・日本人の一日における砂糖の摂取量はどのくらい? ・砂糖摂取量の世界的な基準は? ・糖摂の摂取量について、患者さんによりわかりやすく説明するためには? |
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はじめに
こんにちは。静岡県で歯科医院を開業しております、お砂糖博士®︎こと、新美寿英です。
お砂糖について学び始めたのは、歯科医療従事者である私自身が、う蝕の三大要因である砂糖について何も知らないこと、また、砂糖に関する情報が少ないことにあるときふと気付いたことがきっかけです。その後、学んだ情報をせっかくなら多くの方にお伝えしようと思い、今に至ります。
「お砂糖博士®︎」は2015年に取得した商標登録で、2016年頃から「お砂糖と上手に付き合うにはどうしたら良いか?」をテーマに、一般市民の方に向けて、ネットや講演活動で情報をお伝えしています。もしよろしければ、こちらのお砂糖博士®︎HPをご覧ください。
このコラムでは、皆さんの身近な「お砂糖」について、お砂糖博士®︎が自由に語ります。
今回のテーマは、一日の砂糖の摂取量について。「お砂糖の摂り過ぎ→むし歯」は小さな子どもだって知っていますが、もう一歩二歩深いお砂糖のお話をお伝えしたいと思います。
一日の砂糖の摂取量を答えられない理由
診療室でう蝕の多い患者さんとお話しをするとき、「〇〇さんはお砂糖の摂取量が多いかもしれません。少し減らしましょうね。」と声をかけることがあるかと思います。しかし、「(そういう)あなたは一日に何gの砂糖を摂っているのですか?」と聞き返された場合、正確に答えられる方はなかなかいないのではないでしょうか。
では、なぜ私たちは一日の砂糖の摂取量を答えられないのでしょうか。その理由は二つあります。
まず第一に、忙しい毎日の中で砂糖を正確に計測して摂っている方は、なかなかいないからです。
血糖値を気にしなければならない疾患をお持ちの方は特別としますが、もし毎日毎食、砂糖をはかりで測っていたら、家族や周囲の方に「几帳面過ぎる」と少し引かれてしまうかもしれません(笑)。
そしてもう一つの大きな理由は、私たちは日々、自分ではない誰かが作った「加工食品」を摂取しているからです。
スーパーやコンビニなどの店舗で販売されているおにぎりやパン、お弁当、お惣菜、お菓子などの加工食品には、砂糖の使用量が記載されていません。仮に製造メーカーに問い合わせたとしても、「企業秘密です」といわれて答えてはくれないでしょう。
加工食品を食べている以上、私たちは何gの砂糖を食べているかはわからないのです。
だからこそ、「自分で調理して食べる」ということが、砂糖摂取量の管理の観点からも重要なのです。
仮に一日三食、間食も含めてすべて自分で手作りした場合、使用した砂糖の量は計測できます。
しかし、仕事と家事を両立している場合には、どうしても調理に時間がとれず、外食や中食に頼らざるを得ない現実もあるでしょう。
「むし歯の洪水」といわれた時代
ここで、日本人の砂糖摂取量に関する統計を見てみましょう。
参照:鬼頭 宏 日本における甘味社会の成立-前近代の砂糖供給- 上智経済論集 53(1/2) 45-61 2008-03
グラフを見ると、2004年の時点で一日に平均54gの砂糖を摂取していることがわかります。それに比べ、明治時代初頭は一日5.4g。
日本人は、たった150年の間に10倍もの砂糖を摂るようになったのです。54gといえば、白砂糖で大さじ約6杯分、スティックシュガー(3g)で約18本分です。
また、1974年に特別に尖った砂糖消費量のピークがあります。この年の一人当たりの年間消費量は約25.6kgで、一日の消費量が70.1g。この頃の6歳児の97%は乳歯にう蝕があった(※う蝕有病者率)とされ「むし歯の洪水」といわれた時代でした。
大人も子どもも多くのう蝕を抱え、町の歯科医院には一日100人近くの患者が訪れる。一人ひとりの治療に時間がかけられず、「3時間待ちの3分診療」なんてからかわれた時代です。
当時は、世間的にはまだ「予防」という概念が薄かった時代。リコール患者はほとんどおらず、朝から夜までう蝕治療の嵐。毎日、戦場のような診療風景だったことでしょう。想像しただけで、夢でうなされそうなレベルです。
1974年は、2021年の現在から47年前のことですから、現在70歳あたりの先生や歯科衛生士の方は、卒業後すぐに「むし歯の洪水」を目の当たりにされたはずです。
また、私が以前勤めていた医院の80歳以上の先代の大院長先生は、働き盛りの第一線で活躍していました。代々続く歯科医院にお勤めの方は、ぜひ先代の大院長先生に「その節はありがとうございました」と一言お礼を伝えて、一度当時のお話を伺ってみるといいかもしれません。
減少する日本の砂糖摂取量
そんな時代を経て、1960年代には、砂糖の摂り過ぎは健康のリスクが高まるという研究発表や、砂糖を控えようという風潮が少しずつ高まっていきます。
そして現在は、幸いなことに「むし歯の洪水」は過ぎ去り、6歳の乳歯のう蝕有病者率は45.5%まで減少しています。
この頃の時代の研究報告をまとめて結論した、1977年の「米国の食事目標(通称:マクガバン報告書)」はアメリカ国内だけではなく、世界にも大きな影響を与えました。
1980年あたりから、世界中で本格的に食生活と生活習慣病の関連性が取りざたされ、日本国内でもダイエットや健康ブームが盛んになりました。
昨今では、砂糖の摂取を控える傾向にあり、砂糖の年間摂取量の減少は続いています。
令和元年における砂糖の年間消費量は一人あたり14.1kg、一日の消費量は38.6g1)です。白砂糖で大さじ約4杯分と少々、スティックシュガー(3g)に換算すると約13本分弱ですね。
ただし、ここにはジュースに含まれる「異性化糖液糖」は含まれていません。令和元年の異性化糖液糖の一日の消費量は一人あたり17.5gとなっているので、これを足すと56.1g。まだまだ油断できない値です。
異性化糖液糖については、また後日に解説しますね。
ちなみに、お砂糖消費大国アメリカでは、一日に一人当たり67.5gの砂糖を摂取2)しています。ネットの情報では、実際のところは一日に100g以上摂っているという説もあります。
そのため、アメリカでは糖尿病患者および予備軍の患者が一億人を超え、人口の1/3を占めているほどです。いずれにしても、摂取量が多いことは想像がつきますね。
2) 米国保健福祉省、米国農務省2016年公表
一日の砂糖摂取量の世界的な基準
2014年以降、WHOは各種生活習慣病とう蝕予防を目的に、砂糖摂取量を一日あたり25gをとして推奨しています3)。
25gというと、炭水飲料を1缶飲んだだけで摂り過ぎになってしまいます。日本人は、砂糖の摂取量をまだまだ減らして問題ないということですね。
もし患者さんに「砂糖の摂取は、1日に何gを目標にしたらいいですか?」と聞かれたら、以下のように答えれば大きな間違いはないでしょう。
現在、世界的な基準は25gとされています。この基準値以内では「むし歯」も、その他の生活習慣病も発生しにくいといわれています。
3)WHO 2015 Guideline:Sugars intake for adults and children
一日の砂糖摂取量を意識してみよう
今回は意外と意識していない、また意識しても計測することがむずかしい、一日の砂糖の摂取量についてお話ししました。
患者さんも自ら好き好んで大量の砂糖を摂取し、う蝕を作っているわけではありません。加工食品の普及により「食べることが気軽で便利になった社会」の中で生きている以上、砂糖をどのくらい摂取しているのか、ただわかりづらいのです。
読者の皆さんも、ぜひご自身の一日の砂糖摂取量を意識して過ごしてみてください。その計測のむずかしさや摂取の実感の薄さがわかり、患者さんの気持ちに近づけるかもしれません。
次回は砂糖の摂取量を減らすための、清涼飲料やパン類、菓子類などの「加工食品との付き合い方」をテーマに、おさトーークしたいと思います。
〜教えて!お砂糖博士®︎Questionコーナー〜
Q. 砂糖摂取量の世界的な基準である「25g」を、患者さんによりわかりやすく説明するには、どうお伝えするのが良いでしょうか?
A. まず砂糖だけでたとえると、スティックシュガー(3g)で8.3本、白砂糖で大さじ2.7杯、小さじ8.3杯です。具体的な食品では、以下の通りです。
・ケーキ1切れ:約20~25g
・菓子パン1個:約15~20g
・板チョコ1枚(50g):約25g
・コーラなどの清涼飲料:約50~60g
代表的な食品の砂糖含有量の大体のイメージを伝えられるようにしておくことが重要です。甘い加工食品の砂糖の多さに、患者さんは驚かれるかもしれません。
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