ユニバーサルシェードというものが発売された時の驚きは今でも忘れない。
今回は脇宗弘先生がユニバーサルフローの極意を紹介したセミナーの中から、ユニバーサルフローが得意とする症例の選択基準や、接着修復治療の要点についてレポートする。
なお、ユニバーサルフローとはユニバーサルシェードのフロアブルコンポジットレジン(CR)のことである。本稿では、ユニバーサルフローの中でもクリアフィル® マジェスティ® ES フロー Universalを使用した、美しい症例を多数紹介する。
セミナーは、“失敗ゼロ”のユニバーサルフローと題して開催された。
MIコンセプトに基づく接着修復治療
脇先生はMIコンセプトに基づいた接着修復治療を実践しているそうだ。そもそもFDIによるMIの原則とは以下の5つである。
① 口腔内細菌叢へのアプローチ
② 患者教育
③ 初期う蝕病変の再石灰化
④ う窩に対する最小侵襲の修復処置
⑤ 不良修復物の補修
Minimal Interventionの原則。
予防的なアプローチも含むMIの原則だが、特に「④ う窩に対する最小侵襲の修復処置」において、チェアーサイドでの接着修復処置が果たす役割は大きい。
MIコンセプトに基づく接着修復治療を実践することは、歯科治療の繰り返しによって口腔内の状況が悪化していく、「負のスパイラル」を断ち切るための唯一の手段であると脇先生はいう。
接着修復治療のポイント
接着力と重合収縮力に配慮した手技が、接着修復治療の成功の鍵を握ると脇先生は語った。
ワンステップボンディング材の正しい接着操作
本セミナーではワンステップボンディング材を正しく使用するための要点がまとめられていた。本稿でワンステップボンディング材の特性を確認してもらいたい。
ワンステップボンディング材は「歯質とボンディング材の接着」と「ボンディング材とCRの接着」をワンステップで可能にする。
歯質とボンディング材の接着では親水プライマーが重要な役割を果たし、ボンディング材とCRの接着では疎水プライマーが重要な役割を果たす。
親水性と疎水性の相反する性質が1液中に存在しているため、ワンステップボンディング材にはアルコールやアセトンなどの有機溶媒と水分が溶媒として含まれている。これらの溶媒への対策が、ワンステップボンディング材の能力を十分に引き出すことにつながる。
ボンディング材の接着対象。
有機溶媒はすぐに揮発してしまうため、ワンステップボンディング材を使用する直前に用意することがポイントだ。さらにたっぷりと窩洞内に塗布することで、十分な機能を発揮すると脇先生は述べた。
溶媒の水分は接着阻害因子となるため、エアーブローでしっかりと飛ばす必要がある。エアーブローの目安は、窩洞に塗布したワンステップボンディング材が波打たなくなるまで。エアーブローの結果、ワンステップボンディング層が薄くなるため、フロアブルレジンによるライニングで重合収縮力の影響を減らすことが重要である。
重合収縮力への配慮
重合収縮による悪影響を減らすためには積層充填が有用だと脇先生は語る。窩洞に一塊でCRを充填するよりも、2層以上に分けて積層充填する方が接着強度は増加するようである。
接着強度が増加することで、コントラクションギャップの発生を抑制でき、二次う蝕や術後疼痛、褐線の発生を予防することができる。
クリアフィル® マジェスティ® ES フロー Universal には粘稠度の違いにより、Super Low、Low、Highの3種が用意されており、積層充填には最適だ。
粘稠度の違いにより、High、Low、Super Lowがある。
脇先生は I 級窩洞のような基本的なケースでは、Highフローでライニングし、中間層にLow フローを使用。最表層にはSuper Lowフローを充填すること提案している。Highフローは流れがよく、窩洞を薄く被覆できるのでライニングに向いている。Lowフローは III級、IV級、V級窩洞などで使えるオールマイティな1本。咬合面形態の再現には賦形性に優れたSuper Lowフローがおすすめだ。
CR修復における問題点
脇先生はCR修復における問題点として、形態の再現が間接法と比べて難しいことを挙げている。
形態の再現性
天然歯の形態を再現する上では、ペーストタイプのCRが有利である。一方で、フロータイプのCRは賦形性に劣るものの、シリンジで窩洞内に直接デリバリーすることができ、窩洞とのぬれ性も良い。
なお、フロータイプの賦形性という弱点は、粘稠度の高いCRを最表層に使用することで克服できるとのこと。その点でクリアフィル® マジェスティ® ES フロー UniversalのSuper LowフローはフロータイプのCRのメリットと、ペーストタイプの形態再現性を兼ね備えている。
色彩の再現性
ユニバーサルシェードのCRは、シェード選択の時間を短縮することができる。クリアフィル® マジェスティ® ES フロー Universalは、オートカラーマッチングシステムによって良好な色調適合性を得られる。ユニバーサルシェードのみであるため、全症例において良好な色調適合性を得ることは困難であるものの、脇先生は自身の症例の9割でクリアフィル® マジェスティ® ES フロー Universalを使用しているとのこと。適応症例の幅広さがうかがえる。
また、クリアフィル® マジェスティ® ES フロー Universalには、基本となるUシェードだけでなく、暗めのUD、明るめのUW、オペーク色のUOPのラインナップがある。それぞれを使い分けることで、ユニバーサルシェードでもより多様な色彩表現が可能になっている。
症例紹介
1. U DIASTEMA CLOSER(正中離開)
正中離開をクリアフィル® マジェスティ® ES フロー Universalで閉鎖した症例。UOPシェードでバックウォールを作製し、最表層にはUWシェードとUシェードを使用している。
ボタンテクニックで天然歯との色調適合性を確認している。上顎右側中切歯にUWシェード(切縁側)とUOPシェード(歯根側)、上顎左側中切歯にUシェードのCRをボタン状に築盛。
エナメル質に対してセレクティブエッチングを行う。形成はしていない。
充填直後の状態。防湿操作により歯質の水分が抜け、光の透過性が低下しているのがわかる。
充填から数日経過した状態。歯質に水分が戻り、術直後より光の透過性が向上している。歯冠中央部分はUシェードを使用し、近心ラインアングルはUWシェードを築盛することで明度をコントロールしている。
2. U CLASS 1(アクセスホール)
上部構造(モノリシックジルコニア)のアクセスホールをUOPシェードで封鎖した症例。封鎖したアクセスホールが視認できないほど、色彩と形態が再現されている。
3. FLOWABLE INJECTION TECHNIQUE with CLASS 3
上顎前歯部のCRの着色と、失活歯である上顎右側中切歯・側切歯、上顎左側中切歯の明度低下を主訴に来院された症例。咬合関係の問題でクラウンは選択できなかったとのこと。
上顎右側中切歯・側切歯、上顎左側中切歯は再根管治療を行い、インターナルブリーチで色調の改善をはかる。
まずは上顎左側側切歯のう蝕治療を行う。古いCRと感染象牙質が除去された窩洞。
遠心壁を復元するためにプレカーブが付与されたマトリックスとウェッジを用いる。
Highフローでライニングし、中間層と最表層はUシェードで充填されている。
つぎに上顎右側中切歯・側切歯、上顎左側中切歯をフロアブル・インジェクション・テクニックで修復する。スタディモデルをワックスアップし、クリアシリコンでインデックスを事前に作製する。
染め出しをして(左図)、歯面清掃を徹底的に行った状態(右図)。
古いCRと感染象牙質が除去され、歯肉溝に圧排糸が挿入されている。
ラバーダム防湿を行い、インデックスを試適する。ラバーダムと干渉してインデックスが浮き上がらないように確認する必要がある。
歯面にエッチング、ボンディングを行い、深い窩洞をUOPシェードのHighフローで充填する。両隣在歯とコンタクトがつながらないように、テフロンテープで覆う。
インデックスの切縁部からチップを挿入し、UシェードのHighフローを充填していく(左図)。右図は充填後にインデックスを外した状態。歯冠周囲にあふれ出たCRが確認できる。
上顎右側中切歯の歯冠形態を仕上げ、同様の手順で上顎右側側切歯と上顎左側側切歯にUシェードのHighフローを充填する。
形態修正・研磨後、数日経過した状態。隣在歯と色調が適合していることがわかる。
***
「キレイを楽に」。それを実現できるのがクリアフィル® マジェスティ® ES フロー Universalであると脇先生は熱く語る。
本セミナーではユニバーサルフローを用いた症例が他にも数多く供覧された。どの症例もどこにCRが充填されているのかわからない症例ばかり。クリアフィル® マジェスティ® ES フロー Universalの幅広い可能性がうかがえる。
レポート:遠藤 眞次(医療法人社団MEDIQOL デンタルクリニック神楽坂)