・歯科界では何かと比較される機会が多い、日本と海外の歯科医療。近年の海外のセルフケア事情はどうなっている? ・欧米諸国ではむずかしい、日本だからこそできる理想的な予防歯科のあり方に迫る! |
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はじめに
歯科界では何かと比較される機会が多い、日本と海外の歯科医療。中でも欧米諸国で規定されている基準や考え方については、あらゆるセミナーや書籍で紹介されることが多く、日本の歯科医療従事者にとって臨床のヒントとなるエッセンスが多く含まれている。
今回は、スイスに本社を構える株式会社クラデンジャパン(以下、クラデン社)代表の池亀友氏に、海外のセルフケア事情について伺った。欧米諸国に何度も訪れた池亀氏だからこそわかる、ありのままの海外事情を紹介した上で、そこから学ぶべき日本の予防歯科のあり方について一緒に考えていきたい。
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“FLOSS OR DIE"はもう時代遅れ?!近年の海外のセルフケア事情とは?
アメリカでは1998年、“FLOSS OR DIE”という国民に大きなインパクトを与える広告が出された。皆さんの中にもワードとして聞いたことがある方は多いのではないだろうか?
この広告は、歯周病予防のキャンペーンで作られた広告で、フロスをしていないと口腔内細菌が身体のさまざまな器官に悪影響を及すため、フロスを使ってブラッシングをしようという内容が記載されている。
当時の"FLOSS OR DIE"の広告
しかし2000年に入って間もなく、米国心臓病学会はこの広告の内容を真っ向から否定。2017年11月には、アメリカ歯周病学会(AAP)とヨーロッパ歯周病連盟(EFP)共催のワークショップが米国シカゴで開催され、そのワークショップで得られたコンセンサスをもとに作られたEFPのガイドライン1)では、以下のように歯間ブラシによる歯間部清掃が推奨されている。
歯肉炎がある場合、専門家は患者に対して、できれば歯間ブラシ(IDB)を使用した歯間部清掃を指導するべきである。IDBの使用が適切でない場合は、臨床医が他の歯間清掃器具や方法の提案を行うだろう。
When gingival inflammation is present, inter-dental cleaning, preferably with interdental brushes (IDBs) should be professionally taught to patients. Clinicians may suggest other inter-dental cleaning devices/methods when the use of IDBs is not appropriate.
そのためヨーロッパでは、歯間ブラシが歯間清掃用具の第一選択と考えられてきているが、日本においては、まだまだ歯間部清掃に対する知識や情報がアップデートされていない状況が散見される。
東京医科歯科大学名誉教授の田上順次先生は、このガイドラインについて、以下のように語っている。
2017年に開催された「歯周炎の分類に関する世界ワークショップ」では、歯周炎という疾患の程度と範囲だけでなく、複雑さの程度や個人のリスクについても言及されていた。これを受け、欧州歯周病学会連盟(EFP)は、本臨床治療ガイドラインを策定した。GRADEという手法によるもので、信頼性の高い(S3)ガイドラインである。
このガイドラインでは、治療の種々の段階での治療方法や、SPC(歯周病安定期のケア)における対応について、どの程度の強さで推奨されるかが、エビデンスの質をもとに提示されている。現代における、歯周病の治療と予防に関する最新のデータに基づく信頼性の高い指針であるといえるだろう。
ここでは、SPC中の歯間部のプラークコントロールに関して、「歯間ブラシの使用」が最高位の推奨(Grade A)となっている。一方興味深いのは、「デンタルフロスの使用」については、歯周病安定期のケアにおいての歯間部清掃の第一選択としては推奨しない(Grade B)としていることである。デンタルフロスと歯間ブラシの選択について、EFPとして明確に示したもので、我々としても即座に臨床に反映すべき内容である。
クラデン社では毎年、セルフケア用品の売上についての市場調査を実施。2022年のデータによると、一般市場における歯間ブラシとフロスの売上は、それぞれ80億円と70億7,000万円で大きな差はない。一方、歯科医院市場においては、歯間ブラシが27億2,000万円、フロスが13億3,400万円と売上額に2倍以上の差が出ている。
セルフケア用品の売上【単位:百万円】(2022年株式会社クラデンジャパン調べ)
この結果から、歯科医院市場では歯間ブラシの重要性が認知されてきているものの、一般市場にはまだ伝わり切っていないということが読み取れるのではないだろうか。ここに関しては、歯科医院だけでなく歯科企業からの啓発も今後の課題として挙げられるのかもしれない。
欧米諸国では、なぜ高濃度のフッ化物配合歯磨剤や洗口剤が簡単に手に入れられる?
近年では日本国内外問わず、さまざまなセルフケア用品が販売されており、多くの消費者が歯科医院以外の場所でも簡単にセルフケア用品を購入することができる。
特に欧米諸国においては、日本だと歯科専売品として取り扱うような製品でも、スーパーやドラッグストアなどで手に入れることができ、高濃度のフッ化物配合歯磨剤やフッ化物洗口剤、クロルヘキシジン配合洗口剤等が販売されている。
例えばフッ化物配合歯磨剤の場合、日本では1,450ppmFがもっとも高濃度の歯磨剤として販売されているのに対し、欧米諸国では5,000ppmFの歯磨剤が、しかもドラッグストアで販売されている。
さまざまなセルフケア用品の濃度の比較
では、なぜ欧米諸国では、そんなにも高濃度のセルフケア用品を手軽に手に入れられるのだろうか。その理由の一つに、欧米諸国では、歯科医院で処方されたセルフケア用品をドラッグストアで購入するということが習慣化されている国が多いということが挙げられる。
それに対し、歯科医院で指導したセルフケア用品を、患者にその場で購入してもらうというモデルが、古くから確立されている日本の歯科医院。そんな日本だからこそ提供できる予防歯科が、きっとあるに違いない。
日本だからこそできる理想的な予防歯科のあり方に迫る!
日本において、セルフケア用品を歯科医院で購入する患者が増えていることはご存じだろうか?
前述したクラデン社が行った市場調査によると、歯ブラシの歯科医院市場は年々増加の傾向を辿っており、2022年時点で全体の2割以上を占めている。
歯ブラシ市場の推移(2022年株式会社クラデンジャパン調べ)
このことからは、院内で処方される歯ブラシの需要が高まっていることが伺えるのではないだろうか。
先述した通り、日本では患者が歯科医院でセルフケア用品を購入できる環境が整っており、質の高いプロケアとセルフケアを両立させやすいと考えられる。しかし欧米諸国に比べると、根拠のある濃度で製品化されているセルフケア用品は少ない。したがって、化学的アプローチが十分に効果を発揮できない可能性がある分、機械的アプローチの重要性がより高くなってくるのかもしれない。
SPTやP重防が保険算定できるようになった現代では、日本ではメインテナンスを比較的安価で受けられる。欧米諸国では日本の約3〜5倍ほどの費用がかかるため、患者負担は先進国の中でも圧倒的に低い。それならば、日本だからこそできるところに目を向け、プロケアおよびセルフケアで徹底的な機械的アプローチを行えるよう、努めていくことが重要ではないだろうか。
日本だからこそできる予防歯科の特徴
先生方の歯科医院では、患者にどのようなアプローチをしていきたいか、今一度考えてみていただきたい。
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