この記事のポイント ・患者さんに「感じ良い」と印象づけるためには、プロとして笑顔をつくることが重要。 ・笑顔をつくることは「仕事」の一つ。 ・自然な笑顔をつくるための「筋肉ほぐし」と「自然な笑顔をつくる方法」について解説。 |
はじめに
皆さま、はじめまして。
株式会社M&D医業経営研究所で医療接遇アドバイザーを担当しております、河野由美子と申します。今月から、「歯科医院の接遇ポイント」と題しまして、歯科医院での接遇についてご紹介していきたいと思います。
お読みいただき、接遇向上のご参考になれば幸いです。
第一回は、「感じ良い笑顔をつくる」です。
1.接遇マナーの重要性
歯科医院の口コミサイトから、接遇に関する口コミを二つご紹介します。
受付のかた、スタッフの皆さん、笑顔でとても感じよく、安心して受診できました。カウンセリングでも、痛みや不快な症状を言ったら、理解してくれて嬉しかった。リラックスして治療を受けることが出来ました。
受付で態度が悪い人がいる。高圧的で偉そうで本当に無礼。歯科衛生士さんの歯の掃除では、いつも血だらけで血の塊が出て痛くてすごく嫌でした。先生はサクサクしすぎで、笑顔もなく、説明も少なく、質問も怖くて出来ませんでした。
いかがでしょうか。良い口コミと悪い口コミでは、読む人に大きく異なるインパクトを与えてしまうのです。後者は予約を取りやめる患者さんもでてくるでしょう。
2.人に好かれる表情は「笑顔」だけ
患者さんは受付スタッフの感じ良さからはじまり、歯科衛生士さん、歯科助手さん、歯科医師の接遇や態度を見ています。そして、「対応が感じ良いかどうか」を「治療の良し悪し」と並列して評価しているのです。もし悪い口コミを書かれてしまうと、歯科医院探しをしている他の患者さんの判断材料とされ選ばれにくくなってしまう可能性があります。スタッフや歯科医師の感じの良い笑顔や接遇は、医院の評判を左右するのです。
人に好かれる表情は「笑顔」だけです。そして、患者さんに「感じ良い」と印象づけるためには、プロとして「笑顔をつくる」ことが重要です。
3.「笑顔が苦手」とは
接遇の基礎である「笑顔」は、人を相手にする医療人にとって避けては通れません。しかし、「笑顔をつくるのが苦手…」という方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。笑顔をつくるのが苦手であると思う方は、その原因を探って解決方法を考えてみましょう。次のような原因が考えられます。
① 緊張している
上手く笑顔がつくれないという方は、緊張していることが多いようです。社会人になりたての方や、患者さんからクレームを受けた直後などは、無意識に緊張してしまい、表情がこわばってしまいがちです。深呼吸などで気持ちを切り替え、口角を上げて笑顔の表情をつくるようにしましょう。
② 自分の笑顔が嫌い・自信がない
意外に多いのが、「自分の笑顔に自信がない」という方です。自分の顔に自信がないと思っている方はこのような感情を抱きやすい傾向にあります。しかし、実際には人はあまり他人の顔のつくりを気にしていないものです。どんなに整った顔立ちの人でも、表情が無愛想であれば「感じが悪い」と思われてしまいます。顔のかたちに関係なく、いつも笑顔で愛想良く人と接している人は「感じの良い人」と受けとめられます。
そして忘れてならないのは、「笑顔は誰からみても感じの良い表情」だということです。自信をもって、自分にできる最高の笑顔で患者さんに接しましょう。また、院内の医師やスタッフに対してもいつも笑顔で接することで、感じの良い人と受け止められ、認めてもらえるようになり、スムーズに仕事が進みます。
③ 仕事が楽しくない・怖い
「仕事が楽しくない」と感じていたり、不満や恐怖心を抱いていたりすると、自然な笑顔がつくれないでしょう。歯科医院では不特定多数の患者さんに対応します。時には身勝手な方やクレーマーなどの対応にストレスを感じる方もいるかもしれません。しかし、笑顔をつくることは「仕事」です。勤務時間中に辛いことがあっても、引きずらないで、次の患者さんには笑顔の表情で接することを心がける必要があります。
また、現状に不満があるなら、問題解決に向けて話し合い、課題を解決する努力が必要です。仕事中に不満を顔や態度に出してしまうのは、患者さんや医師や他のスタッフ達にとっては迷惑といわざるをえないからです。自分の役割や仕事へのプライドをもち、心に余裕をもって、患者さんの対応を楽しむような気持ちで仕事にあたれば、自然に笑顔は生まれてきます。
4.感じの良い笑顔のメリット
接遇で笑顔が重要とされるには理由があり、いくつものメリットがあります。感じの良い笑顔のメリットは以下の通りです。
① 患者さんの安心感が強まる
対人関係で笑顔が重要といわれている理由の一つは、相手に安心感を与えられることです。歯科医院へ治療に来る患者さんは、「痛いのではないか?」「治療期間はどのくらいだろう?」「治療費はいくらくらいだろう?」と、不安や疑問を抱えています。笑顔で対応ができているスタッフには、ベテラン感や余裕のある印象を受けます。笑顔によって、患者さんは無意識下で安心感を覚えるからです。そして、その安心感は心の距離を縮めることにも繋がります。その結果、患者さんは不安や疑問を相談しやすくなります。笑顔で接することにより、患者さんと良い信頼関係を築くスタート地点に立てるのです。
② 患者さんが話しかけやすくなる
笑顔で接することで、患者さんが安心感を覚え話しかけやすくなります。無表情で仕事に当たっているスタッフとにこやかなスタッフがいた場合、患者さんはどちらに話しかけやすいでしょうか。
自身が患者さんの立場に立てば答えは明確ですね。患者さんからのコミュニケーションが増えると、悩みやトラウマも聴くことができるようになります。それは信頼感に繋がります。また、良い治療を受けたい患者さんのニーズが分かれば、さまざまな自費治療の内容や予防歯科の大切さを説明する機会にも繋がります。
③ 院内の雰囲気が明るくなる
笑顔のスタッフが増えれば、院内の雰囲気が明るくなります。笑顔は相手を笑顔にするだけでなく、それを見ている第三者までも楽しい気持ちにする効果があるからです。患者さんに「ああ、良い歯科医院だ」という印象を与えることができるのです。例えばディズニーランドに行った時、キャストの笑顔を見るだけで楽しさやワクワク感が増したという方は多いと思います。ディズニーのキャストは、ゲストの前ではいつも「笑顔の演技」をしているのです。
④ 売上が上がる・リピーターが増える
患者さんと医師やスタッフとの心の距離が近くなると、自然に患者さんが増えてきます。感じの悪い歯科医院よりも、笑顔で親身になって丁寧に説明や治療してくれる歯科医院に通いたい、と思うのは当然の心理だからです。激しい競合の中でも、患者数が増え、リピーターが増えてきます。結果的に医院の売り上げが増え、ボーナスなども増えていくでしょう。
逆に、笑顔がないだけで「態度が悪い」と判断されて、患者さんが中断したり、悪い口コミを書かれたりして患者さんが他の医院へ行ってしまうこともあります。多くのクレームは、治療についてだけでなく、態度に関する不満もセットであることを忘れてはいけません。
5.自然な笑顔をつくる方法
笑顔をつくるための「筋肉ほぐし」と、「自然な笑顔をつくる方法」をご紹介します。
① 表情筋を鍛える
笑顔が得意ではないという方は、表情筋が固まっている場合があります。まずは表情筋をほぐすことからはじめましょう。
ウイスキー体操
口輪筋を意識して、おちょぼ口で「ウ」、笑筋を意識しながら「イ」を発音し、ゆっくりと「ウイスキー」と10~20回繰り返します。「もう、限界!」というくらいまで力いっぱい動かしましょう。入浴中などリラックスしている時間にコツコツ毎日続けると効果的です。
割り箸トレーニング
割っていない状態の割り箸を歯で水平に挟みます。そのまま、口角を割り箸のラインより上に保ち、30秒キープを3セット行います。口角の上がった自然な笑顔を、続けやすくなります。
② 自然な笑顔をつくる
1)患者さんへあいさつのあと、口を(イー)として、口角を上げることを意識する
・おはようございます(イー)
・こんにちは(イー)
・お大事になさってください(イー)
2)鏡で笑顔を確認しながら仕事をする
受付担当の方は、カウンターの中に鏡を置きましょう。トイレの際に洗面所の鏡で笑顔をつくって確認することもおすすめです。「いつも、笑顔にする」という意識をもち続けるのがポイントです。慣れてくると、自然にすぐに笑顔をつくることができるようになります。
3)目元で笑う
口角だけでなく目元が笑っていると、いちばん理想的な笑顔です。慣れないうちは、目を細めることで「目も笑っている」という印象を与えられるので試してみてください。コロナ禍と医療マスクの状態でも、弧を描いたような目の形ができるよう、頬の筋肉を上げる訓練も有効です。
4)口角は左右対称に上げる
口角は、片方だけを上げると嫌みな笑いに見えてしまいます。普段から噛み癖などがついている方は直すようにしましょう。また、どちらか片方を上げる笑い方が習慣付いてしまっている方は、鏡を見ながら笑顔が左右対称に見えるように練習してみてください。
6.笑顔をキープするポイント
① 気持ちの切り替え
常に笑顔を心がけるには、気持ちの切り替えが重要です。気持ちの切り替えが上手い人は、無駄なストレスを溜め込まない傾向があるといいます。家の玄関を出る時やタイムカードを押して持ち場につく時などに、心の中で「さあ、仕事だ!」とスイッチを入れると、メリハリをつけて働くことができます。
また、ミスや問題があった場合でも、ショックや落ち込んだ気分や表情をいつまでも引きずらず、気持ちを切り替えて、次の患者さんに笑顔であいさつしましょう。
② 仕事も患者さん対応も楽しむ
心と体は繋がっています。仕事が楽しくないと思えば、その気持ちは表情に表れてしまいます。逆に、楽しいと思って仕事にやりがいをもって働くと、自然に患者さんに感じの良い笑顔ができます。患者さんからどんなスタッフに見られたいか、どんな医療人になりたいかなど、目標をもって業務にあたりましょう。担当業務のスキルアップと同時に、患者さんへの接遇を楽しんで行うことで自身のやりがいもアップします。
④ いつも見られている意識をもつ
患者さんからも院内の仲間からも、常に見られているという意識をもちましょう。しかし、あまり意識しすぎてしまっては、こわばった表情となってしまいます。あくまで、「こんな表情なら話しかけやすいかな」というような感覚で、自然な笑顔をつくりましょう。
④ 他のスタッフの笑顔をお手本にする
笑顔は自分だけでなく相手も、それを見ている第三者をも笑顔にする効果があります。笑顔をつくることが苦手だと感じる人はお手本のスタッフを決めておき、その人の笑顔を真似してみましょう。 他の人の笑顔を見ることで、自分も笑顔になりやすくなります。そして、笑顔で患者さんに接しようという気持ちになり、自然に笑顔が生まれ、自分も次第に楽しくなってくるはずです。
⑤ 仲間に指摘をしてもらう
人見知りや恥ずかしがりやの方など、どうしても他人の前で笑顔をつくるのが苦手な方は、同僚や先輩に「笑顔であいさつできていなかったら教えてください」と頼んでみましょう。笑顔は大事な仕事です。さまざまな工夫や努力をして、患者さんから「感じ良い」といわれるスタッフになって、一人前の医療人を目指しましょう。