コンポジットレジン(CR)による修復を行った際、充填したレジンが周囲と調和しなかった経験がある先生は多いのではないだろうか。
ダイレクトボンディングの勘所を教えてくれるのが「シンプルに行う自然感のある前歯ダイレクトボンディング〜形態・色・表面性状の調和〜」だ。本セミナーは「ダイレクトボンディング完全網羅全3回コース」の第1回である。
講師は日本補綴歯科学会の指導医でもある大谷一紀先生。シンプルかつ美しい症例が多数供覧された本セミナーをレポートする。
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ダイレクトボンディングがもたらすメリット
大谷先生はダイレクトボンディングの特徴として、以下の5つを挙げている。
① 低侵襲:ダイレクトボンディングは感染歯質を除去するだけなので、より多くの健全歯質が保存できる。
② 審美的:金属を使用しないため、審美的な修復が可能である。現在ではユニバーサルシェードのCRも登場し、特に臼歯部では1つのシェードで十分な色調適合性を獲得できるようだ。
③ 即日修復:インレー修復では実日数が2日かかるが、ダイレクトボンディングは1日での治療が可能である。
④ 長期予後の安定:正しい接着操作を行うことで、長期予後も期待できると大谷先生はいう。特に大切なことは、「使用直前の採取」と「ボンディング材の十分な塗布」、「エアーによる乾燥」であるとのこと。
⑤ 低コスト:セミナーでは充形と修形のコストについて考察されている。充形では消耗品のコストが低いことが伺える。
充形の消耗品コストと保険点数
天然歯と調和させるための三要素
天然歯とCRを調和させるためには、「色彩」と「形態」、「表面性状」の3つに配慮しなければいけないと大谷先生は語る。
1.色彩
色の尺度として明度と彩度と色相があるが、重要なのは明度であるという。天然歯との調和において、彩度や色相の影響はそこまで大きくないようである。
歯冠修復においては、明度は透明度と考えることができる。明度と透明度の関係性については、本セミナーで知識を整理しておきたい。明度をコントロールするための、CRの選び方についても触れられているので、ぜひ動画を確認してほしい。
2.形態
天然歯との調和を目指す上で、もっとも大切な要素は形態である。隅角や隆線などの解剖学的形態を模倣することが、天然歯と調和した修復の鍵となる。
大谷先生は自分でワックスアップすることが、形態を把握するために重要だと話す。ワックスアップによりCRの築盛量を事前に把握することもできる。さらに、ワックスアップをしたスタディモデルからシリコンガイドをつくることで、チェアタイムを短縮することも可能だ。
シリコンガイドを使用したダイレクトボンディング
3.表面性状
若年者では周波状などの表面構造が残っている場合が多く、充填部位を滑沢に研磨してしまうと違和感が生じる場合がある。セミナーでは、若年者の表面性状を再現するテクニックが紹介された。
大谷先生はファインのバーで前歯部唇側の形態を修正し、充填部位表面に意図的に傷を残すことで表面性状を再現している。
ファインのバーを用いて無注水下で形態を修正する
ダイレクトボンディングで生きる2つのテクニック
本セミナーでは、ダイレクトボンディングで生きるテクニックとして、以下の2つが紹介された。
① Snowplow Technique
Snowplow Techniqueとは、フロータイプとペーストタイプのコンポジットレジンを用いて、緊密な充填を行うテクニックである。窩底部にフロータイプを少量充填し、硬化させずにペーストタイプを上から充填する。そうすることで、フロータイプが根管充填におけるシーラーの役割を果たして、窩洞にデッドスペースなく充填できるという。
大谷先生もよく使用するテクニックとのことで、セミナーではSnowplow Technique を使用した2症例が紹介されている。
Snowplow Techniqueの模式図
② Pull Through Technique
Pull Through Techniqueとは、ウェッジを使用せずに、コンタクトを付与するテクニックである。歯間部にストリップスを挿入し、ペーストレジンを唇側に充填する。その後、ストリップスを口蓋側に引き抜く。形態を修正してから光照射を行い、コンポジットレジンを硬化させる。
セミナーでは、正中離開に対してPull Through Techniqueを使用したケースが動画で紹介されている。
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本セミナーは「ダイレクトボンディング完全網羅 全3回コース」の第1回目である。
タイトルにあるように非常に「シンプル」なのが印象的なセミナーであった。ダイレクトボンディングの勘所を理解することで、シンプルに美しく修復するコツがわかる。
保険治療にも自費治療にも生かすことができる、必見のセミナーだ。