この記事のポイント ・厚生労働省が6年ぶりに、「令和4年歯科疾患実態調査結果の概要」を発表。 ・若年者のう歯をもつ者の割合は減少傾向にあるが、高齢者においては増加傾向がみられた。 ・8020達成者の割合は前回の調査時とほぼ横ばいで51.6%。 ・1年間に歯科検診を受診した者の割合は、全体の58.0%であった。 |
はじめに
厚生労働省は6月29日、令和4年歯科疾患実態調査結果の概要を発表した。
歯科疾患実態調査は、日本の歯科保健の状況を把握し、今後の歯科保健医療対策を推進するための基礎資料を得ることを目的として実施されている調査。昭和32年から6年毎に実施していたが、平成24年に策定した「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」の中間評価にあわせ、平成28年の調査からは調査周期を5年に変更した。
なお、今回の調査は令和3年に実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響により中止し、令和4年に実施された。厚生労働省は今回の調査結果を踏まえ、「8020運動」を含む歯科口腔保健施策を今後も推進していくと宣言した。
令和4年歯科疾患実態調査の期間や対象は、以下の通りである。
調査期間:令和4年11~12月 調査対象:令和4年国民生活基礎調査で設定された地区(令和2年国勢調査の調査区から層化無作為抽出した全国5,530地区)から抽出した300地区内の世帯の満1歳以上の世帯員 被調査者数:2,709人(男性1,239人、女性1,470人) 調査方法:調査対象地区内の会場で、歯科医師が調査対象者の口腔診査を実施 |
被調査者数の推移 ※ 口腔診査受診者のみ(グラフは厚労省HPより引用)
う歯をもつ者の割合は、55歳以上で増加傾向
令和4年歯科疾患実態調査によると、5〜11歳で乳歯にう歯をもつ者の割合は、15~35%程度であった(表1、図1)。
表1 1〜14歳で乳歯にう歯をもつ者の割合の年次推移(%)(表は厚労省HPより引用)
図1 1〜14歳で乳歯にう歯をもつ者の割合の年次推移(グラフは厚労省HPより引用)
過去の調査と比較すると、う歯をもつ者の割合に加え、1人平均df歯数(dft指数)も概ね減少傾向を示していた(表2、図2)。
表2 1〜14歳の乳歯における1人平均う蝕歯数(dft 指数)の年次推移(本)(表は厚労省HPより引用)
図2 1〜14歳の乳歯における1人平均う蝕歯数(dft 指数)の年次推移(グラフは厚労省HPより引用)
続いて永久歯においては、5〜9歳で処置歯または未処置のう歯をもつ者の割合は3%を下回ったが、25歳以上では80%以上と高く、特に45〜49歳、55〜59歳、65〜69歳では100%に近い値を示した(表3、図3)。過去の調査と比較すると、5〜34歳では減少傾向を示していたが、55歳以上では増加傾向にあった。
表3 5歳以上で永久歯にう歯をもつ者の割合の年次推移(%)(表は厚労省HPより引用)
図3 5歳以上で永久歯にう歯をもつ者の割合の年次推移(グラフは厚労省HPより引用)
15歳以上の年齢階級におけるDMFT指数を過去の調査と比較すると、若年者において減少が見られるだけでなく、35歳以上の各年齢階級においても緩やかに減少する傾向にあった(表4、図4)。
表4 15歳以上の永久歯における1人平均DMF歯数(DMFT 指数)の年次推移(本)(表は厚労省HPより引用)
図4 15歳以上の永久歯における1人平均DMF歯数(DMFT 指数)の年次推移(本)(グラフは厚労省HPより引用)
また、う蝕予防に関わるフッ化物応用の経験のある者は、全体の59.4%。そのうちフッ化物塗布の経験のある者は13.1%、フッ化物洗口の経験のある者は3.2%、フッ化物配合歯磨剤使用の経験のある者は52.4%であった(表5、図5)。
表5 フッ化物応用の経験の有無(表は厚労省HPより引用)
図5 フッ化物応用の経験の有無(グラフは厚労省HPより引用)
中でも1~14歳においては、フッ化物塗布経験者の割合は41.5%であった。前回調査時の結果では、フッ化物塗布の経験のある者は62.5%であったことから、今回は大きく減少する結果となった。
8020達成者の割合はほぼ横ばい
20歯以上の自分の歯を有する者は、55歳以上において、一部の年齢階級を除いて増加傾向であった(表6、図6)。
表6 20 本以上の歯を有する者の割合の年次推移(%)(表は厚労省HPより引用)
図6 20 本以上の歯を有する者の割合の年次推移(グラフは厚労省HPより引用)
80歳で20本以上の歯を有する8020達成者の割合については、75〜84歳の20本以上の歯を有する者の割合から51.6%と推計され、前回調査時の51.2%とほぼ横ばいの結果であった。
4mm以上の歯周ポケットをもつ者の割合は、75歳以上で増加
歯肉出血を有する者の割合は、加齢とともに増加あるいは減少するような一貫した傾向は認められなかったものの、4mm以上の歯周ポケットをもつ者の割合は、高齢になるにつれ増加傾向にあることが示された(表7、図7)。加えて75歳以上の年齢階級では、前回調査時と比較して増加していた。
表7 15歳以上で4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合の年次推移、年齢階級別(表は厚労省HPより引用)
図7 15歳以上で4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合の年次推移、年齢階級別(グラフは厚労省HPより引用)
国民のセルフケアへの意識は年々向上している
1歳以上において、毎日ブラッシングする者の割合は97.4%。毎日2回以上ブラッシングする者の割合は年々増加を続けており、今回は79.2%であった(表8、図8)。
表8 1歳以上の歯ブラシの使用状況の年次推移(表は厚労省HPより引用)
図8 1歳以上の歯ブラシの使用状況の年次推移(グラフは厚労省HPより引用)
また、デンタルフロスや歯間ブラシを用いた歯間部清掃を行っている者は全体の50.9%、舌清掃を行っている者は21.1%であった。男女別に見ると、ほぼすべての年代で女性の方が歯間部清掃または舌清掃を行っている者の割合が高く、40〜70代の女性においては6割以上がデンタルフロスや歯間ブラシを用いた歯間部清掃を行っているという結果であった(図9)。
図9 デンタルフロスや歯間ブラシを使って、歯間部清掃をしている者の割合、性・年齢階級別(グラフは厚労省HPより引用)
前回調査時においては、歯間部清掃を行っている者が全体の39.2%であったことから、以前よりも歯間部清掃の必要性についての認知が広がっていることが伺えた。
定期的なメインテナンスの受診率は6割弱
今回の調査からメインテナンスに関わる項目が新たに追加され、この1年間に歯科検診を受診した者の割合は、全体の58.0%という結果が示された(表9)。
表9 歯科検診を受診している者の割合、性・年齢階級別(表は厚労省HPより引用)
調査対象の年齢幅が異なるものの、平成21年度に行われた「国民健康・栄養調査」において、20歳以上で過去1年間に歯科検診を受けた者の割合は34.1%。平成24年度では47.8%、平成28年度では52.9%であったことから、年々増加傾向にあることが示唆された(図10)。
図10 20 歳以上で過去1年間に歯科検診を受けた者の割合の年次推移(男女計・年齢階級別)(グラフは厚労省HPより引用)
また、今回からはオーバーバイトやオーバージェットなどの咬合に関する項目に代わる形で、矯正治療経験の有無を問う項目も追加された。治療経験があると回答した者は、全体の7.7%と1割に満たない数であったものの、35〜39歳の女性においては全体の29.2%が経験ありと回答し、すべての年齢において、男性に比べると女性の方が高い割合を示した。
図11 3歳以上の矯正歯科の経験の有無、性・年齢階級別(グラフは厚労省HPより引用)
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時代とともに、口腔の健康に対する国民の意識が上がっていることが示されつつある歯科疾患実態調査。
歯間部清掃を行う者や定期的なメインテナンスを受診する者の割合が増加していることは、歯科医療従事者にとって確かに喜ばしいことである。
しかし高齢者の残存歯が増加傾向であることに伴い、55歳以上のう歯をもつ者の割合が増加していたり、75歳以上の4mm以上の歯周ポケットをもつ者の割合が増加していたりする事実もある。
今回の調査結果は、今後歯科に関するさまざまな場で引用されたり、紹介されたりするだろう。その際には、先生自身がこの結果をどう読み取るか、この結果からどのようなことが考えられるのか、一度立ち止まって考えてみていただきたい。
出典
「令和4年歯科疾患実態調査」の結果(概要)を公表します(厚生労働省)
参考文献
執筆者
WHITE CROSS編集部
臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。