診療報酬体系のなかでの歯科衛生士業務の位置づけや、歯科医師との関係における実践的な面を理解するうえで、現在の学校教育のみでは限界があります。・・(中略)・・治療の全体像の把握、社会と結びついている経済行為であることまで理解を促進する必要があります(監修の序より)
昨今の歯科診療報酬の改定をみると、歯科衛生士を評価した項目が年々増加している。
歯科医師にとっても、歯科衛生士の雇用や定着は大きな関心ごとのひとつだ。
一方で、診療報酬体系の理解は卒前の歯学教育には組み込まれておらず、それを指南するための書籍もない。ましてや歯科衛生士向けの書籍は皆無だった。
歯科医院の経営者である歯科医師は、レセプトを扱う業務を通しておおよそ理解する機会があるものの、歯科衛生士において診療報酬体系への理解が希薄になりやすいことは否めないのではないだろうか。
今回ご紹介する図書は、そのような課題を解決すべく、公益社団法人日本歯科衛生士会監修のもと発刊された入門書だ。
保険制度について、まったく知識のない人を想定した入門書
「レセプトは院長や受付の仕事だと思っている」
「自分が行った治療で、医院にいくらお金が入っているのか知らない」
全国の歯科医院経営者からため息が聞こえてきそうな話だが、これらは実際の歯科医療の現場においてしばしば耳にする声だ。
本書はそんな歯科医療の現場に寄り添うべく、数々の趣向が凝らされている。
例えば、膨大かつ細分化された歯科点数表において、全国のレセプト統計データをもとに、頻度が高い項目に厳選した上で、図や平易な言葉を用いて解説されている。
また、歯科点数表においては、レセプト用語が頻出するため、それが初心者のハードルを上げている一因だ。本書は学術用語との違いや歯科点数表独特の概念をまず解説することで、卒前教育との橋渡し機能を担っている。
各論では、歯科医師の診療報酬についてもまとめられており、歯科衛生士だけでなく、歯学生や臨床研修医などの入門書としても活用できるのではないかと思うほどだ。
事例集でより質の高い診療を
事例のパートでは、各分野に精通した歯科衛生士が詳しく解説している。
どの事例も、「歯科医師の治療」「歯科衛生士業務記録」「算定内容」の3つの軸で記載されており、非常に実践的な内容だ。
とくに歯科衛生士業務記録においては、SOAP法を用いた記載法や評価すべきポイントもまとめられているため、今まで漫然と記載していた業務記録簿やサブカルテが、より質の高いものとなることは間違いない。
付録として、歯科衛生士に関係の深い項目を抜粋した「歯科点数表チャート」がついている。
点数と算定ルールがコンパクトにまとめられており、診療室のおともに最適だ。スマートフォンをイメージしたデザインも、若い世代に親しみやすくて嬉しい。
ぜひ本書を医院のチェアサイドに置いていただき、院内で意識統一を図っていただければと思う。
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