2019年9⽉4⽇〜9⽉8⽇にADA(アメリカ⻭科医師会)FDI(国際⻭科連盟)世界⻭科会議(World Dental Congress)が⽶国サンフランシスコのモスコーニセンターで開催されました。その時の様子をまとめたレポートの後編です。
前編はこちら
後編では、世界歯科会議での講演会や、シリコンバレーの企業を見学したときの様子をお伝えします。
講演会 世界⼝腔健康保健フォーラム Universal Health Coverage(UHC)
the Good, the Bad and the Necessary for Oral Health 〜⼝腔健康に良い点、悪い点、必要なもの〜
UHCという⾔葉をご存知でしょうか?
UHCとは、「全ての⼈が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、⽀払い可能な費⽤で受けられる状態」のことを指し、すべての⼈が経済的な困難を伴うことなく保健医療サービスを享受することを⽬指しています。
「持続可能な開発⽬標(SDGs)」は最近有名になっていますが、そのSDGsのターゲットの1つとしてもUHCの達成が位置づけられており、全ての⼈々が基礎的な保健医療サービスが受けられ、医療費の⽀払いにより貧困に陥るリスクを未然に防ぐことが重要であることが確認されています。
⽇本は1961年に導⼊された国⺠皆保険制度などを中⼼に早期にUHCを達成し、世界有数の健康⻑寿国ともなっています。
そんなUHCは、⻭科分野では、
1. 統合された⼝腔保健サービス
2. 健康ニーズに適合する⼝腔保健労働⼒
3. ⼝腔保護のための財政的保護と財政拡⼤
を保証するものと解釈されます。
⼝腔疾患は世界⼈⼝の半分(35億8,000万⼈)に影響を与えており、これらの⼈々の多くは基本的かつ不可⽋な⻭科治療さえも受けられない現状もあります。
本セッションでは、バッファロー⼤学教授や、ADA理事、インドの保健政策責任者、ポルトガル⻭科協会OMD会⻑、NCDアライアンスの政策ディレクター、WHOのチーフデンタルオフィサーを始めとした世界中から集まった10名もの専⾨家が集まり、「⼝腔健康のUHC達成のための機会と障壁」「⻭科をプライマルヘルスケアクリニックとして組み⼊れたポルトガルの例」「UHCに関する国連ハイレベル会合で、⼝腔健康の位置付けを得るための機会の獲得」など、様々な⼝腔健康とUHCに関する話がされました。
そして、政府が⼝腔の健康を軽視し、疎外することを確実に防ぐために不可⽋な証拠、戦略、解決策について議論がなされました。
FDIは、このようなWHO / 国連といった世界的に重要な会に向け「⻭科の必要性 / 効⽤」をアピールしながら、⻭科の位置付けを⾼めていくのに重要な役割を担いますし、このような取り組みに向けてのダイナミックな会合に参加できるのもFDI世界会議の楽しみの⼀つです。
2019年9⽉26⽇には国連ハイレベル会合で、UHCに関する議論が⾏われる予定ですが、⼝腔衛⽣が公衆衛⽣の重要優先事項として認識され、新たなUHC政策アジェンダの中でも重要な位置付けを獲得することが望まれます。
講演会 Oral Health for Healthy Ageing
5years of promotion, Prevention and Solution 〜健康的⽼化のための⼝腔衛⽣〜5年間のプロモーション、予防、ソリューション〜
GCがFDIのパートナー企業として、FDIと共同して研究/プロモーションをしているOral Health for an Aging Populationプロジェクト(以下、OHAP)はキックオフから5年⽬で、昨年FDIでは世界⼝腔保健フォーラム(WOHF)にもピックアップされ、各国の課題や取組みが発表・議論され、「⾼齢社会に対する⻭科医療」に関する世界的議論が深まりました。
そして、今回のFDIでは5年間の取組みも反映し、「治療不⾜」や「過剰治療」を防ぐためのチェアサイドガイドブックを発表いたしました。⾼齢患者の⼝腔の健康を確保するために、健常者 / フレイル / 要介護といったレベル毎にどのようなケアや指導が⼤切かを⽰すチェアサイドガイドブックです。
「⾃分で⻭を磨けるか?⼝を開けられるか?病歴 / 投薬は?⾷事に機能的問題はないか?唾液は?」といった事前評価に必要な簡単な質問群から、補綴物・喫煙・飲酒など⼝腔病変に影響を与える要素のモニタリング、フッ素塗布やシーラント・予防クリーニングなどのプロメンテナンス、必要に応じての保存修復や補綴/外科処置などのトリートメント、そして患者さんに対しての「⻭磨き、フロス・⻭間ブラシ、⼝腔乾燥症の場合は無糖チューイングガムや唾液代替物、毎⽇の義⻭洗浄など⼝腔衛⽣指導(OHI)などを、患者さんの健常者 / フレイル / 要介護といったレベル毎に表⽰したガイドブックに多くの注⽬が集まっていました。
世界は⾼齢化しており、専⾨家は2050年までに世界⼈⼝の25%(20億⼈)が60歳以上になり、またうち4億⼈は80歳以上と予測しております。⾼齢者は⼝腔健康が不良なことが多く、このことは⼀般的な健康にも⼤きな影響を及ぼします。
⽇本は⾼齢化スピードが早く、⾼齢化社会の段階はとうの昔に過ぎた「超⾼齢社会」ですが、ある意味、「世界的な⾼齢化の課題」をいち早く経験する国でもあります。そんな⽇本から世界に共通する「⾼齢社会に対する⻭科医療はどうあるべきか?」といった問題提起、議論、ソリューションの模索・提案といった流れを5年間の「OHAP」プロジェクトを通してできたことは⼤きな成果です。今後も世界に先駆けた超⾼齢社会に対する⻭科医療の⽇本の取組みに世界の注⽬が集まりそうです。
世界に共通する課題に対して、FDIとパートナーシップを結び、世界の健康⻑寿のためには何をすべきか?と模索・発表していく「GC」も⽇本を代表する企業・ブランドとしても誇らしく、同社のオーラルフレイルや⼝腔機能低下症に向けたソリューション提供にも「より」注⽬して活⽤していけたら良いなと感じる会にもなりました。
ハイテク産業のインキュベーションシティ サンフランシスコ&シリコンバレー
「坂」と「霧」の街として、有名な港町のサンフランシスコは、ゴールドラッシュの頃から発展してきましたが、最近では⾞1時間ほどで到着するシリコンバレーと共に、「ハイテク」企業がどんどん⽣まれてくるハイテク産業のインキュベーションシティとなっています。
『GAFA』(Google、Apple、Facebook、Amazon)と呼ばれるハイテク4社は、その時価総額合計で330兆円以上と、⽇本のGDP550兆円の約6割も占める⾦額となっており、その影響⼒は世界に及ぶほどの⼒を持っています。
例えば、GAFAの中では⼀番時価総額の低いフェイスブックは2007年設⽴で現在時価総額は56兆円ですが、⽇本のGDPが2007年から2018年にかけて増えた⾦額は20兆円とその半分にも満たなく、フェイスブック1社でさえ⽇本全体GDP成⻑を上回る時価総額を同時期に築き上げるなど、近年⽣まれてきた同企業群の成⻑スピードは⽬を⾒張るものがあります。
そんなGAFAのうちのAmazonを除く3社の本社は全てシリコンバレーに集中しています。
また、⼤型ユニコーン企業と呼ばれるウーバー(時価総額6兆円)、ツイッター(時価総額3.5兆円)、Air B & B(未上場、予想時価約3兆円)、リフト(時価総額1.4兆円)などのハイテク企業は全てサンフランシスコが本社です。シリコンバレーの企業群へも、多くの社員がサンフランシスコから企業バスなどで通っていることを考えると、サンフランシスコやその周辺都市の持つ「パワー」「影響⼒」はすさまじいものがあります。
そんなハイテク企業の⾵を感じようと、今回はフェイスブック、グーグル、アップル、マイクロソフト、インテル、ユーチューブ、パロアルト研究所などシリコンバレー企業群の⾒学も⾏ってきました。
そんな中で、⼀般的には名前がさほど知られていないも、印象深かったのはパロアルト研究所(PARC)の⾒学です。PARCは、ゼロックスの研究所ですが、実は現在のパソコンの原型ともいえる「アルトコンピューター(右上写真)」が1973年にこの研究所で⽣まれました。アイコンやオーバラップウィンドウなどグラフィックユーザーインターフェイス(GUI)や、マウスも同研究所で誕⽣したと⾔われています。
そして、そんな「アルトコンピューター」の噂を聞きつけ1979年に同研究所を訪れたのは、後の有名⼈「ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズ」の2名です。たまたま同年に同研究所を訪れた2名はそのコンピューターに⼤きな感銘を受け、そのアイディアを⽣かしながらマイクロソフトとアップルでそれぞれパソコンを発展させ、今⽇に⾄る⼤成功を収めています。
⼀⽅、同パソコン原型とも⾔える「アルトコンピューター」を開発したゼロックスですが、残念ながら当時の経営幹部陣にはうまく刺さらず商⽤化には⾄らなかった模様です。
「同じモノ」を⾒ても、⾒る⼈によって受けるインスピレーションや活⽤法は違いますが、その違いの⼤きさを改めて感じさせられる出来事は⼤きな印象として残りました。
そんなハイテク企業が続々と登場するサンフランシスコでは、街中を歩いていても、「新しい技術」を使った「新しい取組み」「新しいお店」に出会えて、刺激が⼤きな街でもあります。
タブレットで好みのコーヒーを選んで、クレジットカードで払うと「ロボットアーム」が⾃働で淹れ⽴てコーヒーを提供してくれる『Café X』、⾃働でハンバーガーを作る『Creator』は⾃働マシンでバンズを切って、焼いて、ベルトコンベア上でトマト、⽟ねぎ、レタス、ハンバーグ、チーズなどを載せ、出来⽴てロボット製ハンバーガーを供給するお店です。
『Café X』はある意味、ロボットアームが持ってこなくても、⾃分でコーヒーマシンのボタン押せばいいだけじゃんと突っ込みたくなる要素もありますが、ロボットアームが軽妙な動きで踊ったりと、愛嬌を振りまき「⾯⽩さ」「新規性」で客が来ていました。また、『Creator』は、注⽂を取る時に⼈が介在していたり、供給時にポテトやドリンクカップを⼈が介在して提供したりと、製造を⾃動化したのにお店にはかなり多くの店員がいます。
ある意味、『Café X』のようにタブレット注⽂で、ポテトも⾃働でつけ、ドリンクはセルフでやれば、⼈がほとんどいらないじゃんと、突っ込みどころも満載の荒削りですが、多くの客が「新規性」「物珍しさ」から同店に訪れていました。
『ウーバー』も初体験しましたが、近くに何台も配⾞できる⾞が表⽰され、⾏き先への⾦額 / 分数も事前にわかり、また、タクシーに⽐べ約半額で、ドライバーとは全くクレジットカードや現⾦のやり取りもなく安⼼感もあります。タクシーよりもある意味の安⼼感もあり、実際に利⽤してみるとその便利さがよくわかりました。
また、宿泊していたホテルの周りにも数店舗出店していた『Amazon Go』も初体験してきました。アプリをダウンロードし、クレジットカード等登録するだけで準備完了。アプリでストアを調べると、すぐ近くだけでも4店舗があることがわかり、すぐ近くの『Amazon Go』店舗へ直⾏しました。
⼊り⼝にある駅の⾃動改札のようなところに、アプリ上のQRコードを読み込ませて⼊場し、あとは欲しいものを取って、そのままレジも会計も「無」で外に出るだけで、多くのカメラがその様⼦をモニタリングしており、「誰が何を買ったか」把握され、店を出てしばらく後にアプリへ何を買ったか?というレシートが写真付で送られてきます。
店に何分何秒いたかというデータも送られてきましたが、多分、その⼈の年代 / 性別による⾏動パターンや、視線の動き⽅、導線など様々なモノがビッグデータとして蓄積され、今後の店づくりに活かされていくのだろうなと思うと、すごい仕組みですし、便利でした。
また、清涼飲料⽔を買ったレシートには、「Sweetened beverage surcharge」という⽢い飲料にかかる「砂糖税」のようなものが4.5%も発⽣していることもわかり、前回FDI 世界⼤会でのFDI-WHO-NCD Alliance の共同セッションで熱く議論されていた「⼝腔健康とNCD共通の⽬標としてある砂糖摂取量削減のための施策」も、先進的なサンフランシスコの街では導⼊されているのだといったことも、『Amazon Go』の⾒やすいレシートで気づいた副次効果です(昨年のFDI レポートもよろしければご参考ください)。
今回のADA FDI 世界⼤会では、会場はもちろんのことですが、ハイテクタウンのサンフランシスコ・シリコンバレーで多くの「初体験」やインスピレーションを受け、とても刺激的な経験をできた5⽇間でした。FDIは毎年違う都市で開催され、その国や都市毎に違う⾊々な事柄から様々な刺激を受けることができるのみ魅⼒の⼀つです。
次回のFDI 世界⼤会は、2020年9⽉1⽇〜4⽇に⽶国とそのハイテク具合も競うように成⻑してきた中国の上海で開催されます。アリババ・テンセントと世界の企業時価総額ランキングでもTOP7、8位(⽇本の現在最⾼はトヨタで43位)に⼊る両社の提供するQR決済や、無⼈コンビニなど様々な取り組みも間近で体験できるほか、街の真ん中を流れる河の⻩浦江を挟んで⻄の歴史的な建物群と、東の近代的な建物群の対⽐、豫園の歴史など、様々なものをご覧いただけ、また様々な中華料理も楽しむことができるなど、楽しみな国での開催となります。
FDIは、⽇本⻭科医師会や⽇本⻭科商⼯協会、ADAをはじめ世界の200もの⻭科関連団体がメンバーを構成し、⻭科界を代表してWHOなどへも情報提供を⾏い、WHOから発信される情報は各国の厚労省のような政府機関にも広く知れ渡ります。また、世界各地で開催されるFDIは、その活動のダイナミズムに触れることができる他、世界各国の⽂化や⾷などに触れるチャンスでもあるので、⼀度⾜を運んでみられては如何でしょうか。
私共、⻭科ディーラーにとって第⼀の努めは、⻭科医療従事者の皆様へ『よい情報、よい製品』をいち早く正確にお届けし、『⻭科医療従事者の皆様へのお役⽴ち』をすることだと考えております。そして、⻭科医療従事者の皆様へのお役⽴ちを通じて、皆様の笑顔や健康に少しでも寄与できたら良いなと考えております。
『⼈々の笑顔、健康に寄与することを⽬指して!』今後とも⻭科医療従事者へのお役⽴ちを第⼀に、様々な情報発信に努めて参りますので、引き続きご愛顧のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。
現地の様子をより詳しく知りたい方は、株式会社シラネの公式サイトにてレポートを閲覧することができます。
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