インプラント治療の主流が外科主導型から補綴主導型に変わった現在において、とくに機能性を求められる臼歯部は何を重視して治療に臨むべきだろうか。
筆者は、既存骨を最大限に利用した低侵襲かつ短期間の “患者主導型のインプラント治療” を選択すべきであると考えている。本稿では、いま注目を浴びている患者主導型インプラント治療「4S-concept」に則り、インプラント治療を行った症例を供覧する。
初診時資料
患者は68歳男性。#46のクラウンが脱離し、前医にてインプラント治療を勧められ、紹介来院した。遠心根は明らかに破折しており、保存不可な状態であった。
初診時の口腔内初見。
デンタルX線所見では遠心根に明らかな破折線を認め、術前のCT所見では遠心根舌側に骨吸収像を認めた。
術前のデンタルX線とCT所見。
骨質はType2であることが予測されたため、ドリリングを最小限にかつ十分な初期固定を得るためにはL-2ポジションが適応であると判断した。また、#46は若干近心傾斜していたため近心根抜歯窩を拡大形成し埋入することとした。
初期安定を得るための下顎大臼歯抜歯窩へのインプラントポジションの分類。「ワイド・ショートインプラントの基礎と臨床 第5世代のインプラント治療」より画像引用
4S-conceptに則ったインプラント治療
以下に、術前から術後までの一連の治療内容を示す。
1. 抜歯
まずは歯根分割をし、出来るだけ既存骨及び周囲組織に損傷を与えないようにヘーベルを用いて慎重に抜歯を行った。
オペ当日の咬合面観では、遠心根舌側に破折線を認める(左)。歯根分割後の咬合面観(右)。
抜歯直後の咬合面観(左)。抜去した歯根(右)。
抜歯後は、3mm Round Diamondと鋭匙を用いて、十分に抜歯窩の掻爬を行った。
鋭匙は十分に切れる物を用いる。
2. 起始点のマーキング
起始点は3mmのRound Diamondを用い、根間中隔近心面やや舌側寄りに設定した。それにより、近心根抜歯窩拡大形成を行っていく。
起始点は、スクリューホールが中央窩にくるイメージであった。
3. ドリリング
Initial shaperにて埋入の方向を決定しながら、3mmほどドリリングを行った。この時が最初に術野の骨質を感じる時である。本ケースにおいては骨質を硬めに感じ、Type2であると判断した。
今回はDensah Burのパイロットドリルを用いた。
今回はDensah Burを使用した。
Densah Burのパイロットドリルを1200rpm / 正回転にて、頬側歯肉縁から14mmの長さでドリリングを行った(インプラント体の長さ8.5mm+頬側歯肉縁から4mm+Vertical over preparation 1.5mm = 14mm)。
その後、Densah Bur VT1525(2.0)は正回転、それ以降は逆回転 1200rpmでドリリングを行った。骨質が硬いのでより頻繁にドリルを上下動作させ形成窩の冷却に努めた。
今回はDensah Burのパイロットドリル(左)と、Densah Bur VT1525(右)を用いた。
続いてVT3545(4.0)の逆回転 1200rpmでドリリングを行った。ドリル径が太くなるとより冷却を十分に行う必要があり、径が太くなるにつれバーが硬い骨に押されて流れやすくなる。そのため中央窩にスクリューホールが来るように意識し、VT4858(5.3)まで、逆回転 1200rpmにてドリリングを進めた。
VT3545(4.0)での拡大(左)と、VT4858(5.3)での拡大(右)。根間中隔が裂開することなく徐々に遠心に拡大されている様子を見ることができる。
VT4858(5.3)まで拡大を行い、MegaGen社製AnyRidge直径6mmのインプラントで十分な初期固定が得られるだろうと判断した。
「ワイド・ショートインプラントの基礎と臨床 第5世代のインプラント治療」より画像引用
最後はSelection Guide Drill 6mmを用いてインプラントのスクリューホールが中央窩のところに来るように1200rpmにてドリリングの方向を修正し形成を終えた。
ドリリングの前後の写真。Densah BurのOsseodensification効果により根間中隔を裂開することなく遠心に拡大し形成を終えた。
4. インプラント体埋入
AnyRidge直径6mm長さ8.5mmのインプラントを頬側歯肉縁下4mmの深さにプラットホームが来るようにスクリューホールの位置を意識しながら埋入を行う。
AR W6.0 L8.5、ITV 120N、ISQ 88/89
VR作製のためアンダーカットを付与したPEEKアバットメントを装着し、ギャップに骨頂の高さまで骨補填材を填入した。その後、骨補填材が漏れないようにコラテープで被覆した。
骨補填材は骨頂の高さまで填入する。
5. プロビジョナルクラウンの装着
3つ折りにしたシールテープに穴を開けたものをかぶせ歯肉縁形態に合わせシーティングした。PVR(プロビジョナルレストレーション)を作製するにあたりクリアランスを確保するようにPEEKアバットメントの削合を行った。
ホール部分には寒天印象材を入れている。
あらかじめ事前に準備しておいたPVRのシェルを即時重合レジンにてウォッシュした。硬化した後、対合歯とは咬合接触させないように咬合調整を行い、咬合面に透けた寒天印象材の色を目安にスクリューホールをラウンドバーにて開けPVRの着脱ができるようにした。
シェルはあらかじめ事前に準備しておいた。
PVRを口腔外で修正している間はヒーリングアバットメントを装着し、骨補填材がホール内に入るのを防いだ。
完成したPVR。スクリューホールは予定通り中央窩の位置にきている。
術直後のデンタルX線所見及び術直後のCT所見では、Vertical over preparation を行うことにより埋入深度のコントロールを行うことができた。
術後経過
オペ後、6週でISQを測定したところ埋入時よりは低下しているものの76~84で安定しており、粘膜治癒を十分と判断しそのまま光学印象を行った。術後9週で最終上部構造をスクリュー固定で装着した。
最終補綴物装着時。
最終補綴物装着後の X 線所見。
***
このように4S-コンセプトに基づき、十分な初期固定が得られる抜歯即時埋入が行わられれば即日PVRの装着が可能となり、患者の治療期間中のQOLの低下を防ぐことができる。また、手術回数も1回で済み上部構造をわずか9週で装着できる低侵襲でかつ短期期間治療つまり、患者主導のインプラント治療が可能であると考える。
本稿が少しでも読者諸氏の参考になれば幸いだ。
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