2021年6月24日より14日間、日本成人矯正歯科学会の第29回学術大会がWeb開催されている。
日本成人矯正歯科学会は、1993年に設立。会員数が1,200人を超え、矯正専門医の認定だけでなく、矯正歯科衛生士認定制度、歯科技工士認定制度、歯並びコーディネータ研修会等を企画実行するなど、人材育成に意欲的に取り組む学会のひとつだ。
学術大会を全編Web開催とすることは今回が初めての試みとなる。
本記事では、今大会の概要や豊富なプログラムの一部をレポートしたい。
症例展示
矯正歯科系の学術大会の最大の特色と言えば、石膏模型の展示である。
従来、症例概要や口腔内外の写真だけでなく、術前、術後、保定の状態を模型で観察することで、学会参加者の症例理解を深めていた。
Web開催となった今大会では、Webならではの新たな表現として、WebGLという技術を用いて、CAD/CAMの3Dモデルデータをそのまま利用しての模型展示を、PC・スマートフォンを問わずに実現している。本取り組みは、国内初の試みだそうだ。
実際の3D模型の症例展示。咬合面/上顎/下顎を選び、自由に操作・閲覧することができる
学術講演
◆特別講演1「審美的矯正治療と歯科矯正用アンカースクリューの併用」
本吉満先生(日本大学歯科矯正学講座教授)
審美的矯正装置として、舌側矯正装置、アライナー矯正装置がある。特にアライナー矯正は、近年急速に普及しメジャーになりつつある矯正治療法だ。一方で、当然ながら、欠点も持ち合わせている。
それらの欠点は、アンカースクリュー(Orthodontic Anchoring Screws;OAS)を用いることで、補うことが可能だそうだ。アンカースクリューは、①無制限の歯の移動、②予知性の高い治療結果、③患者さんの協力度に依存しないという利点があると本吉先生は話す。
固定式矯正装置とアンカースクリュー、アライナーを用いた症例を多数供覧しながら、文献も交えて詳細に解説した(他、5演題)。
コ・デンタル学術講演
◆特別講演「歯周治療をベースにした診療システムの構築〜歯周治療成功のカギはカウンセリングにあり〜」
若林健史先生(医療法人社団真健会若林歯科医院)
渋谷区で開業の若林健史先生は、はじめに歯周治療が「うまくいった」症例と「うまくいかなかった」症例を紹介。
歯周治療において、患者さんの協力は必須であり、そのためには歯科医院全体のレベルアップを図る必要があるとのこと。歯科医師や歯科衛生士だけでなく、受付・歯科助手・歯科技工士も含めたひとつのチームで、患者さんが安心して通院できる環境づくりを目指す必要があると話した。
その中でも、患者さんに歯周治療への理解を深めてもらうための「カウンセリング」は大きなポイントになると説明。患者さんによって、口腔の健康に対する価値観はさまざまであるため、デンタルIQを向上させるために刺激するべき要素を見極めることが重要であるという。
また、メインテナンスにおいては、治療終了後に術前・術後の比較をしながら行う「ポストカウンセリング」が有効であると解説した(他、3演題)。
市民公開講座「おとなの矯正 こどもの矯正」
市民公開講座では、三鷹市のスマイル矯正歯科で副院長を務める中澤真紀先生が子どもの矯正治療について、東京都中央区で開業の坂本紗有見先生が成人の矯正治療について解説。
中澤先生はまず、頬粘膜や舌小帯など、口腔内の名称をイラスト付きで解説。実際の症例を挙げ、診断のポイントや使用した装置、治療にかかった期間を紹介した。
小児矯正は治療期間が長くかかることもあるが、顎の向きや大きさを変えるなど、成長期だからこそできる治療もあるという中澤先生。保護者から多い質問や小児矯正のメリット、食生活と歯並びの関わりについて説明した。また、近年急増する「お口ぽかん(口唇閉鎖不全)」についても解説、警鐘を鳴らした。
成人の矯正治療について講演した坂本先生は、まず初診相談で患者さんからよくある質問を紹介。対象年齢や治療にかかる期間、治療中の制限事項についてなど、坂本先生が実際の診療で回答している内容を解説した。
最後には唾液分泌を促進するためのエクササイズについても紹介。頬や口周りのマッサージ、舌まわし、あいうべ体操など、食事前に行うことで唾液が出やすくなり、う蝕予防や味覚を感じやすくなるなどの効果があるという。
他にも、初診で行われる検査や分析の方法、矯正治療と外科治療を併用した外科矯正、全身疾患や新型コロナウイルス感染拡大が口腔におよぼす影響などについても解説した。
【市民公開講座は一般公開中!医療従事者の方もご視聴いただけます!】
https://jaao029.whitecross.co.jp/archives/2954
その他の多彩なプログラム
上記のプログラム以外にも、合計16の講演、14のポスター展示、27の商社展示、共催セミナー(カボデンタルシステムズ株式会社、株式会社ヨシダ提供)など、多彩なプログラムが用意されている。
Web開催ということで、好きな時間や場所でじっくりと学術に触れることができる、またとない機会になっている。
参加申込
参加登録 7月7日(水)17:00まで
○ 歯科医師 13,000円(会員)/23,000円(非会員)
○ コデンタル 4,000円(準会員)/6,000円(非準会員)
○ 歯並びコーディネーター 3,000円