ある調査では、要介護の高齢者のおよそ5人に1人(18%)に摂食嚥下障害がある、とされています1)。また、要介護・要支援の認定者数は666万人(第1号被保険者のみ / 2021.2現在)であり2)、そのうちの18%と試算しても、摂食嚥下障害の患者数は約120万人にのぼります。
その中には、経口摂取が難しいだけでなく、声を出せない方もおられます。のどのがんや気管切開など、さまざまな理由で声が失われているのです。
開発者の戸原玄先生(東京医科歯科大学摂食嚥下リハビリテーション学分野教授)は、20年以上にわたり摂食嚥下障害に向き合ってきました。
たくさんの「声を出せなくなってしまった方々」との出会いから、口の中で音を鳴らし、話すように口を動かすことで、「声」を出すことやコミュニケーションをサポートする「Voice Retriever(ボイスレトリーバー)」の開発が進められています。
開発者の戸原玄先生(前列中央)、山田大志先生(左端)
Voice Retrieverで「声」を取り戻す!
声は、声帯で作られた原音が、のどを通過する際に音色(母音や音の高低)を変え、口の動きでアクセント(子音)をつけて言葉として発せられます。そのため、声帯が失われると、いくら口を動かしても「話す」ことが叶いません。
「声」を出し、「話す」までの流れ
Voice Retriever は、「声を取り戻す」ことへの願いを込めて名付けられました。声帯から発話する能力を取り戻せるものではありませんが、自身の声で話す体験に近い発話や会話ができる機能を備えた器具を目指して、開発と改良が重ねられています。
使い方はいたって簡単です。マウスピースで前歯の裏側にスピーカーを仕込み、外部の音源をそのスピーカーにつないで、口の中で音が鳴っている間に口を動かして話します。
Voice Retriever 試作機のほぼ完成品バージョン(特許出願済)
現在、試作機はほぼ完成し、かなり自然な発声が出せるようになりました。口が動かせる方であれば、装着直後からうまく使える方がかなり多いことも特徴の1つです。そして、声を取り戻した喜びから、一瞬で雰囲気が明るくなった患者さんが増え始めています。
開発者コメント
Voice Retriever を使ってお話ししています
声が出せずお困りの方、多くいらっしゃると思います。「Voice Retriever」はまだ改良中ではありますが、口が動かせる方なら、かなりうまくいくと思います。できるだけのことをさせていただきたいと思います。
一日でも早く、多くの方々の「声を取り戻し」、そして今まで考えもしなかったくらいの「楽しい時間」を作るために、私たちは走り続けます。
歩みだしたばかりの「Voice Retriever」に、皆さまからの応援とご寄附を、どうぞよろしくお願いいたします。
2021年9月29日
東京医科歯科大学 摂食嚥下リハビリテーション分野
戸原玄/山田大志
歯科の未来を応援!
現在、Voice Retriever は、ひとつずつ手作りで作られています。研究開発に必要な機器を揃え、まずは実証実験、そして機器の改良と、より「自由な」発声のために、皆様からのご寄附を募っています。
Voice Retriever の詳細と、クラウドファンディングへのご参加はこちらから。私たち歯科医療従事者の力で、歯科の未来を応援しましょう!
Voice Retriever は、歯界展望(医歯薬出版)でも取り上げられる予定です(歯界展望11月号(138巻5号))。
歯界展望はこちらからご購入いただけます。
出典
1:平成17年度北海道健康福祉部「要介護高齢者に対する摂食嚥下障害者対策実施調査」
2:厚生労働省「介護保険事業状況報告月報(暫定版)」平成12年4月分~令和3年2月分
歯科クラファン募集
WHITE CROSSは「歯科医療の社会的価値を高める」をVisionに掲げ、2016年に立ち上がりました。私たちは一人でも多くの患者さんが笑顔になり救われる未来、そして、歯科医療従事者の未来を応援しています(掲載には一定の審査がございます)。
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執筆者
WHITE CROSS編集部
臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。