なぜ、補綴歯科治療が患者に評価されないのか?〜保険診療か、自費診療かの分かれ道〜[特別寄稿]の画像です
臨床 2021/09/06

なぜ、補綴歯科治療が患者に評価されないのか?〜保険診療か、自費診療かの分かれ道〜[特別寄稿]

Todoに追加しました
マイページのTodoリストを確認すると読み返すことができます。
Todo数が上限に達しました
追加済みTodoを完了してください。
エラーが発生しました
解決しない場合はお手数ですが運営までお問い合わせください。
Todoリストから削除しました
Todoリストに戻しました
エラーが発生しました
解決しない場合はお手数ですが運営までお問い合わせください。
お気に入り

日本補綴歯科学会 認定研修機関

Shurenkai Dental Prosthodontics Institute 院長

日本補綴歯科学会 専門医・指導医

中村健太郎

 

はじめに

自費診療の獲得は歯科医院の売上に大きく影響を及ぼします。なかでも、補綴歯科治療における自費診療の獲得率が医院経営の鍵を握ると言っても過言ではありません。しかしながら、ホームページによる自費勧誘だけでは厳しいものがあり、これといったカンフル剤が見当たらないのが現況ではないでしょうか。筆者は、良質な医療の提供と歯科医師の接遇対応が補綴歯科治療における自費診療の獲得率に大きな成果を残すと論じていますが、議論の俎上に上がることもありません。

 

近年、医療マーケティングの視点から医療経営においても接遇の必要性が求められていると聞きます。そのなかで医療における接遇の根幹は思いやりと親切であり、患者に優しさと温かさが伝わる環境づくりが急務であると説かれています。その主たる理由は、スタッフが接遇対応することで患者との早期の信頼構築が実現できるとされているからです。接遇対応の是非が患者の受診基準に大きく影響を及ぼすとして、医療技術の高進も大事ではあるものの、一番に接遇対応の向上を怠らないことが強調されています。この背景には、どの歯科医院も歯科医療は高水準の技術を持ち合わせており、スタッフの接遇対応の差で歯科医院の選別がなされているとした事由があります(図1、2)。

 

図1

 

図2

 

また、歯科コンサルタントの観点から歯科治療に不安を抱く患者が多いなか、その不安の解消と当院が勧める治療を早期に共感させることを目的に、トリートメントコーディネーターによる患者コンシェルジュ制度の導入が急務であると説かれています。その主たる理由に、ライセンスの有無にかかわらず、患者一人ひとりに丁寧なカウンセリングをすることで早期の信頼構築が実現できるとされているからです。その背景には、歯科医院にトリートメントコーディネーターと称したスーパーセールスマンを配置し、自費診療への勧誘を徹底させるとした事由があります(図3)。

 

図3

 

はたして院長は、スタッフの接遇対応やトリートメントコーディネーターの存在によって患者との早期の信頼関係が築けるのでしょうか。本当に、患者は勧められた自費診療を快諾、そして満足しているのでしょうか。はたまた、患者は接遇対応やトリートメントコーディネーターの是非によって歯科医院を選別しているのでしょうか。

 

患者満足度が自費診療を左右する!?

古今東西、すべての医療機関は受診者から良質な医療の提供が求められています。患者は良質な医療を提供する病院を模索しようとし、また自分の要望に見合った病院を受診しようとします。しかしながら、医療の質を示す指標は多種多様であり、受診者にとっては医療情報の質を見極めることが困難であることは否めません。

 

そこで、医療の質を示す指標として、近年注目が高まってきているのが患者満足度 Patient-Satisfactionです。ドナベディアン(1980)やクリアリー(1988)は患者の価値観と治療前の期待に対して医師が応えたのかどうかの評価、すなわち医療の質の評価として患者満足度は根本的かつ重要的な指標であると述べています。一言でいうと、患者満足度とは医療の質を患者側の視点で評価した結果であると言えます。前田(2003)や廣田(2010)は患者満足度が高いと再診率や紹介率が高まることが明らかであり、患者満足度は医療機関経営の面からも重視すべき指標であると述べています。また、患者満足度の高い患者は、① 同じ医療機関を再受診する率が高くなる、② 医師の治療方針を率直に受け入れることができる、③ その結果として患者が治療効果にも期待することが明らかとなっています。

 

われわれ歯科医師は、すべての医療において最終的な決定者である患者が、歯科医院や治療方針を選考する要素として患者満足度を無意識のうちに重要視していることを認識すべきではないでしょうか。良質な医療の提供こそが患者満足度に強い影響を与えて、そして患者の受診基準に大きく影響を及ぼすことから医院経営にとって重要な課題であると捉えるべきではないでしょうか(図4)。

 

図4

 

患者満足度を左右する事象は2つに大別されます。1つはこれから受ける治療への期待感と受けた治療の実感によるものです。治療前の期待感よりも治療後の実感が湧けば患者満足度は高まります。治療前の期待感よりも治療後の実感が湧かなければ患者満足度は低まります。

 

それゆえに、期待に応えられる医療技術が伴わないと治療後の実感が感じられず、それまでの人望を失うかもしれません。ましてや、接遇対応やトリートメントコーディネーターによって期待を高められた患者においては、それ相応の実感を感じさせなければ信頼関係が崩れるどころか不信を抱くとも限りません。期待感を高めることが治療の評価基準を上げることとなり、治療後に不満を募らせる患者を生み出すとも限りません(図5)。

 

図5

 

接遇対応やトリートメントコーディネーターによって期待感を高めて自費診療を獲得したいのであれば、その期待感に応えられるだけの歯科技術を身に付けなければなりません。「これからの良質な医療には、医療従事者の人格・人間性、コミュニケーションを重視して技術/専門知識は重視しなくてよい」と唱えるコンサルタントや団体が散見されますが、それは誤りであると言わざるを得ません。

 

もう1つは医師の接遇対応によるものです。早瀬(2013)は医師による接遇対応について、① 医師の説明のわかりやすさ、② 医師の聴く態度、③ 医師の医療技術、④ 医師の言葉づかい、⑤ 医師に要望が正しく伝わったかが重要な要素であると述べています。要するに、歯科医師による接遇対応とは医療面接、診察、診断、そしてインフォームドコンセントであり、スタッフやトリートメントコーディネーターによる接遇対応の範疇ではありません。

 

しかしながら、1日の患者数を理由に、初診カウンセリングやトリートメントプランカウンセリングと称してスタッフやトリートメントコーディネーターに委託しているのが現況のようです。これでは、歯科医師は患者との早期な信頼関係を築くことができず、歯科医師の接遇対応による患者満足度が高まることはありません。歯科医師の接遇対応にこそ医療コミュニケーションが不可欠であり、歯科医師こそがコミュニケーションスキルを向上させる必要があります。なかでも、患者に治療方法のメリット・デメリット・リスクを説明したうえで、歯科医師が思索したベストな治療法を提示することが最適な接遇対応であり、患者の要望を考慮しながら治療に取り組んだことで患者は期待感と実感を通じて満足度が得られるのです(図6)。

 

図6

 

さいごに

接遇対応によってスタッフが早期に信頼関係が築けたとしても、トリートメントコーディネーターが早期に信頼関係を築けたとしても、医療の質を患者側の視点で評価する患者満足度は決して高まりません。自費診療を獲得したいが為にメリット(例:審美性に優れている材料)やベネフィット(例:あなたが美しくなる)を繰り返し説明することで、過大な期待感を持たせることになり、かえって治療評価のハードルを高くしてしまうに過ぎません。下手をもすると、過多なカウンセリングによって不信感が募り、自費診療を謝絶するとも限りません。このアプローチは、まるで旅人のコートを剥ぎ取る『北風』のように感じます。

 

患者満足度を高めるためには、患者の期待に応えられる歯科技術すなわち良質な歯科医療の提供と、これから受ける治療への適正な期待感を持たせるための歯科医師による接遇対応が不可欠となります。治療を受け入れる患者にとっては、自らが選んだ治療方針への期待感と治療後の実感によって患者満足度を推しはかることができるのです。このアプローチこそが、旅人のコートを脱がすことができる『太陽』ではないでしょうか。

 

『北風と太陽』のアプローチによって、保険診療か自費診療かの分かれ道となるのです。

 

続きはLIVEセミナーで!

9月16日(木)19:00〜、Shurenkai Dental Prosthodontics Instituteの中村健太郎先生をお招きし、LIVEセミナー「なぜ、補綴歯科治療が患者に評価されないのか?」を開催します。指定期間中は何度でも視聴可能で、開催中は質問も受け付けていますので、ぜひオンタイムでご参加ください。

 

画像クリックでお申し込みページへ

執筆者

中村 健太郎の画像です

中村 健太郎

歯科医師・歯学博士

Shurenkai 主宰・Shurenkai Dental Prosthodontics Institute 院長
補綴臨床総合研究所 所長・インフェクションコントロール リサーチセンター センター長

愛知学院大学歯学部 冠・橋義歯学講座に常勤として所属後、補綴歯科治療を主軸とした中村歯科醫院を開院し、満15年目にして終院した。終院後には補綴研修機関としてShurenkaiを立ち上げ、研修会(補綴臨床StepUp講座)を通じて補綴歯科治療の後進指導に尽力している。Shurenkaiは関東・中部・近畿・中四国・九州・沖縄の6支部会で構成され、例会を通じて補綴歯科治療の研鑽を積んでいる。2018年には日本補綴歯科学会認定研修機関として認定され、現在は補綴歯科専門医の取得をサポートしている。また、歯科医療機関の差別化として院内感染対策のコンサルタントも担っている。

記事へのコメント (0)

人気記事ランキング

おすすめLiveセミナー

Top / ニュース / 記事一覧 / なぜ、補綴歯科治療が患者に評価されないのか?〜保険診療か、自費診療かの分かれ道〜[特別寄稿]