全6回に渡り、コンポジットレジン修復の充填操作に焦点をあて、筆者が臨床を行う上で取り入れている考えや実際の手技、道具を紹介していく予定である。連載項目は臼歯(Class1, 2)、前歯(Class3 & 4、正中離開)、歯頚部、多数歯異窩洞への対応の4セクション。
本稿では臼歯部2級窩洞における充填方法について筆者の考えを述べていく。
イントロダクション
前回、臼歯部一級窩洞における直接法コンポジットレジン修復(以下、CR修復)についての解説を行った。筆者の基本的な考えは二級窩洞であっても同様であり、窩洞の範囲や位置によっては充填の難易度が変わるためCR修復の適応外となることも念頭においてほしい。
一級窩洞との違いは、修復範囲が隣接面まで及ぶかどうかである。当然、隣接面形態を回復する必要があるため、充填の難易度はだいぶ上がる。煩雑な充填を行えば二次う蝕を引き起こしてしまう恐れがあり、臨床応用には十分に練習を重ねた上で行っていただきたい。
過去に行われた形態不良な修復のために歯肉状態が悪く、う蝕も認められる状態であった
二級窩洞におけるCR修復の適応
日本歯科保存学会が発刊しているう蝕治療ガイドライン第二版では、臼歯咬合面(二級窩洞)への修復方法として、CR修復は推奨されている。これは、メタルインレー修復との臨床成績に有意な差がないことや健全歯質を可及的に保存でき、審美的であることが理由として述べられている。そして、根管治療後における臼歯への修復も同様に推奨されている。
ただし、窩洞の大きさや残存歯質の厚みによっては修復後に歯質が破折してしまうリスクもある1)ため、修復方法の選択には注意が必要である。
残存歯質の厚み、窩洞の深さを考慮し積極的に咬頭被覆を行った症例
二級コンポジットレジン修復長期経過症例
隔壁形成
二級CR修復でもっとも重要なポイントの一つとして、隣接面形態の回復があげられる。
近年、各メーカーから様々なマトリックスシステムが市販され、CR修復における隣接面形態付与が容易となった。しかしながら、その選択肢の多さから “どのマテリアルを使用すべきか術者が迷ってしまう” という声も多い。
筆者の考えとしては、マトリックスシステムの使用目的、特徴を理解することで充填前の様々な窩洞形態にあった適切なものを、同一メーカーのシステムに依存することなく選択することが大切であると考える。
隔壁形成に用いるマトリックスシステム ①マトリックス ②ウェッジ ③リング
マトリックスシステムの主な構成要素は、①隔壁形成を行うマトリックス ②歯間分離を行うウェッジ ③形状保持を行うリング と、それぞれの役割を持った3つの要素から成る。
①マトリックス
マトリックスはメタルタイプとセルロイドタイプがあり、セルロイドタイプは透明なものや色のついているものがある。形状もそれぞれ異なるため、コンタクトポイントの位置や歯頚部の立ち上がりに応じて使い分ける。
セルロイドタイプの形態による、コンタクトポイントの位置と歯頚部の立ち上がり
メタルタイプはセルロイドタイプに比べて薄いものもあり、歯間距離が狭い症例には有用である。ただし、照射器の設定角度によっては隣接面の最下底部まで光が到達しづらくなるため、光照射器のポジショニングには注意をする必要がある。
メタルタイプとセルロイドタイプマトリックスの光到達範囲の比較
②ウェッジ
ウェッジは抵抗を持って挿入できる大きさで、マトリックスを歯面にしっかりと圧接できる形状のものを選択する。これらがコンタクトポイントの接触強さをしっかりとつけるためには非常に重要なポイントとなる。
ウェッジの形状もメーカーにより様々であり、隣接歯との歯間距離や残存歯質の形態に応じて使い分ける。
マトリックスとウェッジとのポジショニングは、設置後に理想的な隣接面形態を回復できる位置に設置できているかを充填前に見極める。
ウェッジとマトリックスとの位置関係
③リング
リングは、設置したマトリックスを保持する目的で使用する。マトリックスを歯面にしっかりと圧接し、意図する位置にコンタクトポイントを付与できるような位置を模索し設置する。そのためには一種類ではなく数種類の形状の異なるリングを試適して最もよく合うものを使用する。筆者はリングの爪が一つのタイプのものと二つのタイプのものとの二種類のリングを主に使用している。
リングの種類
爪が一つのタイプのもの(左)と、爪が二つのタイプのもの(右)
爪が一つのタイプのリングはウェッジと干渉しないよう設置するか、ウェッジを巻き込んで位置付けマトリックスと歯面が最大限に圧接された状態かつマトリックスが付与したい形状になるよう設置する。
ウェッジとリングの関係性
爪が二つのタイプのリングは患歯と隣在歯面に爪が強く接触することで補助的に歯間離開されるが、規定された角度に合わない場合はマトリックスが意図しない形状に弯曲する恐れがある。
赤点線が規定されたリングの角度を示す
また、テフロンテープや綿球等を、リング単体では保持しきれない箇所に補助的に設置する事もある。
テフロンテープ(TDVアイソテープ、モリムラ社)を使用して補助的にマトリックスを歯面に圧接させている
二級窩洞へのCR充填手順
充填コンセプトは前稿で述べたとおり、デンティン、エナメル、カスプリッジに分けて充填を行う。
二級窩洞への充填は、隣接面や頬舌側面を先に充填して一級窩洞の状態としてからデンティン、エナメル層の充填を行う。こうすることで最終的には咬合面形態の回復に集中することができる。
充填コンセプト
では、充填手順についてステップごとに解説を行っていきたい。
気を付けるポイントとしては、隔壁形成、隣接面形態付与のタイミングである。
二級窩洞におけるコンポジットレジンの充填手順
1. 接着操作
接着操作に関しては宮地秀彦先生のご執筆された記事にて理解を深めていただきたい。筆者は2ステップセルフエッチングアドヒーシブを使用している。
2. ライニング
前稿でも記載した通り、窩洞へのアダプテーションの向上2)を目的として行う。フロアブルレジンを薄く一層充填することで、アドヒーシブ層への酸素を遮断し、未重合モノマーを更に減少させ重合率を上げることもこのステップの利点である。
3. 隔壁形成
接着操作前に隔壁形成を行うと隔壁と歯質の間にボンディングが厚く残留する可能性がある。厚く残ったボンディング層は機械的強度が低く、破壊起点となる可能性があるため、接着操作→隔壁形成とすることを推奨する。そして、回復させたい窩洞に最も合うマトリックスシステムの組み合わせを模索する。ここで設置されたマトリックスの形状がそのまま下部固形空隙の形態となるため、術者の思い描く適切な形態を付与したいところである。
マトリックスの設置
4. 隣接面形態回復
隣接面形態の回復は一層ライニングを行った後に行うことが望ましい。
ライニング層と隣接面に充填したレジンが強固に接着することで、隔壁形成時に使用したマトリックスシステムを除去する際にかかるテンションや、隣接面に付与したレジンを重合する際にかかる重合収縮に抵抗するためである。
充填は、マトリックスと歯質の境界から2mmずつコンタクトポイントをやや超えたあたりまで充填を行う。この時に気泡の混入があると脱離や破折の原因となるため、最初の一層はフロアブルレジンに細いチップを装着して充填することを推奨する。
コンタクトポイントをやや越えるあたりまで充填した後、ウェッジのみを残して隔壁形成に使用したマトリックスシステムを除去。細いチップを装着したフロアブルレジンで上部固形空隙を形成する辺縁を充填していく。こうすることで、自然な辺縁隆線を再現することができる。
隣接面形態回復
症例を通して流れを確認してみよう!
動画では接着処理後から形態修正前までの一連の流れを確認していただきたい。症例に応じてマトリックスシステムの組み合わせを変え、適切な形態を付与するためにベストなものを選択している。
コスパ最強!セパレーターの活用
アイボリー(左)とエリオット(右)のセパレーター
(画像引用:独立行政法人医薬品医療機器総合機構)
窩洞範囲が狭い場合には、アイボリーやエリオットといったセオパレーターを用いる事も選択肢の一つとしている。
マトリックスシステムを用いた隔壁形成を行わずフリーハンドでの隣接面形態回復となるため難易度は上がるが、ディスポーザブルのマトリックスを使用しないためコストを最小限に抑えることができるのも利点である。セパレーターによる歯間離開の際には必ず浸潤麻酔をした後に行うことを推奨する。
セパレーターを用いた充填方法
コンタクトポイントの評価
二級修復の難しい点の一つに、適切なコンタクト圧の付与が挙げられる。筆者はコンタクト圧の評価方法としてフロスを用いることが多い。抵抗をもってフロスを挿入でき、その際にフロスに千切れや解れが生じないことが確認できることを基準としている。
コンタクト圧が極端に強い場合はエピテックスなどの研磨用ストリップスを用いて調整を行う。調整のタイミングとしては、後日来院時の再評価を行った後が望ましい。また、再来院時に食片圧入が認められた場合はコンタクト圧のみではなくコンタクトポイントの位置や隣接面形態にも注目して精査する必要がある。
おわりに
令和4年4月より、CAD/CAM レジンインレーによる歯冠修復が保険収載された。これにより、臼歯部へのメタルを使用した修復は確実に減ることが予測される。
また、これまで間接修復の欠点であった来院回数の多さも、デジタルスキャナーやミリングマシンの普及から1ビジットでの歯冠修復が可能となり改善された。しかしながら、間接修復は歯質への接着という点では直接修復に劣ってしまうのが現状である3)。
直接修復と間接修復における治療ステップの違い
直接法によるCR修復には接着を最大限に生かせるという大きなメリットがある。これは患者がむし歯治療に関して懸念する、「歯を大きく削られる」、「かぶせものがよく外れる」といった不安を解消し歯科医療へのイメージアップにも繋がるのではないだろうか。
本稿をご一読いただいた先生方には、是非ここで紹介した手法を日々の臨床に取り入れていただき、多くの患者さんにとって有意義な歯科治療を行っていただけると幸いである。
そして、何よりも歯科医療というやり甲斐のある仕事を直接法CR充填を通して感じていただけることが筆者の願いである。
次回は前歯部におけるCR修復について筆者の考え述べていく。
参考文献
1)Marleen Peumans et al. Effective Protocol for Daily High-quality Direct Posterior Composite Restorations. Cavity Preparation and Design. J Adhes Dent. 2020
2)Yahagi et al. Effect of lining with a flowable composite on internal adaptation of direct composite restorations using all-in-one adhesive systems. Dent Mater J. 2012
3)Akehashi et al. Enhancement of dentin bond strength of resin cement using new resin coating materials. Dent Mater J. 2019
前回の記事はこちら
Dr. Meiken Hayashi の Composite Restorations Posterior Restoration -Class1-
執筆者
林 明賢
歯科医師・歯学博士
横須賀市出身。長崎大学にて臨床研修修了後、東京医科歯科大学、田上教室にて接着修復を中心とした研究結果に裏付けられた臨床技法を学ぶ。自身の主な研究ではNCCLの長期予後を調査。大学院在学中にフロリダ大学へと留学し光照射器に関する研究に従事、同時に米国専門医プログラムであるGraduate Operative and Esthetic Dentistry Program を受講。2019年には東京医科歯科大学にて海外研究奨励賞を受賞。