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臨床 2021/01/29

日本歯科保存学会「う蝕治療ガイドライン」とは

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う蝕治療ガイドラインは日本歯科保存学会によって公開されている診療ガイドラインで、2009年に第1版、2015年に第2版、そして昨年2020年に第3版の一部が公開された。

 

保存学会のウェブサイト上にてPDFが無料で公開されており、特に学会に所属していなくとも、誰でも全ページを閲覧することが可能となっている。また、第2版は第1版の改訂版だが、第3版は根面う蝕のガイドラインのみであり、エナメル質う蝕・象牙質う蝕に関しては第2版が現在も最新である点に留意されたい。

 

本ガイドラインの特徴

総山孝雄先生が1979年に発表した『無痛修復』によって世界で初めてコンポジットレジン修復が体系化され、2002年にFDI(国際歯科連盟)がMIの概念を提唱して以来、世界的にう蝕治療はMIで行うべきという考えは広まってきたが、その具体的なガイドラインというものは今まで無かった。本ガイドラインは実際の臨床における疑問(クリニカルクエスチョン、以下CQ)に対し、エビデンスで回答するものであり、その臨床的意義は大きい。筆者も日常臨床における拠り所としており、またう蝕治療に関係する発表では必ず何らかの形で引用している。

 

本ガイドラインは大きく分けて3つの項目から構成されている。①エナメル質の初期う蝕への非切削での対応、②象牙質う蝕への切削での対応、③根面う蝕への非切削及び切削での対応の3つである。

 

また、ガイドライン作成手順として、①エナメル質の初期う蝕への非切削での対応 は、国際的に用いられているガイドライン作成手順である「GRADEシステム」、残り2つは日本独自のシステムである「Minds」というシステムで作成されている。

 

なお、本ガイドライン中には、推奨に到る文献の抽出方法からパネル会議の内容なども詳細に記載されているが、いきなりここを全て理解しようとするのは難しいので、まずはCQと推奨を読み、自分が興味がある、特に気になる内容について掘り下げていくのが良いだろう。

 

以下、各ガイドラインについて概要を解説する。ぜひ、ご自身でPDFをダウンロードしていただき、本文を参照しながらお読みいただければ幸いである。

 

画像クリックで、ガイドライン掲載ページへ

画像は日本歯科保存学会HPより引用

 

 

① エナメル質う蝕への非切削での対応

現代のカリオロジーでは、caries freeでは無くcavity freeという言葉が使われてきている。

う蝕は脱灰と再石灰化を繰り返すダイナミックなプロセスであり、う窩を形成する前に介入することでう窩の形成を抑制出来ることがわかってきたため、初期う蝕を早期に検出してコントロールすることが重要視されている。

 

CQ1のフッ化物の塗布、CQ3のシーラントは予防では無く初期う蝕への治療であり、本邦ではこれらは保険適応でもある。臨床の場で適応があれば、積極的に行うべき「削らないう蝕治療」である。

 

 シーラントによって咬合面小窩裂溝の初期う蝕を封鎖した症例

 

なお、CQ3に含まれる、平滑面の白斑病変をレジン系材料で封鎖しかつ審美的に改善する『低粘性レジン浸潤法』については、過去の講演の中で詳述している(WEBセミナー:ホワイトスポットは削らずに消そう! ~明日から使える低粘性レジン浸潤法を用いた前歯部の初期う蝕・形成不全の審美的改善~はこちら)。

 

低粘性レジン浸潤法を用いて、平滑面のエナメル質初期う蝕の白斑病変を治療した症例

 

 

② 象牙質う蝕への切削への対応

CQ5の隣接面う蝕の検出においては、エックス線検査と同様に透照診も推奨されている。エックス線検査はう蝕病変を過小評価する傾向があるとされており、エックス線検査のみを信頼するのではなく、様々な検査を組み合わせるべきである。

今日ではダイアグノデントカム(カボデンタルシステムズ株式会社)や、ついに一般販売されたOCT画像診断装置オクティナ(吉田製作所)、iTero 5D(インビザライン・ジャパン株式会社)の近赤外光画像など、新たな隣接面う蝕の検出機器が市場に出てきている。近い将来、隣接面う蝕の検出法はこれらに変わっていくかもしれない。

 

CQ6の切削の対象となるう蝕については、非常に明確であり、筆者も介入に迷った時に必ず立ち返る基準である。

 

CQ7、8の中等度う蝕の除去範囲については、やや曖昧さを残した推奨と感じられるかもしれない。それは、究極的にはどこまでう蝕象牙質を切削すべきかについてはまだ議論の余地があるということである。この点については、日本の保存修復学の歴史とも繋がってくるところになる。

 

また、深在性う蝕への対応については、近年マイクロスコープとバイオセラミック材料の発展によって歯内療法学分野で部分断髄などのいわゆる歯髄保存(vital pulp therapy, VPT)の予後が非常に良くなってきた。深在性う蝕は保存修復学と歯内療法学の境界分野であり、これまでの術式と新たな材料を用いた術式が混在して混乱を招いている部分があると感じている。

 

う蝕除去に関する詳細については、筆者の講演(記事下部参照)でも触れる予定である。この他、臼歯部のCR修復は生活歯だけでなく、失活歯においても残存歯質の量によっては積極的に推奨されている。

 

左下4番、5番をCR修復した症例

4番は根管治療後であるが、遠心壁以外3壁残存していたためCR修復を選択した(根管充填後のエックス線写真は、CR充填前)

 

 

③ 根面う蝕への非切削及び切削での対応

超高齢社会となって久しい本邦において、実に70歳代の65%、80歳代の70%が根面う蝕に罹患しているとの報告がある。根面う蝕は、エナメル質から象牙質う蝕へと進行する歯冠部う蝕とは全く異なり、罹患すると容易に進行し、歯冠部う蝕と同じように切削介入するとすぐに歯質を失ってしまい、また充填も難しい。そのため、非切削介入であるフッ化物応用やフッ化ジアンミン銀を使用したSDF法などが積極的に研究されている。

 

超高齢社会となり、根面う蝕が大きな問題となっている

 

今後、本ガイドライン第3版の新たなCQが公開されていくので、根面う蝕の治療に携わる読者諸氏におかれては注目していただきたい。

 

終わりに

う蝕治療は歯科治療の中でも非常に日常的なものなので、本ガイドラインのCQに対する推奨も『当たり前のことだ』と感じられるものが多かったことと思う。しかし、『当たり前』ではなかった、新たな発見もあったのではないだろうか。

 

現在、本邦におけるう蝕治療については、本ガイドラインがゴールドスタンダードとなっている。

ガイドラインはガイドラインなので、歯科医師の判断で逸脱した治療を行うことは当然あり得る。

しかし、本邦でう蝕治療に携わる者は、基本として知る必要があろう。

 

今回、初めて本ガイドラインに触れた読者諸氏におかれては、是非一度目を通していただくことをお勧めしたい。

 

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執筆者

品川 淳一の画像です

品川 淳一

歯科医師・歯学博士

上野品川歯科・矯正歯科

大学卒業後、東京医科歯科大学大学院・う蝕制御学分野にて博士課程修了。その後ドイツ、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュヘン保存修復学講座に留学。う蝕予防と接着性修復を中心とした診療に携わる。

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