90歳の方で、ドライバーで150ヤードしか飛ばなくなった方に「あなたは飛距離が落ちているので、筋トレ、ジョギング、練習場通い、コーチのレッスンをもっとしないとだめですよ」といった指導が適切でしょうか?
「90歳で150ヤード飛ぶのは素晴らしいです。ただ、ドライバーをシニア用に変えるともっといいかもしれませんね」といった指導の方がよくないでしょうか?
ゴルフを例に挙げ、歯科医療従事者の患者指導に警鐘を鳴らすのは、昭和大学歯学部高齢者歯科学講座の佐藤裕二教授。
2018年4月に、「口腔機能発達不全症」「口腔機能低下症」という、口腔の機能に関する疾患とそれにかかる検査等が保険導入され、歯科界で大きな話題となったことは記憶に新しい。
一方で、う蝕や歯周病という歯科の二大疾患に対しては、長らく形態回復に主眼が置かれていた。そのため、口腔の機能面に対してどのように介入すべきかに関しては、戸惑いをもった歯科医療従事者も多かったものと推察する。予防法の確立されたう蝕や歯周病と比較して、測定値も患者への啓発方法も目新しいものばかりだ。
そこにおいて、「骨年齢」「血管年齢」「肺年齢」「肌年齢」「脳年齢」などというように、口腔機能が歳相応かどうかを示すことができれば、専門的な用語なしで患者に伝わりやすく、各年代における管理の目標が明確になると佐藤教授らは考えた。
お口年齢(口腔機能年齢)を算出するシートを開発
同研究室では、多くの人の年齢ごとの口腔機能低下状況を調査することで、各年代の平均値と分布を明らかにしたと発表した。
続いて、各人の検査結果が同世代の分布のどこにあるかを示すことにより、お口年齢(口腔機能年齢)を算出する方法を開発した。
これにより、各人における管理の目標を明確にすることが可能となったという。
画像はプレスリリースより
従来では、測定値が基準値より上か下かを評価の上、患者指導する。しかしながら、専門家でない患者には伝わりづらいことや、治療目標が年齢によって異なるといった要素の加味が難しいことが課題となっていた(画像左)。
今回開発された計算シートを用いると、以下のような指導例になるという。
「93歳のあなたは、お口の年齢は89歳ですから、すばらしいです。ただし、舌の力は95歳相当ですから、ちょっと鍛えた方が良いですね。ぜひお口をさらに若返らせましょう」(画像右)
このように、「口腔機能年齢」は前向きな生活につながると、同研究室の佐藤教授らは話す。
補綴治療によるお口年齢の変化を「見える化」
さらに、口腔機能年齢を応用することにより、補綴治療前と補綴治療後の変化も分かりやすく伝えることが可能になるという。
画像はプレスリリースより
「口腔機能低下症の検査・管理は医療保険導入2年以上が経過しましたが、まだ十分に普及しているとは言えません。その理由の一つに、管理指導の方法が曖昧であったからと思われます。「口腔機能年齢(お口年齢)」を使うことで、分かりやすい指導を行うことができます 」と佐藤教授らは述べている。
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学術的な裏付けとともに開発された本計算シート。同研究室のHP(http://geria.jp.net/)にて無料でダウンロード・使用方法の閲覧ができる。ぜひ臨床の場でご活用いただきたい。