東北大学大学院歯学研究科・歯学部に、歯学イノベーションリエゾンセンターが設立されたのは2011年4月1日である。当センターは、地域社会および国際社会と連携して、先進的な教育・研究・臨床・社会貢献を実現するためのコーディネーション・実働機関である。
当センターは、2019年に入り新しい取り組み “歯学部リエゾン・カフェ” を始めた。リエゾン・カフェは、「より多くの人が幸せになる社会を目指して、様々な研究分野が互いの領域を越えて共感・共働するための時間・空間を提供する、東北大学歯学研究科公認の活動」として幕を開け、誰に対しても門戸が開かれている。
(主催・運営:歯学イノベーションリエゾンセンター助教 坪谷透氏・杉山賢明氏)。
第1回リエゾン・カフェ 2019年1月17日
出典: 東北大学公式YouTube_第1回歯学部リエゾン・カフェ 第3部「佐々木啓一研究科長とTalk」
歯学研究科長・歯学部長である佐々木啓一教授の、
私は、東北大学病院生まれでございます。
という自己紹介に、会場は活気付いた。佐々木教授を中心に、「大学」とは何か、「東北大学」の使命は何か、「歯学部・歯学研究科」の果たすべき役割は何か。そういった根源的な問いに対して、美味しく!楽しく!をモットーに議論された。
第2回リエゾン・カフェ 2019年3月11日
第2回では、いよいよ歯科と他分野との交流が開始された。講師に名古屋市立大学の鈴木貞夫教授を招き、「HPVワクチンを語ろう」というテーマで開催された。
出典: 東北大学公式YouTubeチャンネル_第2回歯学部リエゾン・カフェ「鈴木貞夫教授(名古屋市立大学)とHPVワクチンを語ろう」
HPV(ヒトパピローマウイルス)は、子宮頸癌や口腔癌などと関連しており、医科・歯科・看護で取り組んでいくべきテーマである。
このHPVという共通言語に対して、冒頭に坪谷透氏により、カフェの趣旨の説明の後、ゲストスピーカーとして、東北メディカル・メガバンク機構、歯学研究科口腔システム補綴学分野の木山朋美氏が、歯科領域におけるHPVについての講演を行い、歯科医師として持つべき目線を提示し、
全身疾患と口腔の健康との関連についてもっと関心を持つ必要がある。
などと述べた。また、東北大学が現在株式会社NTTドコモと共同で取り組んでいる、歯周病発見AIについての研究の進捗についても語られた。
メインスピーカーの鈴木教授は、1980年に名古屋大学医学部を卒業し、博士課程に進学。医学博士号取得後、1996年には米国ハーバード大学公衆衛生学部に留学。その後、名古屋市立大学の公衆衛生学分野の教授となり今に至る。
講演をする鈴木貞夫教授
HPVワクチンは、2013年に予防接種法に基づき定期接種化された。しかしながら、接種後に慢性疼痛や運動障害をはじめとした多様な症状が報告され、2カ月後には積極的な接種勧奨の差し控えとなり今に至る。鈴木教授は、その多様な症状がワクチン接種によるものか否かを疫学的に調査し、2018年に、「ワクチン接種後に報告された多様な症状とワクチン接種との間に関連を認めない」という結果を示した。
リエゾン・カフェでは、その研究成果についての解説が行われた。ワクチンの有用性と安全性のバランスの中で、安心してワクチン接種できる体制作りの必要性について語られた。
トークセッションの様子 左から木山氏、鈴木教授、坪谷氏先生
リエゾン・カフェをより活発で有意義な場とするために、大学教員や様々な分野の研究者だけでなく学生にもその門戸が開かれており、立場を超えて語り合うことで将来につながる何かを見つけてもらえる機会としている。これは、東北大学の建学以来の伝統である「研究第一主義」と「門戸開放」という理念に通じている。学生が気軽に参加できるように、コーヒーを無料で提供するなどの取り組みにも注目である。
今、日本の医療は大きく変わろうとしている。歯科単体や医科単体では、真に患者価値の高い医療を提供することが難しいことが気づかれ始めており、社会のそこここで医科歯科連携や多職種連携が産声をあげている。それは大学においても同じなのかもしれない。社会の求める医療の構築を促進するためにも、これまで以上に様々なエビデンスの構築が必須となっている中で、臨床研究に加えて、疫学や公衆衛生学の存在意義も高まってきている。
「様々な研究分野が互いの領域を越えて共感・共働するための時間・空間」という活動目的を体現し、歯科も医科も関係なく共通のテーマについて語り合われる新しい学びの場を提供していく東北大学のリエゾン・カフェ。これからの時代の日本歯科医療を支えるアカデミアへの期待が高まる取り組みである。
出典
・ 東北大学公式YouTube_第1回歯学部リエゾン・カフェ 第3部「佐々木啓一研究科長とTalk」
・ 東北大学公式YouTube_第2回歯学部リエゾン・カフェ 「鈴木貞夫教授(名古屋市立大学)とHPVワクチンを語ろう」
執筆者
WHITE CROSS編集部
臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。