近年、あらゆる産業・業界でグローバル化の波が押し寄せている。
その流れは急速で、もはや待ったなしの状態と言えるであろう。それは歯科医療界においても当てはまる。
先人たちの積み上げにより、現在の日本の臨床や基礎研究は世界でもトップレベルであることに疑いの余地はない。
しかしながら、国際社会の舞台でリーダーシップを発揮しながら活躍できる歯科医師をこの先も継続的に輩出していくには、卒前・卒後教育のさらなる向上や、海外留学・研修の支援など、未来を担う若手歯科医療従事者を面として支えていくシステムが必要不可欠だ。
そのような背景の中、2018年に「Lone Stars Dental Institute」というNPO団体が設立された。
同団体は、日米両方の卒後専門医教育を修了した歯科医師ら(Min Seiko先生、杉田龍士郎先生、瀧本晃陽先生、遠藤祐人先生)が設立。日本の歯科界のさらなる活性化を期待し、世界の舞台でリーダーシップを発揮し活躍できる歯科医師を生み出すために、志高く一生懸命頑張っている学生から歯科医師までを支援するプロジェクトである。
Lone Stars Dental Instituteの設立メンバー
Lone Stars Dental Instituteのロゴ
本記事では、プロジェクトの構想や具体的な取り組みをご紹介したい。
そして次回以降は、設立メンバーの歯科医師へインタビューを行う予定だ。
ローンスターズ・プロジェクトの展望
米国における専門医教育を参考に、日本に合ったオリジナルな教育スタイルを構築し、次世代の歯科界を牽引できる歯科医師を育成するために、以下のプロジェクトが行われる。ローンスターズ・プロジェクトを通して、日本の歯科医師に対して米国専門医教育を様々な形で紹介し体験して頂くことを目的とする。
1.米国専門医教育を体験してもらうために大学訪問を可能な限りサポートする
やはり百聞は一見に如かずで、米国の歯科教育をより多くの日本の学生、大学院生、そして大学ファカルティに肌で感じてもらう機会を設けることが目玉だ。米国歯科大学教育機関に所属している大学教員や大学院生の間でローンスターズ・プロジェクトに賛同するローンスターズ・コラボレーターのサポートの下、米国歯学部見学の機会をより増やすことが可能となるという。
例えば、学生、大学院生が単独で海外学会参加を行った際でも、歯学部を訪問して大学院教育を見学することを可能にすることで、限られた米国での滞在期間で有意義な時間を過ごすことができる。
ここには、短期間の米国訪問で最大限に得るものを得て、日本に帰ってから自己の学習方法に生かしてほしい、さらには海外で教育現場を訪問することでグローバルな視野をもち、モチベーションを高めてより高い志を持ってほしいという願いが込められてる。また、学会や短期の休暇で米国を訪問する予定ある日本の大学ファカルティにも、米国歯科教育での学生指導に触れることで、日本の大学に利用できる教育方法を導入し、歯科教育の今後の発展につながればと考えているそうだ。
米国大学での教育基準は米国歯科教育機関 (Commission on Dental Accreditation:CODA)によって決議された事項を考慮しながら設定され、大学内の教育委員会によって、CODA 項目に対して個々の授業内容が要件を満たしているか、常にフィードバックが行われ評価される。このような教育システムで構成されている専門医教育プログラムからヒントを得て、日本の歯科教育に導入できるものを見つけることができる絶好の機会にもなる。
日本の歯科教育で重大な責任と影響力を持つのは大学の歯科教育であり、大学の教育の発展なしに今後の日本の歯科界の進化の可能性を語ることはできない。この理由から、ローンスターズ・プロジェクトは日本の歯科大学ファカルティと積極的にコラボレーションを続けていくという。
2.ローンスターズ・東京ミーティングを開催する
米国にて臨床研修を経験した ローンスターズ・コラボレーターによる教育講演を年に一度、東京で開催する。
米国トレーニングを修了した歯科医師像を目の当たりにすることによって、参加者はアメリカの歯科教育を容易にイメージできるようになる。海外臨床研修が、学生と歯科医師の今後のキャリアを考えた際の選択肢の一つになることを望んでのことだ。ローンスターズの設立メンバーは、本ミーティングが参加される方々の歯科医師人生の未来図を設計する際の参考になればと考えている。参加者がネットワークを構築できるソーシャルイベントとしての役割も期待されるという。
3.ローンスターズ e-Academyを構築する
日本の大学ファカルティを含めた日米ローンスターズ・コラボレーターによる米国専門医教育に使用される重要文献の解説をウェブで行う。
論文を解説するだけではなく、エディターの意見を織り交ぜながら代表的な論文を解説していく。この e-Academy の目的は、学生、若手歯科医師に米国専門医教育の教科書として用いられる代表的論文を学習ツールとして認識していただき、論文抄読をより身近なものにして欲しいということにあるそうだ。
米国の専門医教育はエビデンスベース・ティーチングで、主に論文を引用しながら教育する。欧米では、この教育理論が古くから実施され、今に至るまで数々のオピニオンリーダーを輩出している。e-Academy を通して、エビデンスを用いた学習を推進するため、学習ツールの充実化を図る。将来的に、e- Academy から発信される教育情報をもとに、日本の大学内での学生、研修医、大学院教育に応用することで、欧米の教育レベルに匹敵するものが生まれてくるという期待が込められている。
4.ローンスターズ・ファンデーションを設立する
研究者留学に対して国が援助・投資を継続してきたことで、米国で最新研究知識と技術を学んだ研究者が日本に戻り、それを応用し積極的に研究レベルを向上できたこともあり、日本の基礎研究は世界でトップレベルである。
しかしながら、臨床留学に関する政府からの金銭的援助はおろか、産業ベースの投資・援助も現状ほぼ皆無である。欧米では優秀な教育者に対する奨学金等の支援と援助を、その分野の学会役員で組織されている団体が積極的に行ってきた。目的は、優秀な教育者を育てることで、歯科教育を発展させ、結果的に国家の歯科医療の質を良くすることができるからだ。
先日、WHITE CROSSでも海外留学への奨学金制度が設立された(WHITE CROSS留学基金)が、ローンスターズも同様に、米国臨床研修を行う優秀な人材、そして歯学部生の米国歯科大学大学院等の教育機関での短期訪問に対する金銭的支援と援助を行うという。
設立メンバー(左から、遠藤先生、杉田先生、瀧本先生、Min先生)
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ローンスターズは、臨床留学に対して一生懸命努力している学生、研修医、大学院生、歯科医師、ファカルティを全力で応援するという。
日本や米国教育機関に拠点を持つローンスターズ・ファカルティの役割は非常に重要で、米国と日本を繋ぐネットワークをつくり、日本の歯科教育の更なる可能性を生み出すことができるであろう。
このようなネットワークを最大限に利用し、今後の日本の歯科界の次世代を担う方々が挑戦していくならば、日本の歯科医療界の未来は明るく、グローバル化のうねりも全く恐れることはないのではないだろうか。
LONE STARS TOKYO MEETING 2019
6月2日に LONE STARS TOKYO MEETING 2019 が開催される。こちらは二部構成となっており、前半は3名の米国専門医がそれぞれ1時間半の講演を行い、後半はスピーカー達が海外で経験したものをシェアする。海外の手法の直輸入ではなく、日本に合うスタイルを考えながら、日本らしいオリジナルな人材と日本の歯科の可能性を皆で生み出すために議論が行われる。
3名の米国臨床研修経験者がそれぞれ専門分野で教育講演を行いますが、臨床留学だけではなく、海外での研究、教育に関しても有益な情報を共有します。参加者にとって、歯科医師として今後の可能性を考えるきっかけになればと思っています。世界から注目される日本の歯科界を目指して、当日熱い議論ができることを心待ちにしております。(主催者メッセージより)
お申し込みは下記の専用画面から
日時: 6月2日(日)10:00 - 18:00
場所: 東京医科歯科大学医学科講義室2(3号館3階)
費用: 歯科医師 ¥10,000円 / 歯科医師5年目以下、大学院生 ¥5,000 / 研修医、歯科衛生士、歯科技工士 ¥2,000 / 学生 ¥1,000