この記事のポイント ・舌清掃を行う患者が増えているが、健常者における舌清掃が細菌数に及ぼす影響についての報告はさまざま。 ・今回は歯周炎患者が舌清掃を行った際の、細菌数や舌苔量の変化を調べた研究に着目。 ・研究結果から舌清掃と歯周炎に関連性はないことや、歯周病治療をしない限り細菌数の減少を望めないことが示唆された。 |
はじめに
以前と比べ、患者自身の口腔内への関心は増しており、通常のブラッシングだけでなく、舌の清掃を日常的に行う患者もいるだろう。舌清掃が口臭の予防になるといった報告などもあり、患者へ舌清掃を薦めているドクターもいるだろう。
今回は、歯ブラシならびに舌ブラシによる舌清掃が、口腔内の細菌数に影響与えるかを評価した論文を紹介する。
※本記事は、Perio Box における4枚のスライド投稿をベースとしている。Perio Boxでは4枚のスライドで掲載しているが、WHITE CROSS読者用に一部テキストベースにて紹介する。
今回紹介する論文
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本論文を選んだポイント
① 無作為化臨床試験である。
② 舌は歯周病原細菌のリザーバーとなるのかに着目している。
論文の背景と概要
舌苔は口臭の主な原因として知られており、剥離した上皮細胞や血液成分、細菌、食物残渣で構成されている。健常者における舌の清掃が細菌数にどのように変化をもたらすかについては、減少するという報告もあれば、変化しないとする研究も存在する。また、歯周炎患者への非外科的歯周治療が、舌のコロニー形成単位に影響を与えなかったことも報告されている。
しかしながら、歯周炎患者が歯ブラシや舌スクレーパーを用いて舌の清掃をした際の、口腔内の細菌数や舌苔の量の変化を調べた研究は存在しない。
研究デザイン
除外基準に、喫煙者、舌清掃器具の使用、過去6ヶ月以内における抗菌薬服用、過去3年以内における歯周治療の既往等がある。舌苔の量は2通りの方法でスコアリングされている(The Miyazaki tongue-coating index + The Winkel tongue-coating index)。
群分けはランダム化で行われ、それぞれの清掃器具による舌の清掃指導を受け、14日後に再評価を行った。スケーリングやTBIなどの治療は行わず、舌清掃以外の習慣的な口腔衛生習慣は、研究期間中には変えないよう指示された。
結果
TS群:舌ブラシ使用 TB群:歯ブラシ使用
ベースラインにおけるPPD、BOPの値は両群で有意差は認められなかった。
検査した嫌気性菌のほぼ全菌種で、舌清掃前後での細菌数の差は認められなかったが、唾液中のT. forsythiaのみ、ベースライン時と比較し、14日後に有意な減少が認められた。
抄読ドクターからひとこと
口腔由来の口臭と聞くと、まず歯周炎と舌苔が原因として考えられるが、その2つに関係はあるのか気になる内容である。舌は湿潤状態やその形態から細菌が生存しやすい環境となっており、歯周病原細菌のリザーバーとなる可能性が考えられる。本論文はそうした観点から、歯周炎と舌の清掃に着目したわけだが、結果は影響がないことが示唆されるものであった。
結局のところ、歯周病治療をしない限りは細菌数の減少を望めないということなのだろう。歯周炎治療後の細菌数などを評価項目に入れたりすると、もう少しディスカッションができそうである。研究デザインやサンプル数に少々疑問はあるが、舌苔がきれいになったからと言って細菌数が減っているわけではないことは知識として知っておくべきであろう。
他の論文は、Perio Box アプリで
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