弘岡秀明先生は、歯学部卒業後、開業医を経てスェーデンに渡り、イエテボリ大学歯周病科にて学位を取得。帰国後はご自身の主宰するコースを始めとする講演を通じて、日本の歯周治療の向上に関する教育・啓蒙活動に尽力されています。
ダイジェスト
帰国後の活動について
留学の後半からは、歯周病患者にどのようにインプラントを応用するかに最も興味をもち、これが自分のやりたいことだと思うようになりました。帰国後はインプラントを教えるコースをもつ予定でした。しかし、帰ってみると、歯周病の患者が溢れていました。インプラントの前にまずはペリオだ、ということで、藤本研修会の中にペリオコースを作っていただきました。5年やらせていただきましたが、たくさんの受講生に日本全国から来ていただきました。コースでは400ほどの論文を扱っていますが、1年ごとに自分でももう一回勉強させてもらっている気持ちです。
歯科医師に求める学び
すべての歯科医師が“名医”である必要はないが、“良医”である必要があると考えます。必ずしなければいけないことは必ず行い、してはいけないことはしない。これはどういうことかというと、エビデンスベースの治療を行うということです。6割でも十分だと思います。歯科医療を仕事に選んだということは、一生勉強しなければならない職業を選んだということです。学びを止めるという時遠いうのは、その仕事を辞める時です。そのぐらいの覚悟でやるべきで、勉強しない歯医者は歯医者と呼んでほしくないです。よくどの論文が大切ですか?と聞かれることが多いですが、3分間に1本論文が出るような世界で、全部に目を通すことは不可能です。大切なものが何か、それがたぶん6割で、それを知っていれば、エキスパンドすることができると思います。それがないと、患者さんに治療するとき、不安でしょうがないですね。
著書『コレクテッドエビデンス』について
リンデ教授の部屋に『Scientific way』という本がありました。文献のタイトルと内容と結果、そして教授の意見がまとめられており、それが教科書になっていました。その後、世界中でベストセラーになりました。必要な論文がすべて網羅されているわけですから。帰国後コースを始めたときに、講義に来られていた東北大学の中村先生が、僕のスライドを書き留めてくれていました。どういう実験で、どういうマテリアルで、どういう結果で、僕の意見はどうかという小冊子を作ってくれていました。それをそのまま出版しましょうよ、という流れになりました。ベストセラーになるかは分かりませんが、とても幸運な機会に恵まれました。
日本の歯科界の課題
歯科医院数とコンビニの数が比較されることが多いですが、ナンセンスだと思います。治療が必要であれば、コンビニより多いことに何の問題もありません。歯周病患者は日本人の6割とも8割とも言われています。スウェーデンは1974年に保険制度が歯科に導入されましたが、歯周病もカリエスも感染症だということが分かっていましたから、最初から一次予防が保険の中に導入されました。予防に成功して歯が残った結果、高齢になってから歯科治療が必要になり、歯医者が足りなくなっていると聞いています。あとは、インプラント。インプラントの勉強も大事ですが、国民の大多数は歯周病に罹患しているわけですから、勉強の量はそちらに割く方が良いと思います。
今後の目標
リンデ教授は80歳になっても講義もしているし、リサーチも行っていました。歯医者が好きなんですね。僕が所属している東北大学の教室でも新しい器具などを盛んに作っています。いつか日本発の治療を世界に出していけるかもしれない。そういうところに足を置いていることが、自分の新しいステップの目標ですね。走れるときに走る人たちが多く周りにいて、その人たちの後を追っているわけなので、自分もそうありたいと思っています。32本もあるものが、80、90歳まで生きてくわけだから、それに何もないなんてことはまずないから。僕らはそれを何とかしてあげる職業です。「歯科医師」なんだから。そうすると仕事が減ることもないし、患者さんから感謝し続けられます。日本の歯科医療の未来はもう...incredible(信じられないほどの可能性を秘めています)!
動画本編
後編『歯周病専門医として』
Contents
00:06 帰国してからの活動
03:35 歯周病専門医としての信念
04:45 若い歯科医師に求める学び
07:06 著書 コレクテッドエビデンスについて
09:53 日本の歯科界に対する憂い
13:30 今後の目標
15:35 日本の歯科医療の未来は明るいですか