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経営 2020/08/19

DIY歯科医師がコロナ禍の中で発明したモノ

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大熊秀明と申します。現在、岐阜県本巣郡北方町で七星歯科医院を開業し4年が経ちました。

 

歯学部に入るまでの私には挫折がありました。高校を卒業してからフリーターとして各地を転々とする中、日本社会に対する興味だけは失われませんでした。新聞や週刊誌を隅々まで読み続けるうち、社会悪や正義を考えるようになり、立命館大学法学部に入学しました。続いて弁護士になるために司法試験の合格を目指していたわけですが、当時の司法試験合格率は3パーセント。大半の受験生と同じく、卒後も何年も受からず行き詰まった精神状態でした。29歳になって、これはもうあきらめた方が良いと思いました。

 

そんな中、歯科医師であった兄の勧めで、歯科への道を志すことになりました。30歳で愛知学院大学歯学部に編入学。もともと色々な作り物が好きだったので、歯学部の実習はとても楽しく、はじめて将来の不安が無くなり、未来が明るく思えました。35歳で卒業。しかし歯科医師になってみると、人の体に手を加えて治療することの恐ろしさに戸惑いを感じ、なかなか順調なスタートではありませんでした。年齢の割には、会社員等の社会経験がなかったことも問題だったと今になって思います。今の私があるのは、西大津歯科医院の森岡千尋先生、亡くなって5年になる私の兄、その他大勢の先生方、患者様のお陰だと思っています。

 

七星歯科医院のDIY作品

左上から時計回りに、ガラスケース、サイネージ、セルフケア用品棚、ショーケースとブックシェルフ

 

七星歯科医院では、セルフケア用品棚、ガラスのショーケース、デジタルサイネージなど、なんでも思いついたものは私自身で作ってきました。ネット関係では、医院のホームページ、ネット予約システム、求人のための動画制作もそうです。治療では、個人トレー、咬合床、Tec、矯正装置、スポーツマウスガード、スプリントなど、やはり私自身で作ります。一昨年の11月に始まった下間矯正研修会東京レギュラーコースに参加してからは、このDIY路線に拍車がかかっているように思います。下間矯正研修会では、基礎から学術的・実践的に教えて頂くと同時に、拡大床やリンガルアーチの製作実習、タイポドント実習、症例相談など、大変に楽しく充実したコースで学ばせて頂いています。ときに厳しくて泣きそうなこともあるのですが。

 

こうした学びの場が中止となり、また、日常の診療にも大きな影響を与えたのが、今年のコロナ禍でした。七星歯科医院でも制限的な診療を続ける中、どのような取り組みができるのかを模索していました。

その一つとして、DIYで空気清浄機を作ってしまおうと思い立ったのが5月中頃でした。この時に目を付けたのが古典的なUV方式です。これは、人体においても有害であるUVが漏れない様にした箱の中に空気を送り込み、箱の中を空気が通過する間に、その空気中の細菌やウイルスを除菌する方式です。

 

① 配線だけなら高校生でも作れてしまいそうな構造である点

② すなわち部品点数が少なく、製作費が安価である点

③ 結果として省スペース、軽量である点  が優れています。

 

5月下旬に、大手メーカーである岩崎電気製「エアーリア」の、天井に取り付ける製品の図面を、岩崎電気ホームページで見つけました。シンプルな構造であることを確認すると同時に、同等品を作って七星歯科医院に取り付けようと考えました。製作に必要な部品を取り寄せ、どこに取り付けるか?を決めた上で製作を開始することにし、取り付け場所を考えていたところ、6月4日にチェアーのライトアームに取り付けることを思いつきました。

 

ライトアームに取り付けることがベストな理由は、以下の5つです。

 

① 天井に取り付けない方が高い効果が得られること(これは数式で科学的に判明しています)。

② 診療空間の中央となること。

③ 患者の治療中、タービン、エアースケーラー等を使った際に巻き上がるエアロゾルを、その上方から捉えることができること。

④ UV方式であるならば、ここに取り付けることが可能となる大きさ、重量、形であること(すなわち、ライトアームは、ライトの位置を素早く自由に変えられるよう、比較的軽量でなくてはならず、かつ、可動関節を備えなければならないが、この操作性を犠牲としないこと。UV灯が細長い構造であり、これを覆うダクトが長尺構造となるが、この形状がライトアームに沿わせられること)。

⑤ 比較的長尺の構造物であるライトアームおよびこの周囲のスペースを有効活用しようという試みは、これまでになく、現にそのスペースが利用されずに空いていること。

この「ライトアームに空気清浄機を取り付ける」というアイデアを、岐阜のオンダ国際特許事務所に相談、整理、書類作成して頂き、1か月後の7月10日、特許申請を行いました。日本中で稼働することを夢見ての出願でした。特許というと、お金に目がくらんで、と思われる方がいるかもしれませんが、何よりも優先したのはスピードです。アイデアをチェアーメーカーに説明しようと思っても、その窓口にたどり着き、しっかりと話を聞いて頂くまでに、どれだけの時間を費やすか分かりません。

翌7月11日の昼休み、この製品が実現した場合、どのくらいの割合で歯科医師の先生方が欲しいと思われるかを数字で確認したいと思い付き、数分後にはホワイトクロス様宛に、歯科医師統計コーナーで扱ってもらえないかとお願いをしました。統計コーナーの個人利用は無理ですというお返事には納得し、代わりに記事を書きますか?という御提案には大変感謝をいたしました。

 

翌7月12日は日曜日でしたので、原寸大模型の製作をおこないました。発砲スチロールの板で模型を作ってみて、チェアーに取り付けた様子を確認したかったためです。

そして分かったことは、

① 患者がチェアーに座る際に頭をぶつけそうになること。

② 仰臥位での圧迫感を感じる人が少なくとも1/3程いること。これらを改善するには、後端が跳ねあがるデザイン(前端はアームの下、後端はアームの上)にすれば、装置下方の空間が広がり問題が解決されること。ただし後付けにする装置は圧倒的に難しくなること。UV灯は、アームの下でなく、左右で偶数本(2本か4本)にすると自由度が上がること、でした。

 

 

次に、製品として考えたとき、口腔外バキュームとの競合はあるのかを考察しましたが、「ない」というのが結論になりました。


さらに、エアロシステム等、空調設備との競合はあるのかを考察し、結論として、「あると言えばあるし、ないと言えばない」となりました。患者が動き回る待合室にエアロクリーン、患者のチェアー真上にUV方式の空気清浄機というのが合理的であり、コストの節約にもなりそうだと考えます。

 

7月21日、以上の考えを、ある歯科製品の技術者Mさんに話したところ、

① 医療機器の改造や2つの製品の合体は、安全性やルール上難しい

② 医療機器には治験が必要で、空気清浄機は医療機器ではないので、やはりこの点でも難しい とのことでした。

 

大変に難解な話で、こうして言葉にすると、私の理解不足による間違いがあるかもしれないことはお断りさせていただきますが、その時は納得せざるを得ない話でしたし、教えて頂いたことに感謝いたしました。

 

翌7月22日、新たな疑問が出てきました。チェアーのユニット内部には浄水器があるが、これとて単体では医療機器にはなれない製品ではないだろうか?という疑問です。浄水器が医療機器に組み込まれた結果、一体として医療機器となるならば、たとえ空気清浄機であっても、ライトアームと結合してチェアーと一体になれば、全体として医療機器となるチャンスがあるのではないか?と考えた訳です。もちろん治験は必要になると思うのですが。

 

以上の問題を抱えてはいるのですが、この空気清浄機には「UV Mantaray」という名前を付けました。チェアーのライトと一緒に動き回る姿と、空気の吸入部が、エイのマンタレイと似ているからです。

 

 

私の特許出願日(2020年7月10日)の4日前、世界の科学者239人が新型コロナウイルス感染症に関する共同意見書を発表し、WHOに対して、空気感染する可能性があることを認識し、それに応じて感染防止策を見直すよう訴えました。そしてWHOもUVの有効性を示唆するに至っていますので、「UV Mantaray」付きのチェアーが製品化されることを、より強く願っています。そしてまずは、チェアーメーカー様に私の声が届けばと思っています。

読んでいただきありがとうございました。ご質問があればコメント欄にコメントしてください。

執筆者

大熊 秀明の画像です

大熊 秀明

歯科医師

七星歯科医院

待合室DIY、ホームページDIYなどなど、作るって面白い!ということでDIYを追求しています。

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