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臨床 2024/12/03

山田翔先生が あらゆるう蝕予防に ついて徹底解説!「キシリトール」のホントのトコロ

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・山田翔先生が解説!エビデンスに基づく、キシリトールのホントの効果とは

妊婦さんにキシリトールガムを噛んでもらうことは子どものう蝕を減らす?効果的な食べ方って?

 

この記事は、口腔衛生・予防歯科-概論-

 

はじめに

これさえ使えばむし歯にならない!

 

そんな魔法のような方法があったら良いのにと、僕は子どもの頃から思っていました。ですが歯科医師になり、う蝕が多因子性疾患であることを知り、それは現実的ではないことを学びました。

 

う蝕を防ぐには、ときに集団それぞれに、そしてその人それぞれに合わせて対応していく必要があります。

 

そのための知識として、う蝕予防のためにこれまでどんな試みがなされ、現在までにわかっていることは何かを整理しなければなりません。

 

まず、先に大きな答えをいってしまえば、現在のところ「う蝕を防ぐ」とはっきり述べることができるのは、「フッ化物」だけです。それ以外のものは基本的に効果が認められないか、研究が不十分な状況です。

 

ですが、その現状とこれからはどうなのか。本連載ではそこに焦点を当ててみたいと思います。

 

 

最初のテーマは「キシリトール」

僕がう蝕予防を学び始めたのはスウェーデンですが、キシリトールはお隣のフィンランドが発祥です。ムーミンもスウェーデンではなくてフィンランド。マリメッコもフィンランドです。

 

なんの話だっけ。そうでした、キシリトールでした。

 

キシリトールは1890年にドイツ人科学者エミル・フィッシャーが甘味料として発見しました。ってことはドイツ発祥…あぶない、また脱線するところでした。

 

う蝕予防の研究を最初に行ったのが、フィンランドのトゥルク大学のカウコ・マキネン教授。1975年のことです。

 

僕がスウェーデンの短期コースを受けて意外だったことの一つが、キシリトールについてはあまり前向きな言及がないといいますか、それほど重要視していないような感じがしたことです。

 

そこからう蝕学について学んでいくうちに、キシリトールについても適切な認識で国内に発信していく必要があると思うようになりました。

 

 

キシリトールがう蝕を減らすってホント?

まず、現在の知見を整理するのに便利なのが、キシリトールに関するコクランレビュー1)です。

 

意外なことに、キシリトールガムについては適切なデザインの研究がなく、歯磨剤にキシリトールを配合したものについてだけ質の低いエビデンスが得られ、「キシリトールそのものの効果については確固たる結論を下すことができなかった」という内容となっています。

これは、ガムを噛むこと自体がう蝕予防効果を発揮している可能性がある2)のに、キシリトール無配合のガムを噛んでもらうプラセボ群が設定されていないことが多いためです。

 

このコクランレビュー以降もキシリトールの研究は行われており、発祥の地であるフィンランドのトゥルク大学で今年出されたシステマティック・レビュー3)では、もう少し好意的な表現がなされています。ですが、採用された研究の質の問題点は同様に指摘しており、適切なデザインの研究はいまだ不足しているのが現状です。

 

日本国内では、妊婦さんにキシリトールガムを噛んでもらって子どものう蝕を減らす試みが紹介されることがありますが、その根拠となる研究4)も、対照群はガムを噛まない群で設定されており、キシリトール無配合のガムを噛ませる群との比較はしていないため、純粋にキシリトールの効果を評価することができません。

 

また、アウトカムを「簡易培養検査によるミュータンス連鎖球菌の量」でみており、「う蝕の発生」でみているわけではないことにも注意が必要です。加えて現在のう蝕学においては、ミュータンス連鎖球菌の存在がう蝕の発生と必ずしも関連するわけではないことが示されています。

 

この研究では、1日4回以上、1回5分間以上キシリトールガムを噛むことが指示され、キシリトールを5〜10g摂取するという介入を行っていますので、ちょっとガムを噛んでみようという一般的な感覚とは異なります。この研究で示されることに限定して考えれば、得られた結果がキシリトールによるものかどうかははっきりせず、う蝕が減るかどうかはわからないということになります。

 

キシリトールがう蝕を減らすってホント?

 

 

1)Riley P, Moore D, Ahmed F, Sharif MO, Worthington HV. Xylitol-containing products for preventing dental caries in children and adults. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Mar 26;2015(3):CD010743. doi: 10.1002/14651858.CD010743.pub2. PMID: 25809586.

2)Machiulskiene V, Nyvad B, Baelum V. Caries preventive effect of sugar-substituted chewing gum. Community Dent Oral Epidemiol. 2001 Aug;29(4):278-88. doi: 10.1034/j.1600-0528.2001.290407.x. PMID: 11515642.

3)Pienihäkkinen K, Hietala-Lenkkeri A, Arpalahti I, Söderling E. The effect of xylitol chewing gums and candies on caries occurrence in children: a systematic review with special reference to caries level at study baseline. Eur Arch Paediatr Dent. 2024 Apr;25(2):145-160. doi: 10.1007/s40368-024-00875-w. Epub 2024 Mar 2. PMID: 38430364.

4)Nakai Y, Shinga-Ishihara C, Kaji M, Moriya K, Murakami-Yamanaka K, Takimura M. Xylitol gum and maternal transmission of mutans streptococci. J Dent Res. 2010 Jan;89(1):56-60. doi: 10.1177/0022034509352958. PMID: 19948944.

 

キシリトールガムのう蝕予防効果について徹底検証!

一つの研究論文だけで判断するものではありませんから、他の論文も見てみましょう。

 

産後3ヶ月の母親への介入で、その子どもの5歳時点でのdmftを調べた研究5)がフィンランドで実施されています。比較は、クロルヘキシジンバーニッシュおよびフッ化物バーニッシュでの介入を行った群となされており、やはりプラセボ群の設定はないのですが「キシリトールガム群が5歳時点でdmftがもっとも少ない」つまり「もっともう蝕が少ない」結果となりました。

 

しかも、その減少率は70%と表現されています。

 

それだけみれば「キシリトール、半端ねぇって!」となってしまうかもしれませんが、残念ながらこの研究も脱落が多く、盲検化が不十分であったり、キシリトールガム群以外の群もキシリトールガムを噛んでいたり、その他の交絡因子を調べていなかったりと、かなり偏りの大きい内容となってしまっています。

 

同様の研究はスウェーデンでも行われており、こちらは産後6ヶ月からクロルヘキシジンやフッ化物もガムに配合する形で介入がなされました6)

 

キシリトールガム群のガムには1個あたり650mgのキシリトールが含まれていましたが、クロルヘキシジン配合ガムにも533mg、フッ化物配合ガムにも289mgのキシリトールが含まれていました。

 

結果は、キシリトールガム群の子どもが4歳時点でもっともう蝕が少なく、フッ化物配合ガム群がもっともう蝕が多くなっています。

 

ガムを噛むこと自体は、すべての群の母親に行っていますので、キシリトールの含有量および摂取量の差とみることもできるかもしれません。ただし、子どもたち自身に実験外でどのような介入が行われていたかは調べられておらず、交絡因子の調整はなされていませんから注意が必要です。

 

こんな研究には要注意!

 

 

また、先ほど紹介した日本の研究では、妊娠6ヶ月から産後9ヶ月まで介入が行われていますが、フィンランドとスウェーデンの研究は産後の介入であるため、妊娠中からの介入が子どものう蝕を減らすかどうかはやはり不明です。

 

コクランレビューには、妊娠中や産後直後の母親にどのようなアプローチをすると子どものう蝕を抑制できるかを調べたものもあり、2024年5月に更新されました7)。その結果は、食事と授乳に関するアドバイスをすることで早期小児う蝕(ECC)のリスクがわずかに低下する可能性があるという中程度の確実性のエビデンス得られ、他の介入のエビデンスは確実性が低いか非常に低く、どのような状況で効果的かを判断するには不十分というものでした。

 

キシリトールに関する検証には、上記のフィンランドとスウェーデン研究も含まれていますが、バイアスのリスクが高く、効果は非常に不確かとしています。

 

また、キシリトール製品の研究で厄介なのが、その製品をどのように調達するか、という点です。残念ながら多くの研究で企業から資金提供、もしくは試験品の提供を受けているため、それが大きなバイアスのリスクとなってしまいます。

 

このように、キシリトールはう蝕予防に可能性を感じる結果を示す論文もあるものの、その解釈に注意が必要なものが多く慎重な姿勢を示さざるを得ないのが現状となります。

 

 

 

5)Isokangas P, Söderling E, Pienihäkkinen K, Alanen P. Occurrence of dental decay in children after maternal consumption of xylitol chewing gum, a follow-up from 0 to 5 years of age. J Dent Res. 2000 Nov;79(11):1885-9. doi: 10.1177/00220345000790111201. PMID: 11145360.

6)Thorild I, Lindau B, Twetman S. Caries in 4-year-old children after maternal chewing of gums containing combinations of xylitol, sorbitol, chlorhexidine and fluoride. Eur Arch Paediatr Dent. 2006 Dec;7(4):241-5. doi: 10.1007/BF03262559. PMID: 17164069.

7)Riggs E, Kilpatrick N, Slack-Smith L, Chadwick B, Yelland J, Muthu MS, Gomersall JC. Interventions with pregnant women, new mothers and other primary caregivers for preventing early childhood caries. Cochrane Database Syst Rev. 2019 Nov 20;2019(11):CD012155. doi: 10.1002/14651858.CD012155.pub2. Update in: Cochrane Database Syst Rev. 2024 May 16;5:CD012155. doi: 10.1002/14651858.CD012155.pub3. PMID: 31745970.

 

キシリトールの摂取が心疾患と関係する?

最近では、キシリトールの摂取が心疾患と関係するのではないかとする記事も話題になりました。

 

しかし、これはガムなどではなく飲料にキシリトールを配合したものでなされた研究8)が元になっていて、アウトカムも心血管イベントではなく血中濃度でとられており、一つの論文の中で基礎研究と組み合わさっているなど、とても違和感のある論文です。

 

こうした情報も、記事を鵜呑みにしたり講演などで聞いた話をそのまま受け止めたりするのではなく、一次情報を確認することで初めて気付けることだと思います。

 

そう、この記事も当然僕の主観が入ったものであり、信じるか信じないかはあなた次第…。い、いやそう書くとあまりに怪しい感が出過ぎますが、ぜひ参考文献もみなさんの目で確認してみてくださいね。

 

キシリトールの摂取が心疾患と関係する?

 

 

8)Witkowski M, Nemet I, Li XS, Wilcox J, Ferrell M, Alamri H, Gupta N, Wang Z, Tang WHW, Hazen SL. Xylitol is prothrombotic and associated with cardiovascular risk. Eur Heart J. 2024 Jul 12;45(27):2439-2452. doi: 10.1093/eurheartj/ehae244. PMID: 38842092.

 

まとめ

最後に、キシリトールの臨床における捉え方をお伝えします。

 

先に紹介したトゥルク大学での最新のレビューにおいても述べられていますが、キシリトールの効果がみられるのはある程度う蝕の多い集団、そしてリスクの高い個人に限られます

 

そして、仮に今後質の高い研究で効果が支持されるとしても、プラークコントロールと食習慣、フッ化物と組み合わせて応用されるものです。いずれにしても、こうした基本的な対策が優先されることに変わりはありません。

 

キシリトールがう蝕の原因にならないことは示されていますので、すでに摂取する習慣のある遊離糖からの”置き換え”は有効でしょう。

 

しかし、例えば幼いお子さんにご褒美でキシリトールタブレットを与えるようなことはおすすめしません。

タブレットタイプでの予防効果の根拠はガム以上に不十分ですし、「ご褒美に甘いもの」という行為は食行動の観点から問題があることが示されています9)から、積極的にしてほしい行動ではありません。

 

キシリトールの臨床における捉え方

 

 

「はっきりした根拠はなくても、やって良さそうなら全部やればいいじゃないか」というご意見もあるかもしれません。

 

ですが、人間そんなにあれもこれも実行できるものではなく「キシリトールを使ってるからちょこっとくらいこれはサボってもいっか」というように油断しがちなものです。

 

運動した後はラーメン食べちゃってもいいかなってなるじゃないですか。

えっ?ならない!?

……。

 

いずれにしても、まずは科学的根拠のある有効な方法を徹底することから。

 

でも、ちょっとこれからの可能性も感じてみたい。次回からもいろんな材料、方法を検討していきたいと思います!

 

9)Steinsbekk S, Barker ED, Llewellyn C, Fildes A, Wichstrøm L. Emotional Feeding and Emotional Eating: Reciprocal Processes and the Influence of Negative Affectivity. Child Dev. 2018 Jul;89(4):1234-1246. doi: 10.1111/cdev.12756. Epub 2017 Apr 25. PMID: 28439888.

 

この記事は、口腔衛生・予防歯科-概論-

執筆者

山田 翔の画像です

山田 翔

歯科医師

たけのやま歯科 院長

愛知学院大学歯学部を卒業後、愛知県日進市にたけのやま歯科を開院。子どもの頃の将来の夢は「むし歯をなくす歯医者さんになること」。地域の子どもたちの口腔の健康を守るためにカリオロジーをベースとした保健活動と診療を行い、他職種も参加する勉強会「以心塾」を設立。近年はオンラインでの発信、口腔機能の調査・研究、資料作成なども行っている。

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