神奈川県横浜市の緑区に位置する鴨居。国内二番目の人口をもつ横浜都市圏であり、東京都内へ多くの市民が通勤・通学する首都圏有数のベッドタウンである。
その鴨居の駅前、活気ある商店街の一角に、長く地域に愛される歯科医院がある。浅野歯科は、昭和40年代に開設され、医療法人の他に学校法人と社会福祉法人もグループに持つ歯科医院だ。
WHITE CROSSでは、医療法人財団共生会理事長・浅野倉栄先生に、「令和の新時代に花開く歯科医師像」について伺った。
臨床家として、教育者として
ーー学校法人や福祉法人を運営する歯科医療法人は、めずらしいですね
衛生士学校が31年目、技工士学校は43年目となります。
当時歯科は1日に100〜200人が押し寄せる「むし歯の洪水」と呼ばれた時代で、新横浜はまだ野原でしたが、歯科が忙しくなることを感じた先代が歯科専門学校を開きました。
社会福祉法人を開設し、特別養護老人ホームの運営を始めたのは、ちょうど介護保険がスタートした時期だったと思います。
確かにこういった法人は全国的にも珍しいかもしれません。しかし、時代のニーズに沿ったら、至って自然な選択だったと考えています。
ーー浅野先生のキャリアについて教えてください
1993年に大学を卒業して、保存修復学で学位をとり、大学に数年勤務をしました。
その後地元に帰って初めて、高齢者に対する歯科治療や訪問歯科のニーズを感じたんです。 出身は保存修復でしたが、すぐに老年歯科医学会に入り、学びました。認定医・専門医を取得し、介護施設で摂食嚥下の評価に介入しています。
学校法人の理事長職を引き継いでからは、歯科大学、衛生士学校、技工士学校と教育に携わっていますね。
入学式の挨拶をする浅野倉栄先生
時代のニーズに対応するということ
開業医であり教育者でもある先生から見て、歯科医師の将来をどのように思いますか?
「歯科医院はコンビニより多い」は、もはや使い古されたワードになっていますよね。
確かに、従来型の診療所の過多は否めないかもしれません。一方で、疾病構造やニーズの変化により、患者さんの口腔を生涯にわたり管理する時代になってきました。これは外来診療に限らず、在宅医療でも同様です。求めがあった時に出向く往診から、スケジュールを決めて伺う訪問診療が増えてきました。
そういった観点からすると、今後の歯科医療が社会に提供すべき機能は拡大の一途であり、その担い手である歯科医師と歯科衛生士は圧倒的に不足していると言わざるをえません。 かかりつけ歯科医機能強化型診療所や、外来環境体制、SPTなどは患者さん目線で見ると非常に良いシステムなのに、まだ着手していない医院も多いようです。
また、先日有名人が舌がんに罹患したことで、それをきっかけに大勢の患者さんが歯科医院を訪れました。
本来であれば、歯科業界が情報発信をし、定期的に管理しておくべきことです。まだまだ努力不足だと感じましたし、やはり外来に来るような顕在化した患者さんはごく一部だということです。潜在的な患者さんを救うことも私たちの責務ではないかと思っています。
私の医院には、VE(嚥下内視鏡検査)の依頼が、医師会の訪問介護ステーションや介護施設から毎月何件も来ます。この領域のニーズは拡大する一方だと思います。
患者さんも医科も、歯科を求めているんですね。
教育の最前線から若手へのメッセージ
診療や経営でお忙しいと思いますが、なぜ教鞭もとっているのですか?
歯科医師も、歯科衛生士も、歯科技工士も、大事な歯科医療職です。未来を担う若い人たちに、 歯科医療の素晴らしさや重要性を伝えたいと思っています。
これが、私が学校法人の理事長職に就く一番の理由です。
その一方で、若い人に触れることは、実はとても自分の勉強になっているんですね。地域で開業医をしていると、どうしても視野が狭くなりがちです。教育者でいることは、伝え方や自分のアウトプットを常にフレッシュな状態に保つ努力が必要なので、そういう意味で若い人から学ばせてもらってもいるんです。
先生の指導医としてのポリシーを教えてください
大学や学校に頻繁に出入りしていますので、若い人に比較的近いところがあります。誤解を恐れずに言えば、他の先生より“バカ”に慣れているんです。ですから、目線を合わせてトコトン付き合うスタンスです。
今の学生は大変だと思います。自分たちのときは臨床実習が多かったんですよね。
今は国試の合格率が落ちているので、目的が試験合格にどうしてもなるわけです。合格率が低い狭き門を突破しているから、知識レベルは全然問題ないのですが、医療人に必要な常識やコミュニケーション能力がどうしても不足しがちです。
誰もが経験が少ないところからスタートするわけです。はじめはバカでもいい。それを真摯に受け止めて、できないことを取り繕うのではなく、受け止めてレベルアップしたいと思える方と仕事がしたいですね。
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