よしっと思ってやってごらん」とアドバイスすると、ほぼ100%その次は取れますね。
今野 なるほど。確かにそうですよね。気持ち一つですごく色んなものって変わるんですよね。スタッフマネジメントにおいて大変参考になる事例で、実践される先生も多いのではないかと思います。渡辺先生、ありがとうございました。
※当インタビューは、オーディオブック「院長の経営成功術 VOL25」より抜粋、編集した内容です。
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「院長の経営成功術」は毎回気鋭のゲストをお招きし、MOCAL株式会社代表 今野賢二が経営戦略、組織構築と人事マネジメント、外部マーケティングや診療システムの構築等、歯科医院の様々な課題、発展ポイントに焦点を当てたインタビュー形式のオーディオブック(CD教材)です。
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■「院長の経営成功術 VOL25」
1. 今月のテーマ&ゲスト紹介
2. チェア3台から7台へ!順調な立ち上がりの秘訣
3. 想定外!「本院」VS「分院」の2年間にわたるバトル
4. 「口コミ連鎖」を生み出す一工夫
5. スタッフが最高のパフォーマンスを発揮する組織づくり
6. ベクトルを一つに!「朝礼」と「クレド」を活用した具体的実践法
7. 成功への近道は「人と人とが触れ合う中での学び」
8. 仕事は「天職」であり、「学び」のためにあるもの
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