『Baby-Led Weaning』の日本語版書籍が出版されてから、早3年が経ちました。
歯科医療従事者の皆様の中にも、「BLW」という名前を耳にしたことのある方がいらっしゃると思います。BLWとは、「赤ちゃんが離乳期におかゆ等ではなく、開始初期から固形食を手づかみで食べる手法」。そのようなイメージで認識している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、実はその認識は正確ではありません。正しい支援のためには正しい知識が必要です。BLWの概念は、たとえスプーンでピューレを与えるとしても、離乳期における重要な視点への気づきを与えてくれるはずです。
今回は2023年1月25日(水)と2月15日(水)に行われるWHITE CROSS Liveセミナーに先駆けて、「離乳」に関わるBLWの正しい知識をお伝えしたいと思います。
赤ちゃん主導の離乳、その開始時期はいつ?
まず、BLWはその名称「Baby-Led Weaning」という名前に本質が込められてます。Babyは赤ちゃん、Ledは導く・主導する、そしてWeaningは離乳・離乳食といった意味合いですので、日本語としては「赤ちゃん主導の離乳」と訳されます。離乳のプロセスを赤ちゃんが主導するのか、保護者が主導するのか、そこがもっとも重要な視点です。
「赤ちゃんが主導する」という概念は、離乳の開始時期の決定にも応用されます。通常、離乳の開始時期はどのように決めるでしょうか。月齢で決めるものではないことはすでに多くの方がご存じでしょう。では、前歯が生えるタイミングでしょうか。体の発達で見極めるのでしょうか。寝返りができてから?ハイハイするようになってから?お座りができることは重要な条件になるかもしれませんが、自分でしっかり座れるまで待ってしまうと、かなり遅くなる子もいます。ではどうしたら良いでしょうか。
BLWにおいて、離乳の開始時期は『赤ちゃんが食べ始めたら』となっています。どういうこと?と思われるかもしれませんね。具体的に説明します。
赤ちゃんが支えればお座りできるかな、という状態になったら、まずは大人が食べている時間にその膝に座らせておくなどして、食事の時間に参加させます。そうしてしばらくすると、大人の食べているものに手を伸ばし始めるでしょう。そうなったら、赤ちゃんが口にしても安全で大きめの食材を、大人の食事から取り分けて目の前に並べてみます。
すると、赤ちゃんはその食べ物をなでたり、つかんだりし始めると思います。でもすぐに口には持っていかないかもしれません。しかしこれもしばらくすると、口元に運ぶようになります。でも口の中には食べ物は入らないかもしれないし、入っても口からこぼれてしまうかもしれません。しかしこれも繰り返していくうちに、いつのまにやら口の中に食べ物が入り、噛み潰して飲み込むようになっていくのです。明確に「この瞬間に食べ始めた!」とならないことがほとんどです。
このように、徐々に徐々に上手になっていくのがBLWにおける離乳となります。
考えてみれば、おしゃべりすることも、立って歩くことも、原則的には同じように赤ちゃんが主導するもので、大人がその時期を決めることはできず、徐々に上手になっていくものです。食べることの始まりだけは、周囲の大人が決めてしまう。むしろその方が不自然なのかもしれません。
徐々に食べるのが上手になっていきます
BLWの安全性に対する懸念や不安について、どう考えるか
赤ちゃんが主導するにあたって、基本的に従来のような「ピューレをスプーンで食べる形」で用意してはうまくいきません。赤ちゃんが自分で試行錯誤して食べることを実践していくために、結果としてある程度形のあるものを手で掴んで食べることになります。
この点がどうしても「BLW=初期から固形食を手づかみ」という印象になりやすく、準備が整っていないのに危ないんじゃないかという懸念や、臼歯がないと噛めずに丸呑みしてしまうんじゃないかという不安に結びついてしまうようです。
実際には、準備が整っていなければ赤ちゃんは食べることはできないし、噛めない食形態のものは吐き出します。ただしもちろん、窒息しやすい食形態は避けることや、安定して座って食べることのできる食環境を整えることなど、基本的な安全策をとっておくことは従来法でもBLWでも重要なことに変わりはありません。
私たち歯科医療従事者の重要な役割の一つは、そうした基礎知識を提供することにあるのです。
BLWの有用性についてエビデンスはある?
歯科医師である私がBLWを紹介することや、早期から固形食を食べるスタイルになることから、BLWは歯並びや口腔機能に良いのではないか、と期待されるかもしれません。しかし残念ながら、BLWと歯並びや口腔機能に関する研究はこれまでのところありません。
日本でも昔はBLWと似た「ありあわせ離乳」というスタイルで離乳が行われていた歴史がありますから、そのスタイルに戻した結果、食べられる食品の幅がスムーズに広がり1)、不正咬合を抑制したという研究2)は存在します。しかしこれは厳密にはBLWの研究ではありませんので、現時点では、「BLWと歯並びや口腔機能に関するエビデンスはない」とするのが適切でしょう。
海外でも同様の期待をもって研究がなされていますが、明確な根拠は示されていません。
一方で、早期にさまざまな食品に触れることでいろんな食感の食べ物を受け入れやすくなり、健康的な食習慣の確立に寄与しうることが示されています3)。加えてBLWに関する研究でも、食べることをより楽しむようになることが示唆されています4)。どうやらBLWは食行動の視点からみると、さまざまなメリットがあるようです5)。
見た目としての歯並びもとても大切です。しかし、もっとも重要なアウトカムは「なんでも食べられる」ことだと私は考えます。
歯はそこそこきれいに並んでいて、機能的にも大きな問題はない。しかしどうも食べることに興味がないようで、好き嫌いが多く、固いものは食べないし、大きなものは小さく切ってくれという。そんな子どもに出会うことも決して稀ではないと思います。
歯科の視点で食べることを考えるとやや抜けがちになってしまうのが、この「食行動」に対する視点ではないでしょうか。BLWはその点において子どもたちに貢献できる可能性があると、私は考えています。
とはいえ、BLWが口腔機能や歯並びにどんな影響を与えているのか。それはプラスに働くのか?マイナスに働くことはないのか?そのことも歯科医療従事者としては気になるだろうと思います。
冒頭で述べたように、日本に書籍という形でBLWが紹介されてから3年以上が経ちました。その頃からBLWを実践した子どもたちは、すでに3歳以上になっています。彼らがどのように育っているのか。今後はその評価もしながら、発信をしていきたいと考えています。
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