2011年の発売当初、硬組織切削ができると話題になったモリタのEr:YAGレーザー「Erwin AdvErL EVO」の発売から早13年。2024年になり、これからの時代にふさわしい仕様と機能を備えた次世代の歯科用レーザー「Adverl SH」がついに誕生した。
ここに至るまでは数々の創意工夫と試行錯誤があった。この13年で得られた課題や要望を可能な限り受け止め、「Adverl SH」の製品開発に奮闘したお二人に伺うことができた。
お話を伺った方
導入したその日から使えるレーザーを。
高パルス・高出力化とコンパクト性を両立。ユーザーフレンドリーを実現。
待望の新製品『Adverl SH(以下:アドベールSH)』開発担当者としての感想からお聞かせください
濵田:「Erwin AdvErL EVO(以下:アドベールEVO)」の後継機種をどのような仕様にするのかは、スタート時点からかなり時間をかけて検討を行いました。
その中でぶれなかったのが、“お使いいただく先生方や販社であるモリタの担当者からいただいたご要望やご意見を可能な限り実現させたい” ということ。これが構想時からの軸となり、大きなモチベーションとなり、実現に向けた取り組みを粘り強く進めることができました。
その結果、このアドベールSHは、ベテランのユーザーの方にはもちろん、レーザー初心者の先生方にも、“導入したその日から迷うことなくお使いいただけます”と自信を持って言える製品になったと感じています。
勝田:難産だった赤ちゃんがやっと生まれた感じです(笑)。レーザー製品の開発・製造部門・品質技術部など、いろんな部隊が関わってここまで作り上げることができたので、まさにチームの総合力を結集した結果生まれた製品と言えます。
アドベールSHの開発にはどれだけの人たちが関わってきたのでしょうか?
勝田:総出でしたね。製品評価では若手社員に頑張ってもらいました。組み立てやすさを追求するために、生産技術部や製造部と改良を重ねました。さらに市場で満足していただける品質の確保について、品質技術部や開発部と話し合いを続けました。チーム全員で作り上げたという言葉がふさわしいと感じています。
アドベールSHの開発でもっとも大変だったのはどの部分でしょうか?
勝田:いちばん大変だったのは発振器です。まずはレーザーの種となる蛍光を発生させ、それをレーザーとして効率よく増幅させるという基本性能を担保しながら、サイズ感を含めてうまくその中にパッケージングしていくという作業が大変でしたね。
濵田:アドベール EVOは、硬組織や軟組織、歯周組織など幅広い適応症例を持ち、低侵襲で患者さんに優しい治療を実現するデバイスとして高い評価をいただいてきたと感じています。一方で、処置に時間がかかり、とくにエナメル質などの硬組織がなかなか効率的に切削できないという課題を抱えていました。
その課題を克服するため高パルス化・出力範囲の拡大やHard/Softの2モードを搭載するなどの性能向上を実現し、且つできる限りコンパクトに収めたいというところのバランスを保つのはとても大変でした。切削効率のアップだけを考えれば高パルスに対応する大容量の電源を備えれば可能なのですが、そうすると機器自体のサイズが大きくなってしまいます。それでは私たちが目指す“コンパクトで使い勝手が良いものに改良して臨床でもっと使っていただきたい”という想いから離れてしまうのです。
では、どのようにして高パルス化と小型軽量化を両立させることができたのですか?
勝田:発振器に内蔵されている共振器を小型化、高効率化できたというところがいちばん大きいと思います。それは、発振効率を向上させることで、装置内部の電源や冷却機構を小さくすることができるからです。
濵田:確かにそこに今回の開発の多くが集約されていると感じます。ノウハウもたくさんあるので具体的に解説できないのが残念ですが、何度も設計の見直しを図ってトライ&エラーをひたすら繰り返し、発振器の中の構造はアドベール EVOからはガラッと変えています(図1)。
図1 アドベールSHの発振器(右)。アドベールEVO(左)と比べて大幅な小型化を実現。
高パルスになることで、臨床的にはどんなメリットがあるのでしょうか?
勝田:硬組織では、切削時間が大幅に短縮されました。軟組織では、切開速度が短縮されると同時に、切開時の引っかかりも軽減され創面もアドベールEVOに比べて滑らかでキレイに仕上がるようになりました。このことは治癒期間の短縮にも繋がり、患者さんの痛みの軽減にも寄与すると考えられます。
濵田:実際に、これまでアドベールEVOの時に評価をくださっていた先生方からも、豚の顎骨を使って試していただき、使用感に関する高い評価をいただくことができました(図2)。さらに、先生方のそうした使用感を裏付ける検証も大学や研究機関に協力を仰いで、エビデンスの構築も行っています。
図2 同じ手技速度で切開した場合の豚下顎骨切開痕を比較(術者 東京医科歯科大学 水谷幸嗣先生)。
高パルス化を実現する過程で特筆すべきエピソードはありますか?
濵田:これまで一般的に Er:YAGレーザーは熱影響が少ないというメリットがある反面、デメリットに止血性能の低さがあると言われてきました。
しかし、アドベールSHはアドベールEVOの最大で2倍のパルス設定ができるため、高パルスで連続波に近い照射が可能です。ブタ血液を用いた実証実験において、アドベール EVOよりも止血性能がかなり高くなっていることが分かり、とても喜んでいたのですが、その後に業者から購入したブタの血液には凝固を防止するヘパリンなどの成分が含まれていることを知りました。実際の血液とは条件が違ったんですよね。
そこで、実際の臨床現場で先生方に評価をお願いしたところ、あらためて「止血効果が期待できる」とのコメントをいただきました。これまでEr:YAGレーザーの弱点とされていた部分も、今回の高パルス化の実現によって克服したいという思いはあります。
“レーザー初心者の先生方でも迷わずに使える”
手技を簡易化し、ユーザビリティを大きくアップデート
アドベールSHでは新たにHardとSoftの2つの照射モードを選択できるようになりましたね
濵田:はい。処置に最適なモードを選択することで、手技の簡易化と治療効率の向上、患者さんのストレスの軽減ができると期待しています。
どちらも照射エネルギーは同じですが、光強度のピーク値とパルス幅(1パルスあたりのレーザー照射時間)を変化させています。Hardモードでは光強度のピーク値を高く、逆にパルス幅を短くすることで深い切削/切開が可能になっていて、エナメル質などの硬組織の蒸散などを想定した設定になっています。一方、Softモードはピーク値を低く、逆にパルス幅を長くすることで軟組織や痛みを感じやすい箇所の処置を想定した設定になっています(図3)。
勝田:他の製品でも同じようにモード調整が自由に設定できるものもあります。ただ、使いこなすのが難しい。
アドベールSHは、“レーザー初心者の先生方でも迷わずに使えるように”ということがいちばんのコンセプトですから、Hard/Softの設定をあらかじめプリセットしておいて、どちらかを選択していただくだけの仕様にしています。
図3 Hardモード/Softモードの照射イメージ図
アドベールSHのもう一つの特長とされるプリセットモードについて教えてください
勝田:新製品開発におけるもう一つの課題に、「レーザーが良いのは分かるけど処置に時間がかかり、出力設定やチップ選択などが分かりにくい」といったイメージをお持ちの先生方にメスを入れたいという想いがありました。
そこで、先生が「この処置に使いたい」となれば、迷うことなく使用する出力やチップがナビゲートされるプリセットモードを搭載することにしたのです。
濵田:このプリセットモードには、あらかじめ各症例に合わせたチップ・出力・Hard/Softモードがプリセットされています。そしてお使いになるチップを変更した際も、変更したチップに合わせてプリセットが自動で変更される仕様になっています。
特にレーザー初心者の先生や、チップごとの特徴や細かな出力設定を完全に理解できていない方でも、抵抗なくお使いいただけることが大きなメリットです(図4、図5)。
図4 最初にレーザー処置を行いたい部位を選び、次に症例を選択するとプリセットされたチップや出力が表示される仕組みになっている。
図5 全18種の症例がプリセットされ選択できる。症例は分かりやすくイラストで表示され、処置内容が視覚的・直感的にイメージできる。
プリセットモードの実現にあたって苦労された部分はどこですか?
濵田:苦労した部分は、各症例にプリセットされる出力条件の検証と、それを示す症例イラストです。
出力条件は、非臨床評価を繰り返し実施する中であたりをつけ、先生方による臨床評価をいただきながら検証を進めました。
症例イラストは、一目で症例のイメージが沸くことと、同時に簡単なチップの操作方法もイメージできることにこだわって作り上げました(図6)。
図6 プリセットモードは「レーザー初心者の先生が使う場合どの設定を選択していただくのが良いか」という視点でセッティングされている。もちろん先生によってお好みの設定に変更するなどのカスタマイズも可能。
勝田:例えば歯周ポケットへの照射だけが目的であった先生でも、このプリセットモードの症例一覧をご覧いただくことで、「口内炎にも使えるのか。その時の照射条件と推奨チップはこれなんだ!」と気づいていただけますし、「こんなに幅広い症例に使えるんだ」ということで、新たな処置にチャレンジしていただける可能性も広がると感じています。
ファイバー部分はアドベールEVOと同じですか?
勝田:ファイバー自体の構造は同じですが、細かなデザインを変更しました。操作性に関しては従来を踏襲して使いやすくということで、先生方のご意見を伺って柔らかさなどに微妙な改良を加えています(図7)。
図7 レーザー光を伝送するファイバーにも細かな改良が加えられている。
お二人とも「メカ屋」と伺いました。その立場から特にこだわった部分はどこでしょうか?
勝田:アドベールSHは、コンパクトだと感じるサイズ感に加えて、重量を軽くしているのですが、全体的にコンパクトにすると、器内の温度が上がってしまいます。それを回避するために、ファン制御とダクトの位置関係の実験を繰り返して現状のサイズを維持しました。ここはメカ屋として大きなこだわりですね。
細かいところだと、清掃しやすいようにフィルターのカバーを着脱式にしました(図8)。
アドベールEVOは横から吸気して背面から排気していましたが、アドベールSHはどこから見てもメカメカしい部分は見られず非常にスタイリッシュで、私自身とても気に入っています(図9)。
濵田:背面は意外とチェアサイドの患者さんからも見られることが多いという声もありましたので、アドベール SHでは底部にファンを設けています。
勝田:水量が確認しやすいように取り付けたライトにもこだわりがあって、照明の光らせ方も何度も試作していちばん見えやすいように工夫しています(図10)。
タッチパネルの高さや角度はアドベール EVOに合わせていますが、光の反射をできるだけ抑えるために光沢フィルムはあえて採用せず、マット感を持たせながら、かつデザインとの一体感にも配慮しています。
図8 下部にある吸気用ダクト。
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図9 左がアドベールSH、右がアドベールEVOの背面。アドベールSHは排気用ダクトを底面に設けたため、背面がシンプルかつスタイリッシュ。
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図10 給水タンク。
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その他にも改良点はありますか?
濵田:アドベールSHでは奥行きが短くコンパクトになりましたが、その分ゴーグルなど上部に置いていたスペースが狭くなってしまいました。そこでゴーグルを横のハンガーに架けられるようにして、上部にはチップなど処置に必要なものを置くように提案させていただきました。このゴーグル用ハンガーは意外に評判が良いですよ(図11)。
勝田:他には、アドベールEVOは前輪だけが可動式で後輪は固定されていましたが、「4輪とも動くようにしてほしい」という先生方からいただいた要望を受けて、アドベールSHでは後輪も含め4輪が自在に動くようにして、取り回しを向上しています。
図11 移動用のハンドルや左右付け替え可能なゴーグル用のハンガーなど、使い勝手に配慮したアップデートが随所に感じられる。
最後にお二人から先生方にメッセージをお願いします
濵田:自分の息子が歯科医院を受診した際に、偶然その医院さんにはアドベールEVOがありました。しかし、残念ながら息子の治療には使ってもらえませんでした。その理由を伺うと「処置のためにわざわざ出してくるのが面倒、歯が削れない、もっと勉強すればいいんだけど、mJの設定などがよく分からない」と言われてしまいました。しかし、「これがお使いになる先生方の本当の意見なんだ」と感じて、新たな開発構想が猛烈に湧いてきました。先生方がこれまでお持ちだった「良いのは分かるけど、使うには敷居が高い」という声を受け止め、アドベール SHにそのすべてを盛り込んでいます。これまで躊躇されてきた先生にこそ、ぜひ試していただきたいと思います。
勝田:レーザー初心者の先生はもちろんですが、これまでアドベールEVOや他のレーザー装置をお使いの先生方にもぜひ使ってみていただきたいですね。レーザーに特化したテクニックは必要なく、ゆっくり動かさないと切開できないということもありません。先生のイメージに近い切削・切開が可能になっていますから、長年レーザーをお使いの先生ほどアドベールSHの良さは分かっていただけると感じています。先生方からのご意見を伺うのを今から楽しみにしています。
こだわり満載!アドベールSH
さまざまな治療シーンに対応できるEr:YAGレーザーのアドベールSHは、患者さんと術者の負担をやわらげ、効率的なレーザー治療を実現します。