日本国内における新型コロナウイルス(以下、COVID-19)の感染拡大は、終息に向かっている。
日本国内の現在感染者数推移(厚生労働省発表に基づき作成)
全国レベルでの緊急事態宣言が解除されて1週間が経とうとしており、日本社会は段階的な経済再開に向けて歩み始めた。第2波、第3波の可能性が指摘される中で、感染拡大防止と経済のバランスを取るため、政府はCOVID-19を「正しく恐れること」の大切さを訴えている。
歯科医療もまた、国民にその価値を適切に提供していくために「正しく恐れること」の具体的な基準について、積極的に情報発信するべきタイミングに入っている。4月中下旬の各種メディアによる煽るような報道により生まれた歯科医療への恐怖は、歯科医療界が真の出口を迎える上で是正しなければならない"ひずみ"である。歯科医療の受け手である国民の健康のためにも、歯科医療界として積極的に情報発信を行い、早期に"ひずみ"を解消していくことが求められている。
その旗振り役は、日本歯科医師会・日本歯科医師連盟、各都道府県歯科医師会などが担っている。神奈川県歯科医師会は、県民に向けた「7つのお願い」、歯科医療従事者に向けた「歯科医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応指針」を作成し、双方向性の情報発信を行っている。
WHITE CROSSでは、日本国民・そして日本中の歯科医療従事者に向けた価値ある情報として、神奈川県歯科医師会に許可をいただきメッセージとビデオレターの掲載をさせていただいた。
神奈川県歯科医師会の活動
神奈川県歯科医師会からの7つのおねがい
神奈川県歯科医師会は、5月15日にそのホームページ上で県民に向けた「7つのお願い」を掲載した。そして、同29日、読売新聞・神奈川新聞・産経新聞の神奈川県版に全面広告を掲載し、同時に松井克之会長による神奈川県民に向けたビデオメッセージをYouTube上で公開した。
出典_YouTube_県民の皆様へ③ー神奈川県歯科医師会 会長メッセージ
7つのお願いは以下の通りである。
① マスクをしてください
② 手を洗ってください
③ 無理をせず、家で休んでください
④ うがい・歯みがきをしてください
という、政府が発表する「新しい生活様式」などに沿った項目に加えて、
⑤ むし歯を放っておかないでください
むし歯を放っておくと、やがて歯を失うことになります。噛む機能が足りないと、糖質偏重の食事になりがちです。タンパク質不足が進行し、免疫力の低下を引き起こし、ウイルスに感染しやすい体となります。コロナに負けない体づくりは、栄養、運動、社会参加の3つです。未病の改善を心がけましょう。
⑥ メインテナンスは継続してください
検診とは、むし歯の有無や歯周病の進行を調べること。メンテナンスとは、むし歯や歯周病を進行させないために歯科医院で計画的に維持管理すること。検診とは目的・内容が違います。メインテナンスは計画的な治療の一環です。継続していただくようお願いいたします。
⑦ かかりつけ歯科医に相談してください
お口の中の病気はむし歯や歯周病だけではありません。舌の病気、顎の病気、骨の病気などさまざまです。これらの病気をいち早く発見し、治療することによって救われる命がたくさんあります。治療やメインテナンスの継続・延期は、ご自身で判断なさらず必ず「かかりつけ歯科医」にご相談ください。
という、まさに歯科医療として発信するべき情報が、一般社会向けに記載されている。
そして、「新型コロナウイルスに対して、患者さんを助けるために、医療従事者はみんな頑張っています。感染が怖いのは医療従事者も同じ。それでも、みんなの命を守るために闘ってくれている人々に、感謝とエールを送れる社会でありたいです。私たち歯科医療従事者も、県民のみなさまの健康寿命延伸のために、頑張ってまいります。」という8つ目の願いで締められている。
歯科医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応指針 Ver. 5(別冊)
歯科の「新しい診療様式」
神奈川県歯科医師会は、2月21日に新型コロナウイルス感染対策室を設置して以降、「歯科医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応指針」を作成し、その会員に向けて適時配信している。当対応指針は、5月28日に改定された最新版でVer.5となっており、先の見えない不安の中でCOVID-19と向き合う歯科医療機関に寄り添ってきた。
緊急事態宣言が一部解除されたことにより徐々に収束の雰囲気となっている中、可能性を指摘されている第2波、第3波に備えた「負担が少なく現実的」な感染予防策の策定に向けた歯科医療従事者向けのガイドラインとなっている。
Ver. 5では、政府が示す「新しい生活様式」に対応した、歯科の「新しい診療様式」を定め、
1. 歯科医療従事者一人ひとりの基本的感染対策
2. 歯科診療を行う上での基本的診療様式
3. 歯科診療の各場面の診療様式
4. 働き方の新しいスタイル
5. 県民へのメッセージ
で構成されている。
出典_歯科医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応指針 Ver. 5(別冊)
写真や図表も多く含まれており、歯科医療機関が誤解なく、適切な感染対策を行える工夫が随所に散りばめられている。
出典_歯科医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応指針 Ver. 5(別冊)
また、来院患者対応チャートにより、歯科医療機関として適切な患者対応方式を簡単に導入することができるようになっている。数多くの歯科医院にこの対応方式が共通して導入されると考えると、その社会的価値は大きい。
「歯科医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応指針」は、神奈川県歯科医師会のホームページからダウンロードすることができる。秀逸かつ充実した内容であり、日本全国の歯科医療従事者にご覧いただきたい。
神奈川県歯科医師会の活動を受けて
個の歯科医院の力では、社会に広く情報発信してくことは難しい。社会に働きかけていく上で、また面として歯科医療を高めていく上で、最も大切なのは数の利を適切に活かすことである。そして、歯科医師会・歯科医師連盟はその役割を担っている。
WHITE CROSSでは、コロナ禍を通じて、さまざまな医療機関・歯科医療従事者を取材してきた。その中において、自らの診療所がありながら患者のために、そして歯科医療従事者自身のために、多くの時間を費やして対応してきた日本歯科医師会・連盟、各都道府県歯科医師会の活動には素晴らしいものがあった。
神奈川県歯科医師会の情報発信は、歯科医療が直面している"ひずみ"の解消に向けた大きな一歩であり、可能性が指摘されている第2波、第3波に向けて「正しく恐れること」の具体的基準を患者・歯科医療従事者の双方に示したものである。
コロナ禍を通じて、日本歯科医師会・日本歯科医師連盟、各都道府県歯科医師会の活動の重要性を再認識した歯科医療従事者は多いのではなかろうか。日本社会において、歯科医療が果たしている役割は非常に大きく、必要不可欠なものである。
with コロナ/after コロナの時代が、歯科医師会・連盟が、すべての歯科医師、および歯科医療従事者を代表する業界団体へと昇華していく時代であることを切に願う。