今回は小森成先生の「過去から紐解くアライナーの現在地と臨床」の内容についてお伝えする。本セミナーはアライナーの歴史から実際の症例まで、アライナー矯正について幅広く学べるセミナーだ。
前半はアライナーの歴史ついて解説されており、アライナーがどのような変遷をたどって現在の形に至るのかを知ることができる。後半はアライナー矯正の特徴に重きを置き、アライナー矯正のデメリットやアライナー矯正に関する疑問をエビデンスベースで解説している。
アライナー矯正をどのように臨床に取り入れていくか悩んでいる先生や、リカバリーのタイミング・手法を知りたい先生にとっては必見の内容である。
【1月13日(金)まで振り返り視聴期間中!】お申し込みはこちら
アライナーの歴史を知る
まずはじめに小森先生は、アライナーの歴史について解説。アライナーの原形は、今から一世紀も前の1925年に登場し、当時は「Dental Massage Device」という名称で歯周病治療に用いられていたという。
アライナーが矯正治療に応用されたのは1945年のことで、セットアップモデルをもとに、ゴム性のアライナーを作製し、歯列矯正が行われた。当時はマルチブラケット装置によるワイヤー矯正の仕上がりが悪く、それを補完するためにゴム性のアライナー矯正が開発されたのだという。この開発の背景には驚いた。
現在のアライナーはゴム性ではなく熱可塑性樹脂でできているが、熱可塑性樹脂のアライナーは1964年に考案されたとのこと。
近年ではデジタル歯科技術の普及により、熱可塑性樹脂のアライナーは広く普及し、さまざまなメーカーがアライナーの製作を請け負っている。インビザラインの製作過程ではアライナーの研磨工程などに手作業が残っているが、大分部がデジタル化・機械化されている。セミナーでは実際のインビザラインアライナーの製作過程が動画で紹介された。
インビザラインアライナーの製作過程
アライナー矯正における3つのデメリットとは?
アライナー矯正には、アライナーを用いるがゆえのデメリットが3つ存在するという。
① grip loss
② aligner lag
③ compliance
まずgrip lossである。アライナーは歯を掴むことで矯正力を歯に伝えるが、短い歯冠や上顎犬歯のようなアライナーが掴みにくい歯冠形態の場合、アライナーが歯をうまく掴むことができないことがある。その結果grip lossが生じてしまう。
次にaligner lagである。grip lossの結果、予定された矯正力を歯に伝えることができないと歯の移動は計画通りに進まない。予定している歯の移動量と実際の移動量の差がaligner lagである。
最後にcomplianceである。アライナー矯正ではアライナーをできる限り長時間装着することが推奨されており、装着時間を確保するためには患者さんのコンプライアンスが大切である。アライナーが患者可撤式だからこそ生じるデメリットである。
これらのデメリットを解決するために、アタッチメントの付与やオーバーコレクション、再スキャンなどが行われるが、grip lossが避けられない以上はアライナー単独での矯正治療には限界があると小森先生は語った。
マルチブラケット矯正とアライナー矯正におけるそれぞれのデメリット
アライナー矯正の基本的な疑問にズバリ答える!
続いて小森先生は、アライナー矯正の基本的な疑問として、以下の4つの疑問に回答した。
① 計画通りに歯は動くのか?
② アライナーは1日何時間着けるの?
③ 治療効果はみんな一緒?
④ アライナーを交換する頻度はどれくらい?
ここでは ① についての回答の一部をまとめる。
小森先生は ① の疑問に対して、「アライナー矯正では歯は計画通りに動かない」と回答した。その原因は前述したgrip lossにあり、アライナー枚数が増えれば増えるほどgrip lossによるaligner lagが大きくなり、理想的なゴールと現実は離れていくとのことだ。
① の対策やその他の回答については、ぜひセミナーを視聴していただきたい。
アライナー矯正において避けられないaligner lagへの対応
***
セミナーの終盤では、アライナー単独の矯正治療ではうまくいかなかった症例が供覧され、実際に小森先生がどのように治療計画を修正したのかが説明された。
アライナー矯正を過信せず、必要に応じて他の治療手段を併用することが大切だと小森先生はいう。アライナーの現在地を理解して、正しく臨床に適用していきたいものである。
最後は「決してアライナーを責めてはいけない。アライナーを選択した術者に責任があることを忘れてはいけない。」と、重みのある言葉で締めくくられた。
執筆者
臨床のかたわら、歯周治療やインプラント治療についての臨床教育を行う「Dentcation」の代表を務める。他にも、歯科治療のデジタル化に力を入れており、デジタルデンチャーを中心に、歯科審美学会やデジタル歯科学会等で精力的に発表を行っている。