先日、摂食嚥下リハビリテーション学会の第24回学術大会が開催され、摂食嚥下に関する医療関係者 約7,000名以上が参加した。口から食べることの重要性は歯科だけではなく、介護に携わる者にとって非常に重要であるということが示されいる。
参考: 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 第24回 学術大会開催される
実際に介護保健施設に入所している要介護高齢者は、摂食嚥下機能障害により経口摂取の支援が必要な者の割合は64%にものぼる*1とも報告されている。これらの状態は医療、介護のみの問題ならず今後地域における摂食嚥下診療、食支援のニーズの激増と、その対応についての課題と言える。
平成27年度版 多職種経口摂取支援チームマニュアルによると、加齢により口腔咽頭筋や嚥下運動に関わる筋群の筋力低下は生じるが、これらは脳血管障害等による嚥下障害とは異なり嚥下機能の本質が損なわれることがないという。また、一旦経口摂取を中止するような出来事があると、わずか3日の絶食で摂食嚥下障害を発症した例や、経口摂取をしないことによって口腔内の剥離上皮膜下の口腔粘膜が脆弱化し細菌増殖の場となることから、誤嚥性肺炎につながる例も報告されているという。
つまり予備力の低下している高齢者に関しては廃用性萎縮が起こりやすいということを念頭におき、経口摂取の支援は絶え間なく行う必要があると考えられる。
これらに関与する各専門家によって作られたのが摂食嚥下関連医療資源マップであり、患者さんが訪問診療に対応可能な医療機関を検索する際や、嚥下食を必要とする家族が外食する際の情報が掲載されている。
摂食嚥下関連医療資源マップ
摂食嚥下関連医療資源マップは、2015年より東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野の戸原玄先生を中心に医師、歯科医師、看護師のチームで構成された研究班によって作成されたもの。
社会の高齢化が進むにつれ、口から食べることへの関心が高まっている現在、生活の場でできるだけ自立を続けたまま摂食嚥下に関して有効な支援を受けらえる地域づくりを目指すための足がかりとなることを目的としている。
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医療機関一覧
情報公開に同意をした摂食嚥下の問題に対応できる医療機関を一覧表示し、「都道府県」や「嚥下訓練」「VE」「VF」「訪問可」などで絞り込み検索が可能。
医科にももちろん対応しているが、歯科医院だけでもすでに600件を超える医院が掲載されており、医療機関登録・更新フォームにより情報を登録することができる。
訪問インプラント歯科医院一覧
既存の医療機関一覧ページに加え、新たにインプンラントの問題に対応可能な医療機関の情報として訪問インプラント歯科医院一覧のページが開設された。
診療項目を「インプラント全般」「インプラントの除去」「インプラント周囲炎等(痛み・腫れ・出血等)」「他院で治療したインプラントの対応」「インプンラントのかぶせものや義歯のトラブル」の5項目設定し、通院が難しくなったインプラント埋入患者に対応している。
こちらも同様に都道府県検索や、訪問インプラント医療機関の登録・更新フォームにより登録することができる。
飲食店一覧
実際に掲載されているページの一例
興味深いのが飲食店の一覧ページである。
介護を必要とされる方の中には “常食” と呼ばれる 所謂私たちが普段口にしている “固形食” を摂食することが困難な方も多く存在する。その場合ミキサーで食品をペースト状にした “ミキサー食” や、柔らかく煮た “軟食” など(呼び方は様々)の嚥下食を摂取する方も多い。しかしこれらの食形態を提供する飲食店は少なく、家族に一人でも嚥下食を食べている方がいると外食ができないというのが現状だ。
このページでは提供可能なメニューだけではなく、「バリアフリー」「駐車場」「個室」の有無、「吸引機持ち込み」の可否、「事前予約」の要否など、摂食障害があっても家族で外食できる場所の情報が掲載されている。
これらの飲食店一覧は研究班の先生方がご自身の足で少しずつ集めている情報を掲載しているため、このような飲食店を見つけたらぜひ提供いただきたいとのことである。
摂食嚥下医療資源マップ
画像は公式サイトよりキャプチャーしたもの
医療機関、訪問インプラント医療機関、飲食店を一覧にして表示しているマップも用意されている。
施設より16km以内の範囲と定められている訪問診療において、患者さんやそのご家族が自宅に来てもらうための一助として明確になっている。
その他、サイト上では同研究班により作成されたツールや研究報告も多数掲載されている。
業務主任として開発に携わった戸原玄先生にコメントをいただくことができた。
口から食べることにはどのような意味があるでしょうか。もちろん栄養摂取という意味はありますが、そのほかに個人内での楽しさや社会性を持ったうえでの楽しさもそこにはあります。例えば何かを食べて「おいしい」と感じたらそれは食事を食べた方自身が得た快い感情ですし、「これおいしいね」と誰かに語りかけたとすると、それは個人内のみならず共感という社会性を含んだ快い感情にもつながります。
自分は常日頃、口から食べることができずに困っている方々をたくさん拝見していて、そのような中でもともと胃瘻であっても少しだけ食べられるようになった方々をたくさんみています。そのような方たちの中で時々外食に出られるようになった時の写真をみせてもらうことがあり、いつもベッド上にいる時とは全く違う笑顔をその写真からはみることができます。
単に食べるという行為だけではなくて、“食べに行く”ということを含めて多くの方に実現してもらうことができるようにこのマップを作りました。まだ情報として不十分なところもたくさんあるとは思いますが、ご自由にお気兼ねなくお使いいただけましたらありがたいです。
戸原先生は他にも、2017年に大手牛丼チェーン吉野家が提供する嚥下困難者向け食品『吉野家のやさしいごはん 牛丼の具』の開発などにも深く関わっている。
超高齢社会のいまこそ協力して情報を寄せ合い、このような優良なツールが全国に浸透することを願う。
脚注
*1 摂食嚥下機能障害により経口摂取の支援が必要な者の割合
平成25年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分)施設入居者に対する栄養管理、口腔機能の在り方に関する調査研究 介護保険施設における 摂食・嚥下機能が低下した高齢者の「食べること」支援のための栄養ケア・マネジメントのあり方に関する研究報告書(日本健康・栄養システム学会)
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