患者さんに選ばれるためのエリアマーケティング 第1回「新患数を大きく増やす診療圏適正化」
このコラムは、「歯科医院経営の健全化を実現する集患」をテーマにしたものです。
特に、地域医療の観点から、地域内での「医院認知度の向上」を、看板を使用して確実に実現する方法を紹介していきます。
集客や集患は、「個人の経験や勘に頼ったこれまでの方法論」では期待する効果は見込めないことが多いのが現状です。私は、「人間の感性を科学的に読み解く再現性のあるロジカルな集客の仕組み」が必須と考えています。
これまで私自身が行ってきた「地域で選ばれる歯科医院」になるための看板戦略から、再現性が高く、かつ著しく効果が出たものを全6回に渡りお伝えしていきます。
第1回目は、地域内での集患に欠かせない「診療圏の適正化」についてです。
実は、自院の診療圏を適正な状態に変えることで、新患数は大きく増えていくのです。
あまり語られることのない具体的な方法について、詳しくお伝えしていきます。
はじめに
私は30年以上にわたり、集客コンサルタントとして、歯科医院をはじめ様々な業種や業態の店舗、企業の集客をお手伝いしてきました。
歯科医院は、1980年代までは、開業さえすれば患者が列をなしてやってきました。
しかし現在は、歯科医師の増加に加え、社会環境や人口分布の変化、消費者意識の変化により、地域で選ばれる歯科医院になるためには集患の仕組みを作ることが求められています。
集患を考えたとき、歯科医院の多くが新聞の折り込みチラシ、タウン誌や業界誌への広告出稿、あるいは、ホームページでの情報発信を考えます。
しかし、戦略的ではなく、どうしても場当たり的なものになってしまうという現実があります。
厳しい言い方をすれば、「集患のロジック」がないのです。
実は、地域依存性の高いビジネスである歯科医院経営において、最良の集患方法は、「エリアマーケティング」。
費用対効果の面から考えても、「エリアマーケティング」に基づいた施策が最も優れているのですが、それを実際の歯科医院経営に活かしているのは、ほんのごく一部でしかありません。
そして、そのごく一部の歯科医院が、地域内での圧倒的知名度を得て、地域一番医院として発展していくことになります。
この連載では、看板を使ったエリアマーケティング戦略を紹介していきますが、その根底にあるのは、消費者の感性を誘導するための科学的なロジックです。
そのロジックを、「感性工学」と言います。人間の感性を工学的に読み解く学術的な考察によって、実効性のある具体的な方法を提示していきます。
適正な診療圏で認知度を高める
歯科医院は地域医療の担い手としての役割を、地域の人々から期待されます。
そのため、クリニックの集患を考えるときには、自院の立地する地域内からいかに多くの患者さんを呼び込むことができるかが最も重要になっていきます。
歯科医院におけるエリアマーケティングで欠かせないものがあります。
それは、「診療圏」の適正化です。
今回は、診療圏を適正化し、拡大した診療圏から新規の患者さんを呼び込むための「野立て看板戦略」についてお伝えしていきます。
一般的な想定診療圏と実質診療圏のズレとは?
まずは一般的な想定診療圏をみていきましょう。
一般的な想定診療圏
歯科医院が開業する際、医院の立地する場所を中心としてそこから同心円を描き、円の範囲内を想定診療圏と考えるのが一般的です。
診療圏内の人口分布、歯科医院がターゲットとする層の推定数、昼夜人口分布、競合医院数などから、医院の見込み患者数を推測します。
一方で、こちらは実質診療圏になります。先ほど想定した診療圏とはかけ離れた結果になっています。
実質診療圏
なぜこのような結果になるかと言いますと、地図上で機械的に描いた同心円では、エリア内に存在する心理的な障壁がわからないからです。
一般的な想定診療圏では、通行人の動線の分断を考慮に入れません。この動線の分断が、想定診療圏を縮小し、集患のチャンスロスを生み出しているわけです。
診療圏内に鉄道の駅や、川、大きな幹線道路がある場合を考えるとわかりやすいでしょう。
駅の向こう側、川の向こう側を生活拠点とする住人にとって、線路や川を挟んだ反対側に立地する医院は「(距離的には近いにも関わらず)遠い場所にある歯科医院」という印象を与えてしまいます。もしくは、「医院の存在を知らない」状態をも生み出します。
地理上の障壁が、消費者の心理的な障壁となっていくのです。
ランチェスター戦略に基いた「野立て看板戦略」
「知られていない存在である医院を知られた存在にする」ということこそ、広報活動の本質です。
では、どのようなマーケティング活動をすれば、地域内で「知られる医院」になるのでしょうか?
この場合、「ランチェスターの法則」に基づいた「野立て看板戦略」がベストです。
ランチェスターの法則とは、本来は軍事的な戦略を立てるための法則でしたが、経済活動におけるシェア拡大に適用できるとして、アメリカでマーケティングの手法として確立して一気に世界に広まりました。
「選択と集中」することによって、小さな企業でもシェアの拡大ができるという法則です。
野立て看板とは、道路沿いに設置する大型看板です。
この看板に、医院情報、診療科目、その医院だけの特徴を明記し、位置情報と共に掲出することで、医院のターゲットとする通行人に訴求することが可能となります。
歯科医院の場合、地域内の一定の範囲を選択し、そこに集中的に広告を投下すれば一気に認知度を高めることができます。
その最良の媒体が「野立て看板」なのです。
具体的な事例を見ていきましょう。
【実例】東京都町田市「ライオンインプラントセンター」
東京都町田市でインプラントの専門治療を行う「ライオンインプラントセンター」では、実質診療圏が、本来想定した4分の3以下になっていました。
河川や幹線道路で地域生活者の動線が分断されたことによるものです。結果、地域の4分の1で「集患のチャンスロス」が起こっていました。
ここで強調しておきたいのは、チャンスロスを起こした4分の1の区域では、「医院の存在がほとんど知られていない」状態にあるということです。
つまり、歯科医院が集患に苦戦する大きな原因のひとつが、いびつになった実質診療圏にあるのです。
しかし、逆に考えると、チャンスロスを起こしている区域で適切な広報活動を行えば、医院への認知度は確実に向上することになります。
この認知度の向上が、直接的な新患獲得に繋がるのは、言うまでもありません。
実質診療圏を広げる野立て看板戦略
特に、特定の地域内に複数本の野立て看板を設置すると、地域内における認知度が劇的に向上することがわかっています。
私たちの研究では、3基の設置で「その歯科医院の名前を見たことがある」状態になり、9基の設置で「具体的な医院名と診療科目」を完全に記憶する状態になるという結果が出ています。
ライオンインプラントセンターでは、想定診療圏よりも小さくなった実質診療圏を拡大するために、19基の野立て看板を実質診療圏外に設置しました。
その結果、設置した野立て看板を中心に、それぞれ診療圏が大きく拡大することになりました。
こちらの図は、診療圏とそのエリアの来院患者の分布をヒートマップで表現したものです。青色から赤色になるほど来院する患者が多いエリアであることを示しています。来院患者の分布を統計的手法で求めた結果をわかりやすくするために、イメージ化したものです。
設置前
設置後
河川や幹線道路で分断されていた通行人の動線が、野立て看板によって繋がった結果です。
この野立て看板による診療圏の適正化により、ライオンインプラントセンターの認知度がさらに大きくなり、より広範囲から来院する患者さんが増えました。さらに、元々の診療圏内での来院患者数も増加しました。
設置した看板
ライオンインプラントセンターは、ICOI(国際口腔インプラント学会)世界会長の鈴木仙一先生が理事長を務めています。
インプラントの技術と実績は、抜きんでたものがあるのですが、クリニックの技術的な優位性が地域内で浸透しきれていないところがありました。
それが、野立て看板を活用することで同医院と鈴木理事長の認知度が格段に高まることになったのです。
ライオンインプラントセンター 鈴木仙一理事長 インタビュー動画
「意外な場所で知名度が高まったことを実感しました」
診療圏の適正化は、エリアマーケティングの考え方で可能になります。
新規集患を実現するには、まずは自院の診療圏の適正化を野立て看板で行ってみるのをお薦めします。
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執筆者
小山 雅明
工学博士
アイワ広告株式会社 代表取締役社長
集客サインコンサルティングの第一人者として、有名外食チェーン店の集客アドバイザーをはじめ、数多くの飲食店、小売業など、業種を問わずV字回復に導く。これまでに、11,000件を超える企業・店舗を繁盛店に導いている。
「集客看板の3段階確率論」「看板偏差値」などの独自理論を作り出し、集客を感性工学による科学的研究から押し進めている。
NHK、テレビ東京、日本テレビ、TBSなどの番組でたびたび取り上げられ、雑誌・新聞メディアでの連載や取材記事多数。
「人の心は色で動く」(三笠書房)、「看板の魅力で集客力がアップする」(かんき出版)、「看板偏差値」(日労研)、「一冊の本で人生が変わる」(エーアイ出版)をはじめ、20冊以上の著書がある。
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